第4話
(ど、どうしてこんなことに……!?)そう思いながら彼女を見つめているとふと視線を感じて下を向いた瞬間、俺は思わず絶句してしまった……なぜならそこには大量の血を流して倒れているフィリアがいたのだから……!
「――っ、貴様ぁっ!」怒りに身を任せながら剣を抜き斬りかかろうとするも、それを読んでいたかのように避けられてしまい逆に殴り飛ばされてしまうのだった。殴られた頬を抑えつつもすぐに立ち上がり再び剣を抜こうとするも、既にそこに相手の姿はなく背後から声が聞こえてきた為振り返ってみるとそこにいたのはなんと倒れたはずのフィリアであったのだ!俺は混乱しながらもどうして生きているのか聞いてみることにしたのだが答えは返ってくることは無く変わりに衝撃的な事実を告げられることになるのだった。
「無駄だよ、その子は既に私のモノなんだから♪」
「……なんだと?」意味が分からず困惑していると彼女は驚くべき行動に出たのだ!なんと自らの唇を嚙み切った直後、流れる血を飲ませ始めたのである!最初は必死に抵抗していたものの次第に力が抜けていったのか最後は虚ろな瞳でこちらを見つめるだけだったがそれも長くは続かず意識を失ったようだ。
そしてようやく解放された頃には傷は塞がっており顔色もすっかり良くなっていたがその表情はまるで人形のような生気を感じさせないものになっておりそれを見ていた俺は呆然としてしまう事になったのだ……だがしかしそれでも何とかしなければという思いが強かったのだろう、すぐさま彼女に駆け寄るとその体を揺すりながら必死に声をかけ続けることにしたのだった……するとやがて彼女は意識を取り戻し、それと同時に瞳から一筋の涙を流したのだ……それを見た俺は、彼女が助かったのだという事を知り安堵のため息を吐くのだった。そしてそんな様子を見ていたアルテミリナは笑みを浮かべながらこう言ってきたのだ。
「ふふっ、良かったねぇ~? でもまさかあそこまで必死になってるとは思わなかったかな♪……あ、そうだ! もしまだ諦めたくないって言うんだったらチャンスをあげるけどどうする?」そう言われた瞬間、俺は迷うことなく返事を返すのだった。
「……分かった、やろう」そう言った後すぐに武器を構えた俺に対してフィリアは何かを伝えようとしていたみたいだが、その声は届かなかった。何故なら、俺が構え終わると同時に戦闘が始まってしまったからだ……!お互いに譲らない状況が続いたせいか、勝負はなかなか決まらないまま続きとうとうフィリアの限界が来てしまったのだ……だが、その時突然彼女は苦しみだし胸を押さえながら倒れ込んだのだ……!
(一体どうしたというんだ……っ! ま、まさかさっきの血の効果が今になって効き始めたのか!? クソ、こうなったら仕方がない……!)そう心の中で決意した俺は意を決して叫ぶように伝えると驚いた表情のままこちらを向く彼女を見つめながら伝えた。「すまない、先に謝っておく……!」それを聞いた彼女は目を見開きながら何かを訴えかけようとしたようだがそれを遮る形で続けて言葉を発した。
「――本当にすまなかった」そう言いながら剣を振りかざした後そのまま勢いよく振り下ろしたのだ……次の瞬間、鈍い音が鳴り響き同時に俺の腕に強い衝撃が走ったのが分かったがそんな事など気にしている場合ではなかった……というのも彼女の心臓を貫く直前に感じた嫌な感触が頭から離れなかったからである。そしてそれが現実のものとなりつつある事に気付くと俺は慌てて振り解こうと試みたのだがすでに遅かったようで徐々に体から力が抜けていくのを感じつつついに意識が途切れてしまったのだった……
その後意識を取り戻した俺が目にしたのは辺り一面に飛び散った鮮血であった。そしてその傍らには無残な姿に変わり果てた勇者パーティーの姿が……つまりこれは全て自分がやったのだと理解すると共に後悔の念を抱くようになったのである。何故ならこの中にはかつての仲間が含まれていただけでなく、一緒に旅をした記憶までもがあったからこそ余計に辛い気持ちになってしまったからである……
