第五話  創業者


 墓参りから数週間が立った頃、IT関係に詳しい人間と縁が出来て次第に聡の周りに人が集まりだしてきた。彼らと相談して、

遂に聡は会社を立ち上げることになった。 創業後すぐに御礼と報告を兼ねて爺さんの所に墓参りに行き、経営のやり方や人の使い方、財務管理その他隅々まで事細かく手ほどきを受けた。



 その後会社は軌道に乗り少しづつ売り上げも上がってゆとりが出て来た。それでも聡は奢ることなく「神から授かり、その爺さんから受け継いだ【金運】」であることを思い出し、常に世の為人の為に貢献することを固く誓って自らを戒めて来た。その甲斐もあって不況と言われる時代でもなぜか聡の会社は業績を伸ばし大企業に成長していった。



 そんな頃だった。


 日頃、親しく取引している会社の社長から、旨い話を持ち掛けられた。その会社は業績もよくゆくゆくは株式を公開するつもりがあるのだと言う。だがその前に非公開株式を少し増資しておく予定があるので買ってみないか?と持ち掛けられたのだった。公開予定なのに何でわざわざ、と疑問を感じたのだが日頃の取引先でもあり社長は信頼の出来る人物なので、聡はどうしようかと考えていた。


「そうだ! 今度の月命日に爺さんの所へ行って相談してこよう

。」

 いつも聡は爺さんの月命日になるとどんなに仕事が忙しくなっても必ず墓参りに行っていた。出会って以来一度も欠かしたことが無かったのだ。



「爺さん、こんにちは。」


「お~~、よく来たな。ご苦労さん!」


「爺さん、俺さぁ・・・。」


「ああ、お前さんが迷っておるのはわかっておる。取引先の会社の件じゃな。 その話は断った方が良い。社長は信頼できる人物じゃが取締役の中に良からぬ者がおるようじゃ。 このまま株を買ってしまうとインサイダーやら何やらと面倒に巻き込まれるかもしれんからやめておけ。」


「そうかやっぱりね、それじゃ断ることにします。これで迷いが消えました。」

 聡は自身の直観もあるが爺さんの助言でハッキリとしたので指示通り断ることにした。


「それから、もう一つ相談があるんだけど・・・。」


「ほー、それはなんじゃ?」


「今回の件もあって考え始めたんだけど、株とかその他いろいろ相場ってどうなんだろうって?」


「ん? 何じゃ、金儲けがしたくなったのか??」


「そりゃあ金は儲けたいさ、会社やってるんだもん。ただ、今の社会情勢じゃこの先行きに不安がある。一人一人の社員にも家庭があって、働いて生活してるんだ。だから俺には社員の家庭や生活を守り抜く義務と責任があると思うんだ。う~ん、なんかうまく言えないけどもしもの時の為に何か備えておく事が出来ないかと思ったんだ。それが経営者としての責任だと思う!」


「おー、そうか。 こりゃ一本取られたな。 おまえさんもいつの間にやら成長して立派な経営者になったのう。嬉しいかぎりじゃ。 よしよし、ならば少し考えてみよう。」


 無縁仏と会社の社長との何やら真剣な経営相談になってきたようだ。 何とも不思議な光景である。


「そもそも金儲けと言ってもいつまで金があるかわからんぞ!」


「はぁ~?? 金銭自体は無くならないでしょ。」


「いやいや、わからんぞ! グレートリセットやらベーシックインカムやらweb3やらと、この先何が起こるかわからんよ。少なくともこの先現金は廃止され、デジタル通貨になるらしい。CBDCと言う奴じゃな。」


「えぇ~~⁉  現金が無くなったら現金問屋はデジタル問屋になっちゃうよ?」


「ハハハハ。 株や為替に先物取引、いろんな市場があるがこればかりはどうなるかわからん。かといって法定通貨も当てにならんとなると・・・。どうせなら仮装通貨なんかはどうじゃな?」


「えぇ~~、仮装通貨? もっと当てにならないんじゃないの??」


「確かにそうじゃが、逆に将来仮装通貨が国際通貨になると言う噂もある。それにアメリカなどでは仮装通貨で給料を支払うことも出来るそうじゃ。」


「へ~~、なるほど! いいかもしれないね。」


「よし、いずれにしても優秀な機関投資家に縁を結んでもらうしかなさそうじゃな。親方様に伝えておくからしばらくの間待っていなさい。」


「わかりました、楽しみに待ってます。 いつもいつもお力添えを頂き感謝します。ありがとうございます。」


 聡は爺さんに感謝の気持ちを伝え、迷いも消えてスッキリした気持ちで去って行った。




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