第2話


――俺の名前は桐ヶ谷和人――

ごく普通の高校生だ。

今日も学校を終え家に帰る途中、家の近くのスーパーへ寄ってから帰宅するところだ。

いつもの様に店内を歩いている時、ふとある物が目に入った。

「なんだこれは……ガチャポン?」

俺は見慣れないその筐体に近寄ってみた。どうやらくじが入っているようで、その中には何やら可愛らしいイラストが描かれた紙が数枚入っていた。

「何々……?〝あなただけのキャラをゲットせよ〟だと……?」

ゲームの説明を読むとどうやら、自分の引いたくじに書かれたキャラや武器等を、ゲーム内の世界に存在するガチャの中から召喚出来るようだ。しかし一体誰が考えたんだろうか……

正直あまり気は乗らないが、とりあえず一回だけ引いてみようと思う。もしかしたら欲しいキャラが出てくるかもしれないしな。まあ、どうせ何も当たらないんだろうけど……そう思いながら適当にくじを引いてみたのだが、出てきたものはとんでもないものだった。「……おいおい嘘だろ!?」

なんと俺の目の前には、伝説の剣や防具等がズラリと並んでいるではないか。それも一セットだけではなく数セットも。しかもそれが無料で手に入るかもしれないなんて……!まさに棚からぼた餅だ! そんなことを考えていると、後ろから誰かが近づいてくる気配を感じた。まさか俺以外にもこんな趣味を持つ人がいたのか?そう思って振り返るとそこには……なんと女神が立っていたのだ。そう、俺を転生させた女神様が……ん?おかしいぞ?確かあの女神様は俺の事を「異世界で好きに生きていい」的なことを言っていたが、あれはもしかしてこういうことだったのか!?いやいやまて、まだそうと決まったわけではないはずだ!ここは一旦落ち着こう……深呼吸して……ふぅー、よしっ!!もう一度振り返ってみよう。

やはり間違いない!この目の前の女は紛れもなく女神様だ!あの特徴的な金髪、吸い込まれるような瞳、透き通るように白い肌、それに服の上からでもわかるあの巨乳……もう間違い無い!!「やっと会えましたね……」おっと危ない、つい本音が出てしまったぜ……それにしてもなぜ彼女がここに?「お久しぶりです、ユウキさん……」ああ、やっぱりそうだ、この感じはあの時と同じだな……「ユウキさんは覚えているでしょうか、私と話したあの日のことを……」うん、覚えてるよ……「そうですか、それなら良かったです……」あの女神が何か言いづらそうにしてるが、何かあったのだろうか……?「それで、ですね……」どうしたのだろうか、なかなか話が進まないみたいだ。すると彼女は意を決したように口を開いた。

「……ユウキさんの寿命なのですが……」「……えっ?」……一瞬聞き間違えかと思った。だが彼女はそんな俺を見てこう言ったんだ。「あなたの寿命が残り少ないんです……」………………はっ?ちょっと待て、どういうことだ、意味が分からない。確かに俺の余命はあと1年と言われているが、それはあくまで医師に診断されたもので、実際にいつ死ぬのかは分かっていない。だから急に余命が少ないと言われてもどう反応すれば良いのかわからない。

「つまり、俺は明日にでも死ぬって事なのか?」俺は震える声で尋ねた。彼女は申し訳なさそうに頷くだけだ。そして少し間を置いた後再び口を開いた。「……実は私のミスなんです……あなたには私の加護の他に、もう一つ能力を与えていたのですが……それをすっかり忘れていて……」なるほど、そういうことか……なら仕方ないよな……ん?ちょっと待ってくれ。それってかなり大事なんじゃないか!?

