友達

 気がつけばあっという間に6月も中盤に差し掛かり、窓を開けると梅雨のジメジメした空気が部屋の中に入り込んできた。夏は好きだけど、梅雨は嫌いだ。そもそも僕は雨が好きではない。頭は痛くなるし、傘を刺すのも面倒だし、濡れるのだって不快だ。しばらく外には出ていないから、最近は部屋の中から眺めるだけだけれど。

 新学期。最初はほんの少しだけ休む予定だったのに、一度休んでしまうとなんとなくクラスに行きづらくなって、今に至るまでずるずると引きずっている。

 ピコン、とスマホが鳴った。今のクラスで唯一友達と言える奴からだった。


「陸斗、転校すんだって 挨拶とかしなくていいの」


 あまりにも唐突に、あっさりと告げられた事実に脳が一瞬フリーズする。

 その簡潔なメッセージに、なぜか責められているような気がした。

 遠宮陸斗。新学期になって間もない、俺がまだ学校に行っていた時に隣の席だったクラスの人気者。明るく、素直で、誰とでも仲良くなれる、というのが俺の印象だ。席が隣だった時も頻繁に話しかけてきた。友達だったのか、と問われるとそれは多分違う。


「いいよ、別に。あっちだってそんなこと望んでないだろうし、今更迷惑だろ」


 本心では、顔を合わせて話してみたい気もしたが、結局はただのクラスメイトだ。関わりを持ったのだって1か月にも満たない。ベッドにスマホを放り投げると、窓とカーテンを閉める。ほんの少し開けていただけなのに部屋の中はあっという間に湿気で満たされていた。

 再度スマホが鳴る。基本は一日一回あるかないかの通知音が今日はニ回も鳴っている。


「陸斗からお前に お前SNS何一つやってないし、連絡先も知らないっていうから俺が代わりに預かった さすがに本人の許可なく連絡先教えるのはよくないと思って ちゃんと見ろよ」


 そんなメッセージとともに2枚の画像が添付されていた。1枚はクラスのみんなで撮ったのであろう、楽しそうな写真。そしてもう1枚は手書きの文字が書かれたカードの写真だった。見覚えのある文字。


「お前と同じクラスでよかったよ。ほんとにありがとう!! 遠宮陸斗」


 本当に、このたった一言のメッセージで、全てが終わってしまう。そのことが途端に現実味を帯びた。

 ……本当は、友達になりたかったんだだけどな。学校に行くようになったら、話かけようと思っていたのに。こんなにもすぐに別れがやってくるなんて。簡単に終わってしまうなんて。

 今はSNSなどで遠くに離れた人とも簡単にやりとりできるけど、生憎俺はその類を一切やっていないから、多分本当に、最後。いつか偶然の再会をする、なんてのは夢物語だ。

 今、伝えないと。強く、強くそう思った。家の外へと駆け出す。部屋着であることも、少し寝癖の残った髪も、今はもう気にならなかった。



『君のになりたかった』

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