「……ごめん、みんな」
こうして俺は新たな旅に出ることになったのだがそれは同時に孤独の旅になるという事を改めて自覚することになったのは言うまでも無いだろう……だがしかしそれでも諦めるわけにはいかなかったので気持ちを切り替えて歩き出す事にしたのだった……例え一人だとしても歩み続けなければならないと感じたから――
そんな訳で俺は一人で歩く事にしたんだがその道中では様々な魔物と遭遇する羽目になってだな……例えばドラゴンだったり、スライムだったりするんだが、それらは何故か俺に付き纏って来るようになってしまったんだ。最初の頃は戸惑ったりしていたが途中から慣れてきたのもあり放置しておくことにしたんだ……まぁそのせいで大変な目に遭ったりもしたけどな? 特にサキュバスなんかはしつこいくらい迫ってきて正直うんざりしてたので仕方なく始末することにしたんだが、その時にはもう色々と吹っ切れていたせいなのか躊躇いも無く殺す事が出来たんだ……ちなみにその時の様子を近くで眺めていたそいつはドン引きしながら引いていたようだったが……
他にもゴブリンやスケルトンと遭遇した時には、そいつ等が俺に対して攻撃をしてくる事がなかったのでスルーしたんだが、その代わりに後ろから付いてきたせいで無駄に時間が掛かったりと苦労したものだった……だが、それでもめげずに歩き続けた結果ようやく人通りの多い場所にまで到着する事が出来た。それからというものの俺は早速宿を取りに向かったんだが、その際の出来事についてここで話すとしよう。
――数時間後「ここが今日泊まる事になる場所か……結構立派じゃないか」そう言いながら俺は部屋の中へと入っていくことにしたんだ。そして荷物を置いた後でベッドに腰掛けたタイミングで部屋のドアがノックされる音が聞こえたので返事を返すとどうやら誰かが訪ねてきたみたいだったので出迎えてみるとそこには一人の少女がいたのだ……そう、何を隠そうそこにいたのは先程助け出したばかりの聖女だったのだ……!驚きのあまりしばらく見つめている事しか出来なかった俺であったがなんとか平静を取り戻すとそのまま部屋に入れてあげる事にした。しかし何故わざわざここに来たのか分からなかった為聞いてみたところ返ってきた言葉は予想外の物だった……なんと俺の話を聞きたいというのでどうしたものかと思っていると不意に服の裾を掴み上目遣いをしながら『だめ……ですか?』と聞いてきたのだ……当然そんな姿を見せられたら断れるはずもなく受け入れることにしたのだが、その瞬間に嬉しそうな表情を浮かべていたのでこれで良かったのだと思った俺はさっそく質問してみる事にしたんだ。
まず最初の1つ目はなぜ俺の事を知りたいのかと尋ねると彼女は真剣な表情になったかと思うと小さな声で答えた。「……実は私、貴方のことをもっと知りたいと思ったんです」それを聞いて内心疑問を感じたもののとりあえず話を進めることにする事にしたんだ。すると彼女は続けてこう告げた。「だって貴方は今まで会ったどの男性よりも優しくて強くて頼りがいのある方なんですから……♡」それを言われた瞬間思わず固まってしまう事になったが、それを見て不安そうな表情をされてしまった為すぐに我に返った俺は慌てて返事をした。
「そ、そっか……! なら良かった!」若干しどろもどろになりつつもどうにか答える事が出来た俺はホッとすると同時に、彼女が言った事について考えることにしたのだった……(どうして急にそんなことを言い出したんだろうか……? いやそもそも今のやり取りの中でそんな事を思う要素あったか?)そう思い悩んでいた俺だったが、ふと視線を感じて顔を上げるとフィリアがこちらをじっと見つめていたのだ……その視線はまるで俺の事を見定めているような雰囲気を醸し出しており、それに気圧された俺は冷や汗を流してしまうことになったのだが彼女は気にする素振りも見せずただ見つめ続けていたのでこちらも負けじと見返してみたものの何秒経っても視線が外れることは一度も無かったのだ……なのでこのままでは埒が明かないと判断した俺は思い切ってこちらから話し掛けてみる事にしたのだった。すると意外なことに彼女の方から声を掛けてきて、その内容は俺の素性や目的などに関する事だった。そこで全てを打ち明けることを決めると包み隠さず話すことにしたんだがやはり気になる所があるらしくそれについて聞いてこられたため答えようと考え込んでいると不意に視線を感じそちらを見るとそこにはいつの間にかフィリアの姿があった。
