第71話

 エルクとルリはオーガ達が中層へと戻って行くのを数時間かけて見届けると、その場を後にし、マスイの街へと帰って行った。


 エルクとルリがマスイの街まであと少しと言う所まで差し掛かった時、マスイの街の門の前でマスイの街に駐屯している王国兵や冒険者が忙しなく、色々な物資を街の中から外に運び出して何かの準備をしている光景が目に飛び込んで来た。


 エルクとルリは、忙しなく動き回っている王国兵や冒険者に一体マスイの街で何があったのかを聞くのを諦めて、門番の役割を果たしている兵士に冒険者カードを見せて町の中に入ると、この事態の詳細を聞くために冒険者ギルドへと向かった。


 エルクとルリは、冒険者ギルドに着くと直ぐにギルドの中に入り、受付カウンターに向かうとカウンターの奥にある事務所で忙しそうに書類をまとめていたキイラに声を掛けた。


「キイラキイラ、おーい。俺だ。エルクだ」


「あ、エルクさんにルリさん、無事に戻って来たんですね」


「ああ、まあ、無事って言っても、そんなに大した依頼じゃないけどな。ゴールド級の魔物ぐらいなら片手間で倒すんことが出来るよ。それで、街の中や外で王国兵や冒険者が忙しなく動いて何かの準備をしていたが、一体何があったんだ。教えてくれるかキイラ」


「はい。今回の件は緊急の案件なので、ゴールド級冒険者であるエルクさんとルリさんにも強制依頼が発生しますから説明するのは良いのですが、私はこれからこの書類をギルドマスターの所に持って行かないといけないし、その後も色々と仕事をしないといけないので、今回の件の説明はギルド長室でギルドマスターから聞いていただいても良いですか」


「ああ、わかった。じゃあ、ギルド長室まで案内してくれ。俺達が勝手にギルド長室に押し掛ける訳にはいかないだろ」


「はい。では、ご案内しますね」


 キイラはそう言い脇にまとめた書類を抱えると、エルクとルリを先導しながらギルド長室に向かって行った。


「ギルドマスター、頼まれていた書類をお届けに来ました。それと、ゴールド級冒険者のエルクさんとルリさんが、マスイの街で何が起きているのか説明を求めております」


「そうですか。お二人はもう下に来ているのですか」


「えっと、その、会われるのなら早い方が良いと思いまして、もうお連れしています。ダメだったでしょうか」


「……いいえ、構いませんよ。では、入って下さい」


 エルクとルリはギルドマスターであるビアンカの許可を得て、キイラに扉を開けて貰いギルド長室に入った。


「ようこそお出で下さいました。では、早速話をしましょう。お二人とも、そちらのソファーにお掛けになって下さい」


 エルクとルリは、ビアンカに勧められるがままソファーに座ると、ビアンカも対面のソファーに座りキイラに人数分のお茶を頼むと話し始めた。


「先ず、結論から申し上げますと、……スタンピードが発生しました」


「スタンピードだと、何時、どこのダンジョンがスタンピードを起こしたんだ。このマスイの街の辺りには遠いいダンジョンと近いダンジョンを合わせると、数十個はあった筈だ。ブロンズ、シルバーのダンジョンか、まさか、ゴールド級やミスリル級のダンジョンじゃないだろうな」


 エルクがビアンカにそう聞くと、ビアンカは静かに首を横に振り、こう告げた。


「いいえ、エルクさん、今あなたが挙げたダンジョンのどれでもありません」


「どれでもない。ま、まさか、今回スタンピードを起こしたダンジョンって言うのはアダマンタイト級ダンジョンなのか。この辺りでアダマンタイト級ダンジョンと言えば一つしかない。ルリ、お前が居た『神狼の住処』だけだ。ギルドマスターそれであっているか」


 エルクがビアンカに尋ねると、ビアンカは静かに首を縦に振った。


「しかし、今のあのダンジョンの名称は『神狼の住処』ではない様です。エルクさんもご存じの通り、ダンジョンの名称はダンジョンの入り口の近くに立てられている看板に書かれています。そして今、『神狼の住処』だったダンジョンの看板に書かれている名称は『煉獄龍の猛威』となっています。ところで、先程、エルクさんが気になる事を言っていたのですが、ルリさんが『神狼の住処』に居たというのは、どう言うことでしょうか。良ければ教えて頂けませんか」


「あ、はあ~、ルリ、すまん」


「別にいいわよ。それに、ビアンカもサブマスターのスーシャもキイラも信用できるいい人達よ。教えても大丈夫よ」


「そうか、……そうだな」


 そして、エルクはルリが『神狼の住処』の最下層に居たフェンリルである事、ルリは最初っからちゃんとした自我があり、自分のスキルで仲間にして一緒に地上に出て来た事をビアンカに話した。


「成程、納得出来ました。ですが、最後にルリさんがフェンリルである事を確認させてもらえませんか。私の立場としてはどうしても確認しておかなければならないんですよ。お願いできませんか」


 ビアンカの願いを聞きルリは、自分の右腕だけをフェンリルの足に変化させてビアンカに見せてあげた。


「ビアンカ、これで良いかしら」


「ええ、確認が取れたし、もう大丈夫ですよ。ありがとう。それで、話は変わりますが、あなた達もゴールド級冒険者としてスタンピード鎮圧に力を貸してはもらえないかしら。参加した冒険者は全員だけれど、相応の報酬を用意します。お願い出来ますか」


「ああ、良いよ。でも、二つだけ条件がある」


「条件ですか、何でしょう。叶えられる範囲の事でしたら叶えましょう」


「ああ、先ず一つ目、このスタンピード鎮圧戦に俺の残りのパーティーメンバーも参加出来るようにする事、もう一つは、他の冒険者は正直、邪魔でしかないから参加厳禁にしてくれ。この二つを叶えてくれるのなら今回の緊急依頼受けても良いぞ。どうだ」


「……良いでしょう。わかりました。先ず、エルクさん、あなたのパーティーメンバーを今回は特例で緊急依頼に参加できるようにします。そして、他の冒険者の方も私の方で何とかします。なので、エルクさん達は、スタンピード鎮圧の準備をお願いします」


「ああ、わかった」


 そして、エルクとルリはギルドを出ると、いつもの裏路地に入り箱庭のゲートを開くと、箱庭の中へと入って行った。







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