「……おい女神様よぉ……あんたのうっかりで俺の人生終わりって訳かい……?」思わず口調も変わっちまったじゃねえか……「……すみません……」ったく、まじでふざけんなよ!俺は怒りに任せて大声で怒鳴った。

「あんたいい加減にしろよ!俺の人生がかかってたんだぞ!?なんで勝手に決めちゃうんだよ!ふざけんじゃねえ!!」はぁ……はぁ……と、とにかく今は落ち着いて話の続きを聞こう……「本当にすみませんでした……謝って済む問題ではありませんが……本当にごめんなさい……!」今にも泣き出しそうな勢いだったのでさすがにこれ以上言うのは止めておいた。

そして落ち着きを取り戻した女神様はこう言った。「……では改めて、本題に入らせていただきますね……」彼女の言葉に耳を傾ける俺。すると次の瞬間衝撃の言葉が聞こえてきたのだ。「今からユウキさんには異世界へ行ってもらいます。そこで新しい人生を始めてもらう事になりました。ちなみに異世界へ行く際に年齢や性別などは変わりませんので安心なさってください。それと、向こうへ持っていけるのはあなたが元々所持していたアイテム類だけですので注意してくださいね」なるほど、そういう仕組みになっているんだな……あれ?でもそれだと一つ問題がある気がするんだが……「……なぁ女神様、質問なんだが……例えば俺が死んだ後でその異世界に飛ばされた場合、どうやって異世界から地球に戻るんだい?」そう言うと彼女は驚いた様子でこちらを見ていた。……なんだ、なんか変なことでも言ったか?いや、ただ単に異世界転移した後の事が気になって聞いただけなんだが……

「……さすがです……よく気が付きましたね。実を言うと私が与えたもう一つの能力とは、その異世界にある『異空間魔法』を使えるようになる力だったのです……ですがその事は秘密にしておいてくださいね?」もちろん誰にも言うつもりなど無いが……しかし異空間魔法を扱えるってことはあれもこれも可能になるわけか……そう考えるとワクワクしてきたぜ!おっと、忘れるところだった……「ところで、その世界に魔王とかいるんだよな?」せっかく行くんだから魔王くらいは倒したいところだぜ!「はい、魔王はいますよ?」そうか!なら問題ないな!早速準備を始めるとしよう……そう思った俺は早速行動に移すのだった……「それでは転送を開始します……」女神様がそう言うと辺りが眩い光に包まれた……

気が付くとそこは、どこかの森の中のようだった。周りには木がたくさん生えているな……「さてと、まずはここがどこなのかを確認しなければ……」俺はとりあえず近くにあった湖を目指して歩いてみることにした。しばらく歩いていると大きな湖が見えてきた。綺麗な水だし魚もいるみたいだし飲み水に困ることは無さそうだ……ん?待てよ、今俺は喉渇いているんだったよな?ならばやることは一つしかないだろう……そう思い立った俺は勢いよく湖の水を飲み干した。するとどうだろう、喉が潤っていく感覚があったかと思えば次第に体が軽くなってきたではないか……!これが噂の異世界補正ってやつか……!!これならいくらでも飲めそうだ……!そう思ってさらに飲んでみるものの何故か空腹感が増してきたではないか。

不思議に思いステータス画面を開いてみるとHPという項目が増えておりそこには【空腹度】【渇水度】と表示されていたのだ。おそらくこの二つが原因なんだろうと思い色々試してみると、空腹度に関しては食事を取るか睡眠を取ることによって回復し、渇水度の方は水を飲むことによって回復することが分かった。

