憧れ

 ステージ上から発せられるよく通る声と、それに魅せられたように目をキラキラさせて、ステージを見つめる君。それだけが僕が努力する理由だ。いつか僕もあんな風になれたなら、その時は君も目を輝かせて僕のことを見つめてくれる。きっとそうだ。僕はただ、君に憧れられたい。


 眩しいぐらいのスポットライト。浴びる歓声と割れんばかりの拍手。ようやくこの場所に立てたのに、ようやく辿り着いたのに、君はただ目を伏せるだけだった。

 …なぜ?…わからない。努力と結果は≠。少なくとも僕の努力は報われたとは言えない。絶望と無力感。ふっと体の力が抜けて倒れそうになる。

 君はこっちを見てすらくれないのか。

 何かのねじが外れてしまったようで上手く笑えない。涙すらも流れない。


 あれから二日。無気力に支配された身体は簡単には動いてくれなかった。食事を摂ることも入浴もめんどくさくてやってられない。今の僕にはなにもないのだ。原動力の類いが一切。

 そうして部屋の隅でうずくまって何時間が過ぎた頃、急に頭上から声が聞こえてきた。


「いつまでそうしているつもり?」


 ……わからない。でも、もう僕には何もない。


「ねえ、いい加減にしてよ。」


 ……何の話だ。


「歌って。また、歌ってよ。僕、君の歌好きだよ?」


 ……お前に何がわかるんだよ。簡単に好きだなんて言わないでくれ。


「僕のこと、嫌いになった?それとも、自分のこと、嫌いになった?」


 その声で顔をあげると、少し悲しげな目で見下ろす君の顔が見えた。


 …なんで、ここにいるんだよ。僕のこと嫌いなのはお前のほうじゃないか。目も合わせてくれなかった。今更、今更。


「ごめん。」


 下げられた頭に驚く。


「あの日は、なんだろう、上手く言えないけど、君がすごくすごく輝いてて、それで…うまく目合わせられなくてさ。連絡もしないで、ごめん。なにもないなんて言わないで。僕は君の歌を初めて聴いた時から、君の歌が好きだよ。」


 諭すように、ゆっくり、静かに告げられた言葉は、僕の心を溶かす。


「また、歌ってよ。」


 そう言って君は僕の手を取った。



『君のになりたかった』

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