第三話  心残り


 聡は驚きのあまり爺さんの顔をじっと見つめる。


「ウヮッ、スッゲー人が来ちまったなぁ~~。 小嵓電気おぐらでんきと言えば一部上場の大企業だ、創業者の小嵓さんは苦労して一代で築き上げて大金持ちになったのに、色々慈善活動を行ったりして善人で知られてた人だ!」


「いやいや、そんなことは無いよ。たまたま商売がうまく行っただけさ、善人だなんてそんなことは無い。あの頃は日本の復興期だったし、たまたまわしが目立っただけで皆が頑張ってた。富める者も貧しい者もあの頃の日本人はお互い助け合って生き抜いてきたんじゃよ。わしだけじゃない、日本の為に、世の為人の為に皆が必死に頑張って来たんじゃ。【 大和魂やまとだましい 】ってやつじゃな。」


 聡は深く感心して爺さんの話に聞き入っていた。



「ところで爺さんは何でこの世に出て来たの??」


「お~~、そうじゃった、それそれ。 わしは自宅の縁側で昼寝をしておったんじゃが、あんまり気持ちが良いもんで寝込んでしまったんじゃ。そしたら、そのままあの世に逝ってしまったんじゃよ。自分の後始末は全て準備を整えておいたんじゃがな、一つだけ心残りがあってな。」


「心残り??」

 聡は興味津々で爺さんの顔を見上げる。


「何しろ死んだ時は突然だったもんでな、うっかりして誰にも引き継がずにあの世に持って来てしまった物があるのじゃ。」


「はぁ?? 死んであの世に持って行ける物なんてないよ!金も財産も・・・。」


「確かにそうじゃ、形ある物はあの世に持って行くことは出来ん

。 わしが引き継ぎ忘れて持って来てしまった物はな、わしが生まれた時に神様から授かった物なんじゃ。」


「へ~~、神様からの授かり物。何ですかそりゃ??」


「それは、【 金運 】じゃ!」


「金運?? いいなぁ~~それ。みんな欲しがるよ金運!」


「生前、わしの仕事がうまく行ったのは全て神様のお陰じゃ。わしの力ではない。自分の実力ではないことがわかっていたので金儲けには頓着とんちゃくせんかった。 自分の力で財を成したのならいずれ金の亡者に陥ってたかもしれんな。」


「なるほど、そうだったんですか。納得しました。」

 聡はつくづくそう言うものかと感じ入っていた。



「そこで、物は相談なんじゃが・・・。 この【金運】、お前さんに引き継いでもらえんじゃろうか?」


「えッ、え~~~。 そんな大事な金運を俺に??」


「そうじゃ。 わしが見た所お前さんは性根は悪くない。運に見放された世渡り下手のお人良しってところかな。」


「ワァーッ、 はい、ハイハイハイハイ。 あり難くお受けしますよ、登大明神のぼるだいみょうじん様。」

 まったく現金な奴だ。金運を授かると思ったら爺さんを大明神扱いだ。 聡も人の子、面白いくらいにわかりやすい奴である。


「だがな、一つだけ肝に銘じておけ。 決して私利私欲に走ってはならんぞ。金儲けに走るといずれ亡者になって地獄に落ちることになる。くどいようだがそれだけは肝に銘じておくことじゃ。


「はい。わかってますよ。 よく昔話に出てくるパターンですよ

ね。皆必ずどこかでしくじるんですよ。 そうならないように爺さんに相談しますよ。」


「そうかそうか、ならお前さんがわしの墓参りに来た時にでも色々と指南してあげよう。その時は必ず一人でおいで、その方が話がしやすいじゃろう。」


「わかりました。」


「それから、明日にでも近くの神社に行ってお守りを買っておいで。金運のお守りじゃ、その中に入れてあげよう。」



 その晩は爺さんと二人で酒盛りをやって色々と人生について語り合って酔いつぶれて寝てしまった。





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