2日目 「ペスト」②

 昨日、カミュの『ペスト』の序盤の、あまりにも抜群の展開力に驚いてしまったが、小説で何が起きたかをきっちりつかむのはなかなか難しい。今回1部を読んでみたが、早くもよく分からない部分が出てきてしまった。

 具体的に言うと、感染症の患者でベッドが三日でいっぱいになった、という話のあとで、四日間で死者がものすごく増大した、という話が出てくる。

 これは同時並行で起きた話なんだろうか? それとも、三日の間にベッドが満床になって、それから死者が増大した、という話なんだろうか?


 これは翻訳した本という問題もありそうだ。

 実は光文社版を中心に読んでいたら、これがすごく読みやすい。そこでさっきあった、「三日間、四日間」を確かめるべく、新潮文庫版を取り出して確認してみると、なんと光文社には書いていない「翌日」という言葉が載っていたり……まあ、そういう訳の違いが出てきて困ってしまった。


 カミュはフランスの作家で、たぶん『ペスト』もフランス語で書かれた。だから、俺たちが日本語で読むとき、小説の中で書かれた事実が訳者によって解釈されて提出されている。一旦、別の「読者」が読んで手を入れた本を読んでいるってわけだ。

 小説の中で起きた事実が正しければいいが、たとえば光文社と新潮文庫では、最初に亡くなったミシェル(ミッシェル)さんは「管理人」さんと「門番」さんという違いがある。これはかなりむずかしい。最初に訳したときは、アパートとか建物とかの管理するっていう人がいなかったのかもしれない。

 事実は正しいけど、言葉が出てこなかったパターンだ。これは文化が違っていたりして理解が追い付いてきたのかもしれないわけで、訳が下手とするわけにはいかない。



 それじゃ、「事実」をちょっと読んでいこう。

 第一部は4月30日を日付で書いていたが、ここからははっきりと書いていない。ただ、全体で読んでいくと、多分、5月半ばくらい、オラン市が閉鎖するまでが区切りとなる。


 まず、管理人さんが亡くなって、タルーという人の手記に注目。彼は数週間前からオランのホテルに泊まっていたが、実はそのときすでにオランについた日にネズミ騒ぎと熱病持ちの人が亡くなった会話を耳にしていた。


 リューは同じ医師のリシャールに熱病患者の数を聞く。彼も自分の患者がすでに亡くなっていると話す。翌日。自殺未遂をしたコタールのもとで警察と立ち合い。夕方に往診。そこでもさらに患者が亡くなる。年上の医師、カステルと「これはペストだろう」と判断する。(そう、ここで判断しているのだ。)


 夜、窓の外を眺めていろいろ考えていると、市役所職員のグランがリューを訪ねる。

 それから衛生委員会に出席するが、何も決まらず。(もう「ペストだろう」って判断してたのに…)


 翌日の新聞でも扱いが小さい。翌々日、県は世論を安心させる貼り紙を出した。リューはグランと、コタールの様子が変わったことを聞く。午後、カステルと血清の相談。夕方にコタールと会うとたしかに様子がおかしかった。

 さらに翌日、リューは往診していると患者が警戒してあまり話してくれなくなっていることに気づく。カステルがベッドがいくつあるか聞いてくる。三日間のうちに病棟はいっぱいになった。さらに死者が増え始めた四日目に、ついに幼稚園をつかって病院を開設することが報じられる。

 さらにその翌日。血清が飛行機便で到着。数日の間は一旦死者は10人程度に収まるが、またしても30人台に増える。そして、オラン閉鎖が植民地総督府から通告される。



 ここまで。36~96ページだ。

 いや~、事実だけを抜き出しても高まってくる感じがある。が、それは第一部終盤に加速度的に押し寄せてくるものなんですよ。実はリューがいろいろ考えたり、グランという市役所職員がどういう人物なのか、タルーという謎の人物がなにを収集していたのか、コタールとかいうおっさんがなにやら思わせぶりなことをしてきたり、と細かい話が入ってくるので困惑した。

 正直に言うと、そんなものがなくてもペストというメインストーリーがどんどん忍び寄ってきているから、細かすぎると思ってしまった。


 しかし、この部分にこそ、なんかそれっぽい話が詰まってる。

 たとえば、みんな戦争やペストが来ると「ばかげてるから長続きしないだろう」って思うんだけど、それって人間中心主義者(ヒューマニスト)の考え方なんだぜ、と筆者は言う。リューは一応医師として理性をはたらかせて「ペスト」として対応しようと頭を働かせるわけなんだが……。

 これさ、第一部なんだよな。だからひっくり返る可能性が大いにあるってわけだ。

 俺が注目したのは、感染症と並べて戦争を出したことだと思う。つまり、これは並べるものなんだよ。



 今日は外へ本を買いに行ったぞ。ああ、あつ。

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