第六話  縁結び


 あれから数日が経ち、聡は仕事に忙殺されていた。

日々の仕事に疲れきっていたある日の晩の事だ。その日は経営者たちが集まるパーティーがあり、その会場で、業界では名の知れていた機関投資会社の優秀な社員と出会う事が出来た。これも神様が結んでくれた縁だと思い翌日会社に招いて投資相談をすることに決めた。


「会社の資産を少し運用しようと思っているのですが、今は何が良いんですか? それと、仮装通貨って最近よく耳にしますがどうでしょうか??」


「あ~、なるほど。う~~ん、良いかもしれませんね。今の社会情勢や国際情勢を考えるとどんな相場も不安材料ばかりですし、同じ不安定な物なら仮装通貨は十数年と新しいマーケットです。これから発展する可能性もありますしね。ただ、相場はあくまでも自己責任ですし、どんな物でもリスクは付き物ですのでご理解してください。」


「わかりました。」


「ゆくゆく仮装通貨は廃止されると言う話や、逆に国際通貨になると言う話までいろんな噂はありますが、アメリカの一部の企業ですが給料をビットコインで支払っている所がありますし、後進国の中には仮装通貨を法定通貨として認めている国もありますから、将来を考えると面白いかもしれませんね。」


「ほー、そんな国もあるんですか? 海外貿易の取引なんか便利そうですね。」


「そうなんですよ。 今年は《仮装通貨の冬》と言われているんですが、元々アメリカのインフレの高止まりなどの問題もあり、今年に入って戦争も始まったりしているので年初来から大暴落しているんですよ。もう少しすると底値を打つと言う予想もあるので、そうなったら買い時ですね、チャンスですよ。 私が調べて幾つか期待できそうなアルトコインを見つけておきますよ。」


「よろしくお願いします。」


「それと、会社の資産も潤沢なようですし、この際奮発して仮装通貨の王者であるビットコインを少し買っておいたらいかがでしょうか《 ナカモト サトシ 》さん?」


「アハハハハー、そう来ましたか。いいですよ、お任せします。ご足労頂き色々とありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。」


 良い人と巡り合い話もまとまり、これも大国主大神のお導きかと満足する聡だった。




 月命日がやって来た。


 聡はいつも通り墓参りに行く予定なのだが、この日は爺さんとの約束を破って二人連れでやって来たのだった。


「爺さん、こんにちは!」

 するといつものように墓の中からスゥーッと爺さんが出て来た。それを見た隣の女性は思わず《 キャッ! 》と驚いた。


「大丈夫だよ、驚かせてゴメン。 この爺さんは俺の師匠なんだ!」


「おいおい、なんだ今日は二人連れかい?? ホホ―ッ、なかなかのべっぴんさんじゃな。ついにお前さんにも彼女が出来たのかい?」


「そうなんですよ、だから紹介しようと思って連れて来たんです。」


「は、初めまして。金子(かねこ)勇子(ゆうこ)です。」


 幽霊相手に自己紹介なんてなかなか経験出来ないだろう。しとやかなこの女性は恥ずかしがって少々頬を赤く染めたが、額は恐怖で青ざめている。黄色人種の日本人だからまるで信号機のようだ。


「初めまして、わしは小嵓おぐら のぼるです。 しかし親方様も粋な事をやりおるわい」


「そうですね、最近出会って付き合い始めたばかりなんだけど、きっと神様が結んでくれたんだね」


「そうじゃよ、だから結婚式はこの神社で挙げるがいい。きっと子供もたくさん授かるぞ!」


「アハハハハ、やだなぁ爺さん気が早いよ。まだ付き合い始めたばっかりだよ!」


「いやいやこう言う事は早い方が良い。子供もたくさん作れるぞ

、なぁ勇子さん。」


「まあ、お爺さんたら。うフフフフ。」


「アハハハハー!」


「ガハハハハー!」


 三人が大笑いである。何とも楽しそうな墓参りだが、はたから見れば墓前でカップルがゲラゲラ笑っているとしか見えないので実に気味の悪い姿に映るだろう。何しろ無縁仏を相手に話をしてるのだから仕方がない。







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