試しにもう一度川の水を飲んでみたが特に変化はなかった為、きっと水の種類による違いは無いんだろう。それからしばらくの間水辺周辺を調べてみたが、他にめぼしいものは見当たらなかった。……まあ当然といえば当然だが、これだけじゃ退屈してしまうよな……そう思っていた時突然近くの茂みから音がしたと思ったらそこから小さなウサギが出てきたんだ。どうやらこいつを倒せば経験値が手に入るらしいのだが……あいにく俺には武器が無いため素手でやるしかないのだが、果たしてこいつに勝てるだろうか……そんなことを考えていても仕方がないと思った俺は意を決してウサギに立ち向かった!すると案の定攻撃を避けられてしまったのだがその時俺はあるものを目にしたのだ……そう、そのウサギがまるで俺をあざ笑うかのように後ろ足で砂を蹴り上げたのである!その姿を見た瞬間頭に血が上ってしまったのだろう……俺は無意識にそのウサギを追いかけ回していたらしく気づいた時にはもう遅かったんだ……「グエッ!」どうやら追いかけている間に体力が切れてしまったらしく、途中で転んでしまいそのまま動けなくなってしまったようだ……だがしかし諦めるわけにはいかない!なぜなら俺がここで諦めてしまえばもうチャンスは無いからだ……!それに俺のプライド的にもそれは許せない……そう思った瞬間目の前に赤い文字が浮かんできた……!これはもしやスキルを習得した時に出る文字ではないか!?そうとなれば急いで習得せねば……!しかし残念なことに、その文字を読もうとした瞬間に目の前が暗くなっていき意識が遠くなっていくような感覚を覚えたのだ……ああ、これは間違いなく死んでしまったな……そんな事を思いながら意識を失った俺だったのだが次に目が覚めた時に見た光景はとても信じられないようなものだった。なんと見知らぬ少女が目の前にいるじゃないか!まさかこんな形で異世界生活を満喫できる日が来るとは思わなかったな……そんな事を考えていたら彼女が急に話し始めたので慌てて耳を傾けたのだ。「……あっ起きたんだね、お兄さん♪大丈夫だったかな……?」彼女が心配そうに聞いてきたが正直言って驚きすぎて言葉が出てこなかった。なにせ見た目は完全に人間なのだが背中には大きな翼が生えていたのだから……「どうしたの?具合でも悪いの……?」いけないいけない、このままでは彼女に心配されてしまうからな……そう思って必死に誤魔化そうとしたのだがやはり動揺を隠しきれなかったようで逆に彼女を心配させてしまったみたいだ……

とりあえずここは何か言わなければいけないと思い咄嗟に出てきた言葉を口にする事にしたんだ。

「……だ、大丈夫だよ……君があまりにも綺麗だったからつい見とれちゃったよ……!」それを聞いた彼女は顔を赤くしながら恥ずかしそうにしているようだった。そんな彼女を見ていた俺は更にドキドキしてしまったんだ……「そ、そんなこと言わないでよ……恥ずかしいじゃん……」そう言いながらもじもじする彼女の姿は俺の心を一瞬で虜にするほどに可愛いらしかった……やばい、めちゃくちゃ可愛いすぎるぞこの子……

そんな事を考えているとふと疑問に思ったことがあるんだ。それはこの娘の名前を知らないということだ……さすがに名前も知らない相手と一緒にいるなんて嫌だしどうにか聞いておきたいところだな……そう思った俺は思い切って尋ねてみたんだ。「……あのーすいません、お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」すると彼女は少し不思議そうな顔をした後にこう言ったんだ。「……あれっ?自己紹介してなかったっけ?……うーん……まあいっか!私はフィリアだよ♪」おお!ちゃんと名前も聞けたしこれで少しは仲良くなれる気がするぞ!! そう思いながら心の中でガッツポーズをしていると彼女からある事を聞かれたんだ……

「……ねぇ、どうして貴方は一人で森にいたのかな……?しかもそんなボロボロの状態で……?」あちゃ〜聞かれたくないことを言われてしまったようだな……まあいつかは話すことになると思っていたし仕方ないよな……だがまだ信用していない奴には話したくない……なので適当に誤魔化すことにしよう。「えーと……俺は元々一人旅をしていてだな、それで疲れて眠ってしまったんだが運悪く魔物に襲われてしまって命からがら逃げだしたはいいがそこで力尽きてしまった……という感じだな……」すると彼女の様子がどこかおかしいことに気付いた俺はとっさにこう尋ねたんだ。「ん、どうしたんだい?もしかして疑ってるのかい……?」俺がそう言うと彼女は驚いた顔でこちらを見た後すぐに笑顔になってこう言ったんだ。

「……そっかぁ!なら仕方ないね〜!私も貴方が怪しい人だって思っていたけど勘違いしちゃってたんだもんね〜!」そう言って納得した様子だったので安心したが、同時になんだか申し訳ない気持ちになった……だって、本当は異世界転移しただけなんですから……

「それにしても良かったよー♪このまま起きなかったら私が責任もって面倒見なきゃいけないところだったからね!」それを聞いてドキッとしてしまったがなんとか冷静さを保つことに成功した俺は気になったことがあったので質問してみることにした。「……なぁフィリア、一つ聞きたい事があるんだが……君は一体いくつなんだ?」そう尋ねるとなぜか少し怒った様子でこう答えたんだ。「……女の子に年を聞くってどういうことかな……?」やべえ……完全にやらかしちまった……

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