第84話
アリスはそう言うと、未だ地面に寝転がって寝息を立てているフェリスの肩を揺すりだした。
「お母さん、お母さん、ほら起きて。ほらほら、もう溢れて来ないかどうか確認しにダンジョンに様子を見に行かないといけないからさ。ほらほら、早く起きて」
アリスが未だ目を覚まさないフェリスを激しく揺り動かすと、やっと目を覚ましたフェリスは上半身を起こして両腕を天高く伸ばすと、大きく欠伸をして言った。
「ふぁ~~、ん、どうしたのアリス。あら、ここはどこかしら。アリス何があったか教えてくれるかしら。お母さん、何があったのか全然覚えてなくて。お願いできる?」
アリスは暴走状態から戻って来たフェリスの事を呆れた様な眼差しで見てから、今まで何があったのかを懇切丁寧に説明して行った。
「あのね。お母さんは今まで戦闘欲求にかられてダンジョンからあふれ出て来た魔物の群れ相手に暴れ回っていたんだよ。それで、魔物の群れを全て倒し終わった後、この場所で横になって眠っていたの」
「そうなのね。私、また暴走しちゃったんだ。アリス、迷惑かけちゃってごめんね」
「うんん。いいよ別に。それより、お母さんに怪我がなくて良かったよ」
「うん。アリスも怪我してない。あなた少し我慢する所があるから、少しでも痛い所とかあったらお母さんに言うのよ」
「うん。わかったてる。……それじゃあ、様子を見にダンジョンに行こうか」
十分程歩きダンジョンの入り口付近に辿り着くと、まだ、魔物がちらほらと溢れて来ていた。
未だダンジョンから溢れて来ている魔物を発見したフェリスとアリスは、溢れて来た魔物達を素早く仕留めると気配を極限まで消してダンジョンの入り口に近づくと、慎重にダンジョンの中を伺った。
「今のところ見える範囲に魔物の姿は無いけど、まだ奥の方からビンビン魔物の気配を感じるね。……お母さん、このまま中に入ってみるか、それともここで魔物がダンジョンの奥から溢れて来るのを待って、溢れて来た所を攻撃するか。どっちにする?」
「そうね。ダンジョンの中に入ってダンジョンボスを倒してしまった方が直ぐにこのダンジョンのスタンピードを収束させることが出来るはわ。この入り口に陣取ってダンジョンボスが出て来るのを待っていたら相当な時間が掛かってしまうでしょうし、ええ、やっぱり中に入ってボスを倒して直ぐにスタンピードを終わらせて一刻も早くマスイの街に戻りましょう」
「そうだね。それじゃあ早速ダンジョンの中に入ろうお母さん」
ダンジョンボスが陣取っているダンジョン最奥のボス部屋に向けて歩き出して数十分、フェリスとアリスは道中シルバー級の魔物を倒しながら着実に進んでいると、突如ダンジョン全体が激しく揺れ始めた。
「な、何でしょう。この異常な揺れは」
「そんなこと聞かれても私もわからないよ。でも、ダンジョンの奥の方からこっちに向かって強い気配が近づいて来るのはわかる」
「ええ、そうですね。この気配ですとこの相手は明らかにミスリル級の相手ですよ」
「このダンジョンはシルバー級だからボスはゴールド級の魔物の筈だけど、この様子だと今回のボスは変異種ってことなのかな」
「十中八九そう言うことでしょうね。まあ何にしても私達よりも一等級下の魔物ですからね。油断さえしなければ遅れを取ることは無いはずです。油断せずに迎え撃ちますよアリス」
ダンジョンの激しい揺れが少しずつ治まって来ると同時にダンジョンの奥からドシン、ドシン、と重々しい足音が次第にフェリスとアリスの方に近づいて来た。
そして、二人の目の前に姿を現したのは体長四メートルほどの漆黒の狼、シャドウウルフだった。
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