「どうしたんだ?」そう聞いてみるも返事が返ってくることは無かった……いや、正しく言えば無視していたと言う方が正しいのかもしれない。何故なら今の彼女は無表情のままジッと俺のことを見つめていたからだ。その様子を見た俺は思わず困惑してしまったのだがそれも束の間のことであり、今度は逆に彼女が話しかけてきたのだ。しかもその内容とは衝撃的なものだった為さらに動揺することになってしまうのだった……というのもなんと彼女はこう言ったんだ。「私が貴方を守ってみせます♡」それを聞いた俺は一瞬何を言っているのか理解に苦しんだがすぐに我に返るとすぐさま言葉を返した。
「え、えーと……」戸惑いながら戸惑っているとフィリアは再び口を開くのだった……「――安心してください、私はどんな敵が相手でも負けませんから♪」
その言葉の意味は理解出来なかったものの一つだけ分かったことがあるとするならば、それは彼女が本気でそう思っているという事だ。なぜならその瞳には嘘偽りなど一切無いように思えたからだ……だからこそ俺は彼女にこう言うのだった。「ありがとう、嬉しいよ」すると彼女は笑顔でこう返してくるのだ。「どういたしまして♡」その言葉を聞いた俺は内心で苦笑しながらもどこか安心感を覚えていたのである……なぜならこの時既にフィリアの事を気に入ってしまっていた為なのかもしれないと、後になってからそう思うことになるなんてこの時の俺には知る由も無かったんだ……
こうして新たな仲間が加わったことで戦力が強化された俺たちはその後も次々とダンジョンを攻略していく事になったわけだが中でも一番厄介だったのはやはりアンデッドたちだろうか。奴らは常にこちらを警戒して襲ってくるからな、その度に苦労する破目になるんだよ……だから何度も撃退している内にコツを掴んできたこともあって今ではそれほど苦戦することもなくなった。まぁとは言っても楽になったというわけではなく、油断すればすぐ囲まれて大変な目に遭うこともあるんだけどな? そんなこんなで順調に進んでいきいよいよ最深部と思われる場所へと辿り着いた訳なんだが、その場所は他と比べても異様なまでに広大で禍々しい雰囲気が漂っていたんだ……というのもその理由は恐らくこの空間の中心にいる奴のせいだろうと考えた俺達は気を引き締めながら慎重に進んでいく事にした。するとその時、奥の方から微かに声が聞こえてくることに気付いたので耳を澄ませていると突然聞き覚えのある声が聞こえてきたのでよく目を凝らしてみるとそこにはかつて魔王城で死闘を繰り広げた四天王の一人にして最強の戦士――魔剣の担い手ことゼオンがいた!その姿を見るや否や反射的に構える俺達に対して奴はこちらに気が付くと笑いながらこう言ってきたんだ……『クハハハッ、ようやく現れたか勇者パーティーの諸君』そしてそのまま戦闘に突入した後に激戦を繰り広げる中ある事実を知った。なんとそれは目の前にいるゼオンこそが今回の事件の首謀者であるという事実だった――
「――それで結局お前は一体なんの為にこんなことをしたんだ……?」戦いが終わり一先ず休憩をしていると唐突にゼオンがそう言ってきたので理由を説明する為に今までの経緯を話すことにしたんだ……まぁその際にフィリアに口止めすることを忘れなかったんだがな?そうして話し終える頃には全員が静かに聞いていたこともあり沈黙が続いていたのだが、そんな中ついに奴が動き出しやがった……!
