第四話 お守り
翌日。
「爺さん、俺神社に行ってお守り買ってくるよ。」
「お~~、そうか車に気をつけてな。いってらっしゃい。」
一人暮らしの聡が無縁仏に《 いってらっしゃい 》と見送られて出かけて行く姿は何とも
幸い近くに神社があったので参拝を済せてから社務所へ行き迷うことなく金運のお守りを買い求めて自宅へ帰って来た。
「ただいま~~!」
「お~~、お帰り。 早かったなぁ、ご苦労さん!」
何とも不思議な会話である。 もはや笑うしかない。
「これでいいかなぁ??」
「良い良い。 お~~、これは龍神様の金運のお守りじゃな。これなら無敵じゃ、世界最強のお守りじゃな。」
無敵だの、世界最強だの、一体何なんだこの爺さんは。
「これをどうすればいいの?」
「袋の紐をほどいて口を開けなさい。」
「袋の紐をほどいてから、《 あ~~ん 》」
「バカ者! お前さんの口じゃないわい。袋の口を開けるのじゃ
。」
「あ、そうか袋の口ね。」
「よしよし、それで良い。」
そう言うと爺さんがお守りに手をかざし《 エイッ! 》と気合を入れる。すると指先から金色の粉がスーッと袋に入って行った。
「よし、これで良い。あとは紐を
「わかりました。 ありがとうございます、大切にします。このご恩は一生忘れません。」
そう言って聡は心から感謝してうっすらと涙を流した。
「ハッハッハ、つくづく面白い男じゃな。ご恩と言ったってまだ何もしておらんぞ。 そうだなぁ~~、これからお前さんは何か事業を始めると良い。そのためにはまず資金が必要じゃな。とりあえず宝くじでも買ってみるか?」
「キターーーーーー!、 早速宝くじで一攫千金ですか??」
「バカ者! 大金が手に入るか否かははわしにもわからん。神様が決めることじゃ、お前さんの心がけ次第じゃな。」
「そっか、そうだね。神様が決めるんだね、わかりました。運試しってところですね。」
「さて、わしも心残りが無くなったのでそろそろ墓に戻るとするか。」
「えぇ~~、もう帰っちゃうの? これからどうすれば良いのかわかんないよ~~」
「心配することは無い、お前さんが墓参りに来れば何でも相談に乗ると言ったじゃろ。会社の立ち上げやら資金繰りやら何でも教えてあげるから安心しなさい。」
「ありがとうございます。頼りにしてます。」
「じゃあな、元気でな!」
「爺さんも元気でね、来年もまた来てね!」
おかしな会話である。無縁仏との縁と言うのもおかしな話だ。
少々間の抜けた男だが、性根の素直な聡は無縁仏と深い
「ウォーッ! 3000万円当たった~~! ヤッタ~~やった~~、 ヒャッホーイ! 生まれて初めて宝くじが当たった~~
!」
聡は飛び上がって喜んだ。貧乏暮らしの聡にとっては生まれて初めての大金で夢のまた夢だった。 だが、爺さんの言葉を思い出して考えた。
「貧乏な俺にとっては大金だけど、何か事業を始めるとしたら少し少ないなぁ。 そうだ、墓参りに行って相談してみよう。」
墓の場所は爺さんから聞いていた。神社の神葬祭だったことも供養の仕方やお供え物も詳しく教えてもらっていた。 聡は後日お供え物の日本酒、米、塩などを持って神社に参拝してから爺さんの墓に向かっていった。
「爺さんこんにちは。墓参りに来たよ~~!」
墓前で声を掛けると墓の下からスゥーッっと爺さんが現れた。
「お~~、久しぶりじゃな。元気そうでなによりだ。」
「うん、爺さんも元気そうで良かったよ。」
「バカ言うな、わしはもうとっくに死んどるわい。 ハッハッハ
。」
「そうだったね、アハハハハ。 それで今日は相談事があって来たんだけど・・・。」
「わかっておる。宝くじが当たって良かったのう。 神様はなぁその金で出来る範囲の事業をしなさいと言っておるのじゃよ。初めから無理な高望みをせず、地道に出来ることから始めなさいと言うことじゃ。」
「うん、それはわかるんだけど。一体どんな事業を始めれば良いのか見当もつかない。そもそも俺はずっと工場の派遣労働者だったし、事業のことなんて何が良いのかわかんないよ。」
「そうじゃなぁ、今の時代ならIT関係なんかが良いじゃろう。
それほど立ち上げ資金もかからんじゃろうし。」
「えぇ~~、おれITなんて全然わからないよ。」
「いやいや、お前さんが専門家である必要はない。システムエンジニアやプログラマー、webデザイナーなど専門職を雇えばいいんじゃよ。」
「俺、そんな知り合い誰もいないよ。」
「まあまあ、わしに任せなさい。親方に頼んでおいてあげるよ。親方なら誰かいい人と縁を結んでくれるさ。」
「あッ、そうか。親方って
「そうじゃよ、だからわしに任せて大船に乗ったつもりでいなさい。」
大船とは爺さんでっかく出たものだ。大ぼらにならなければ良いのだが。
「わかったよ爺さん。全てお任せします! それにしても爺さんなのにITとか以外に詳しいね。」
「バカ者、生前のわしは販売店とは言え電気屋をやっとったんじゃ!」
「あッ、そうか。それもそうだね。アハハハハ」
何とも愉快な墓参りである。
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