救世主
最初から、希望なんてなかったのかもしれない。
この世界は絶望で溢れかえっている。理不尽、叶わない夢、嘘、捻じ曲げられた真実、報われない努力、抑圧。いつだって息が詰まりそうになる中で、今日も必死に呼吸している。
君も、僕も。
かもしれない、なんて曖昧な表現じゃあ誤解を招きかねないので、訂正しておく。最初から、希望なんてなかった。少なくとも君には。
そりゃあそうだ。たとえ君の病気が治ることになったとしても、何の犠牲もなしには起こり得ないのだから。
理不尽だろう、こんなことは。どうして君が。
そう、いずれ君は夢を諦めなければいけない。君のためについた嘘も、それによって捻じ曲げられてしまった真実も、いつか君は知ることになる。
君の努力は報われない。
努力は必ず報われる、なんて成功者の言う言葉だ。
君の努力は夢が叶うことでしか報われないのに、その夢は叶わない。
抑圧。できないことだらけで、制限だらけで。
そんな世界を、そんな世界でも、君は綺麗だという。
青空が好きなのだという。
流れる雲が好きなのだと言う。
鳥の鳴く声が好きなのだと言う。
君の病気を治せたのなら、もっと綺麗な景色を嫌というほど見せてあげられるのに。
僕にもし、そんな力があったなら。君を、救う存在であれたなら。そうであったらどれほどよかったか。
どんなにそんな馬鹿げたことを考えても、結局僕は何もできない。
だから僕は、今日も君の元へと向かう。
ただ君のそばにいるために。
『君の救世主になりたかった。』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます