ヒーロー

 小さい頃の将来の夢はヒーローだった。

 悪役から世界を守る、スーパーヒーロー。

 小さい頃といっても、小学生ぐらいまでは割と本気でそう思ってた。

 馬鹿にされることもあったけど、それもヒーローの宿命なんだと、そう自分に言い聞かせていた。

 でもある日、気づいてしまったんだ。

 ヒーローになりたいということは、無意識のうちに悪役を求めているということに。

 でも悪役を求めるヒーローなんて、真のヒーローとは言えない。

 悪役が必要になるヒーローなんて、存在してはいけないのだ。

 だから僕はその瞬間、夢を捨てた。


 それから数年後、僕は君に出会った。それからは初めての連続で、毎日が目まぐるしく過ぎていった。些細なことに一喜一憂して、わけもわからず必死になって君を追いかけた。君に、恋をしたから。

 ある時僕は、恋人がいる女性の話をSNSで見かけた。その女性は、自分の恋人をヒーローだと言った。かけがえのない、たった1人の大切な存在だと言った。

 そのときに僕は、捨てたはずの夢を、拾った。


 でも、根本的に問題があった。その女性が言ったヒーローは、僕の思っていたヒーローとは違っていたことだ。だから僕は、君にとってのヒーローを目指すことにした。まずは、君が思うヒーローを知らないと。いきなりこんな話をしたら変な人だと思われないだろうか。いや、そんなこと、構ってなんかいられない。勢いに任せて、僕は君に尋ねた。


「ヒーロー?って、あのヒーロー、だよね?うーん、私にとってのヒーローかぁ…難しいね…。そうだなぁ、他人の痛みに寄り添える人、かな。困ってるときには助けてくれて、楽しい時は一緒に笑ってくれて、悲しいときにそばにいてくれる人。あとは、夢に向かって頑張っている人、とか?あはは、なんか言ってて恥ずかしくなってきちゃった。」


 そう言ってはにかむ彼女をとても可愛らしいと思った。こんな質問に真剣に答えてくれたのだから、無駄にする訳にはいかない。


 僕の夢は、ヒーローになることだ。いつか君の思うヒーローになれたのなら、その時は胸を張って君に好きと言おう。

 君が僕の前から居なくなっても、また会える日を、ここでずっと待っている。



『君のになりたかった』

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