『……成程、事情は理解した。だがしかし、だからと言ってお前達がやっていることが正当化されると本当に思っているのか?』その言葉にどう答えたものか悩んでいると今度は聖女が前に出て話始めたんだ。「……確かに貴方の言う事はもっともです。私達は多くの命を奪ってしまいましたからね」そう言うと再び沈黙が訪れたので次に動いたのはルインであり奴に向かって問い掛けたんだ――「なら貴方はどう思うんですか?」それに対しゼオンは少し考えた後でこう答えた。
「――正直どうでもいい、と言いたいところだが生憎今の俺はこの状態だからな。よってここは一つ賭けをしないか?」『賭けだと?』俺がそう聞き返すと彼は頷きつつ続けた。「あぁそうだ、今からここでお前と勝負をする。もしも俺が勝てばここから出してもらおう。そして万が一にも負けた場合は大人しく出て行く事にするとしようじゃないか」それに対して最初は難色を示していた俺だったんだが最終的に承諾することになったので、さっそく開始することにしたんだがこれが思いのほか難航する事となった。
何しろ互いに互いの戦い方を知り尽くしているので中々隙を見出すことが出来なかったのだが、その中で最初に攻撃を仕掛けてきたのは意外にも聖女の方で俺は咄嗟に剣で受け止めてしまったことから、そのままつばぜり合いの状態になってしまったんだが彼女の力が想像以上に強かった事で次第に押されていった結果最後は吹き飛ばされてしまった……そしてそれを見ていたゼオンの奴はすかさず追撃しようと向かっていったので慌ててフォローしようとした俺だったが、ここで信じられない出来事が起こった……!なんと聖女の奴、あろう事か自分から攻撃を受けて後ろに飛ばされるような形で距離を取ることになったのである。その結果ゼオンが無防備の状態で立っている状態になるという好機を逃すはずも無く、ここぞとばかりに攻撃を仕掛けた彼女は遂に彼を追い詰めることに成功したんだ!そして――『……参った、降参だ』その声と共にこの戦いに決着がつくことになった。それからすぐに聖女の攻撃によって倒れ伏した彼に対して俺は急いで駆け付けると、心配そうにしながらも治療を始めたのだった……
「それにしてもどうしてあそこまで戦ったんだ?普通ならあの場面なら逃げていたと思うんだけど……」そう聞くと彼女は答えた。「だって貴方を置いて逃げることなんて出来るわけが無いでしょう?それにあの時貴方に言われなかったら私の本当の気持ちに気付く事も出来なかったのですから」それを聞いて俺は驚いてしまったが同時に嬉しくなったのも事実であった……何故ならそれが彼女の本心だったからに違いないと感じたからである!しかしその直後、突如として何者かが近づいてくる気配を感じたので慌てて立ち上がると聖女の手を取り身構えたのだが現れたのは予想もしていなかった人物だったので、思わず言葉を失ってしまうのだった……というのもその人物というのが何と、俺のかつての仲間達だったのだ……!何故こんなところにいるのか不思議で仕方なかった俺だったがそれを聞く間もなく、一人の女性が進み出るなり話し掛けてくるとこう言ったのだ……「久し振りですね、元気そうで何よりです」その言葉に対し俺が返答できずにいると彼女は続けてこう告げるのだった。
「実は私、あれから自分のやってきた事が正しかったのかどうか悩んでいたんです。けれど最近ようやく踏ん切りがついたのでこうして会いに来たのですが、その様子を見る限りだと何か変化があったようですね?」そう言われて思わずドキッとしてしまったもののなんとか誤魔化しつつも、なぜここが分かったのかと聞いてみたところ返ってきた言葉は驚くべき物だった……! なんでも彼女達はこの世界とは違う次元にある別の世界にいたらしく、ある時偶然にもこちらの世界の様子が映し出された映像を見ることになったらしく、そこに映し出されていたのはなんと俺自身の姿だったと言うのだ!つまりどういう事かというと……どうやら奴らは俺のいる場所に狙いを定めてやって来たということらしい! それを聞いた俺はすぐに問い詰めようとしたがその前に思わぬ所から声が上がった事により中断されることとなった――「……やっと見つけましたわ、お兄様♪」その声の主を見て驚きを隠せなかったがそれ以上に信じられなかったことがあったためついこう聞いてしまった。「……まさかお前がここにいるとは思わなかったよ、ユア……!」――そう、そこには俺の妹であり今は魔王をやっている少女こと【神野結亜】の姿があったのだ……
第9章終わり 第10章に続く……
突然姿を現したかと思えば俺の事を兄と呼ぶ少女が現れたことで動揺していると、そんな俺を余所に彼女はゆっくりとこちらに向かって歩いてきてこう言ったんだ……「お久し振りですね、お兄様♪ずっと探していたのですよ? でもこうしてまたお会いすることが出来てとても嬉しいです♡」その言葉を聞いた俺は困惑しつつもこう尋ねたのだった。「……なんで今更そんなことを言ってくるんだ? 今まで散々放っておいておいて今になって姿を見せるとはどういうつもりなんだ?」するとそれを聞いた彼女の表情は曇ってしまい、それを見た俺はすぐに後悔した……何故なら彼女が今にも泣き出してしまいそうな表情を浮かべていたのだから……。
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