第4話
少ししてロウの脳裏に本来の目的である、彼女を探していた理由が
「それより姫、国王さまが探していましたよ。昼食を一緒に食べたいって……」
やっとのことで所要を伝えることができた。しかし思っていた反応は返ってこなかった。彼女の表情は何故だか雲行きが怪しいように思えた。
「……姫?」
「嫌よ」
「嫌って……一応これもおれの仕事なんで。我儘言わんといてくださいよ」
「嫌」
リチラトゥーラは「嫌だ」というだけで
それはダメだ。ロウは溜め息交じりにその場にしゃがんでいるリチラトゥーラの目線に体躯を合わせた。彼女はご機嫌斜めなようで、表情は変わらずむすっとしていた。
「姫……何も言わなけりゃ、伝わるものも伝わらないですよ」
「…………ロウの敬語、嫌いよ」
「…………はい?」
思わぬ回答にロウは無意識のうちに拍子抜けた声を出していた。理解ができないといった表情をしたロウを横目に、リチラトゥーラは拗ねながらもその重い口を開いた。
「お前はわたくしと対等なのよ。ばあやもみんなもお前を下に見る。お前はそれを大人しく受け入れているし、わたくしのために無理をして言葉を変えている。それが嫌」
彼女の言う内容はとても齢十歳の少女とは思えないほど大人びたものだった。
「いやいや、そうしなきゃ、あんたの立場ってものが……」
しかしながら、こればかりはロウも譲れない。リチラトゥーラはこのスニェークノーチ国の次代を継ぐ姫で、かたや自分はただの拾われの身……身分の差は目に見えて歴然だった。それなのに彼女は国にとっての当たり前のように、自分が上位存在であることを否定するのだ。
「だったらせめてふたりきりのときくらい、わたくしの前では対等に接しなさい。これは命令よ、ロウ」
リチラトゥーラは幼い子供だ。『身分の差』を理解しようともしない十歳の子供だ。拒絶するのは、誰とでも対等でいたいから、という彼女の心からの願いが関係しているとロウは考える。彼女の母がそうであったように、リチラトゥーラもまた偏りを何よりも嫌った。そんな彼女の性格を一番理解しているロウはこの状況に頭を抱えつつも、刺激しないように今彼女が欲しいであろう言葉を投げかけた。
「……分かった。分かったから。一緒に国王さまに会いに行くぞ、リチ」
ロウは敬称でも、名前でもなく、さらに親しい者にしか呼ぶことを許していない『リチ』という愛称で呼んだ。そうすると彼女は先ほどとは打って変わって満面の笑みをロウに見せた。
「うん!」と元気良く頷くと、リチラトゥーラは思い切りロウに飛びついた。急なことで少しバランスを崩しかけたが無事に彼女を受け止めることに成功した。危機一髪のところでふたりとも倒れることを回避し、ロウはそのままリチラトゥーラを横抱きにして国王の待つダイニングルームへと向かったのだった。
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