第85話

  ダンジョンの激しい揺れが少しずつ治まって来ると同時にダンジョンの奥からドシン、ドシン、と重々しい足音が次第にフェリスとアリスの方に近づいて来た。


 そして、二人の目の前に姿を現したのは体長四メートルほどの漆黒の狼、シャドウウルフだった。


 フェリス達の前に現れたシャドウウルフは二人の姿をその瞳に捕らえるとグㇽㇽㇽㇽと唸り声を上げ牙を剥きながら掛けて来た。


「アリス、きっとあのシャドウウルフがこのダンジョンのボスだわ。二人がかりであの魔物に対処するわよ。付いて来なさい」


 フェリスはそう言うとアリスを伴って迫りくるシャドウウルフに向かって駆けだして行った。


 フェリスとアリスは相対したシャドウウルフの右前足での薙ぎ払いの初撃をすれすれのところで限界まで背中を反らすことで回避すると、直ぐに身をひるがえし両腕にロックアームズを展開して殴りかかったが、シャドウウルフは二人の一撃を後方に大きく跳躍することで回避した。


「お母さん、あのシャドウウルフ中々やるね。このまま一緒に攻撃しても今みたいに回避されるだけだと思うから前後でシャドウウルフを挟み撃ちにして戦わない。その方が効率よく戦えるとわたしは思うんだけど」


「そうね。やってみましょうか。それじゃあ、お母さんが前から攻撃するからアリスは、後方から攻撃して頂戴」


 アリスはフェリスの指示に従ってシャドウウルフの後方に回り込むとフェリスとタイミングを合わせてロックアームズによって岩で覆われている腕で同時に殴りかかった。


 シャドウウルフはフェリスとアリスの前後からの猛攻に逃げ道を限定されて徐々に逃げ場を失って行った。


 そして、遂に逃げ場を失ってしまったシャドウウルフは苦肉の策としてダンジョン内の壁を背にしフェリスとアリスに前後で挟み撃ちにされない様に立ち位置を調整して二人と睨み合った。


「アリス、ここからは私達とシャドウウルフの技のぶつけ合いよ。少しでも怯んで相手に隙を見せた方が負けるわ。決して気持ちを切らしてわダメよ。良いわね」


「うん。わかったお母さん」


 フェリスとアリスはシャドウウルフをダンジョンの壁際まで追い詰めた時に破損してしまったロックアームズを一度解除して、もう一度発動させると両腕を打ち付け合って自分に気合を入れつつシャドウウルフを威嚇しながら近づいて行った。


 シャドウウルフは腕を打ち鳴らしながら近づいて来るフェリスとアリスを見て一瞬怯み後ろ足を一歩引いたが、引いた足のかかとがダンジョンの壁に当たると一瞬目をはっ、と見開き次の瞬間、前方のフェリス達を鋭い眼光で睨みつけ唸ると飛び掛かった。


 フェリスとアリスは飛び掛かって来たシャドウウルフめがけてロックアームズで覆われた腕を振りかぶり殴りかかたが、シャドウウルフはフェリス達の拳が自身の横っ面に叩き付けられる直前、ダンジョンの床に出来た影に潜り込んで消えた。


「わっとっとっと、え、急にシャドウウルフが消えちゃったよお母さん」


「アリス、慌てないで集中しなさい。相手はアダマンタイト級のシャドウウルフなのよ。勿論、シャドウと言うのだから影に潜るわよ。どこから出て来るかわからないから背中合わせにして三百六十度警戒するわよ」


 フェリスとアリスが辺りを警戒していると、突如、二人の左側からシャドウウルフが影の中から飛び出て来た。


 影から飛び出て来たシャドウウルフに瞬時に反応したアリスはその場にシャドウウルフを縛り付けるために重力魔法の『グラビティプレス』でシャドウウルフをダンジョンの床に押し付けてその場で動けない様にした。


「お母さん、『グラビティプレス』で動けなくしたから今の内にシャドウウルフに止めを刺して。余り長くはもたないからなるべく早くお願いね」


「わかったわ。任せておきなさい」


 フェリスはアリスが『グラビティプレス』でダンジョンの床に押し付けて動けなくなったシャドウウルフに近づくと、腕に展開していたロックアームズを解除して火魔法の最上級魔法『インフェルノ・ブレイク』の準備を始めた。


 フェリスは『インフェルノ・ブレイク』の魔法陣の準備が整うとその魔法陣を維持し、自分の後方に土魔法でロックシェルターを作り出すとアリスをその中に避難させて自分もシェルターの入り口の近くまで下がると、維持していた『インフェルノ・ブレイク』の魔法陣を起動して発動し、フェリスは急いでシェルターの中へと入って行った。


 少ししてフェリスとアリスがシェルターの外に出てみると、シャドウウルフは跡形も無く消滅していてシャドウウルフが居た場所には大きな魔石だけが残されていた。


「ふう~、お母さん、やっとこのダンジョンのスタンピードを止める事が出来たね。わたし、ちょっと疲れちゃった。後でご主人様に頭なでなでしてもらえるかな。頼んでみよッと」


「そうねぇ。お母さんもアリスと一緒にご主人様に頭を撫でてもらおうかしら。……さてと、アリス、魔石を回収したらダンジョンを出ましょう。その後、外で少し休んでからマスイの街に戻りましょか」


「そうだね。今すぐに休みたいけど、流石にダンジョンの中で休みたくないからね。お母さん、早く外に出よ」 


 そして、二人はシャドウウルフの魔石を回収するとゆっくりとダンジョンを後にした。






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