君の____になりたかった

くらげ

特別

 私の『特別』はいつだって私から離れていく。


 私は透明だ。なんでもなくて、何にもなれなくて、ただそこにあるだけの何か。

 それでも。何者にもなれない私でも、あなたを好きでいるときは何者かになれた気がした。

 だけれどそれもあなたがいる時だけで。目を閉じれば私は透明になってしまう。

 本当に自分勝手な理由だけれど、それでもあなたを好きな気持ちはずっと本物だったよ。


 あなたと出会ったとき、私は空っぽだった。何も持っていなかった。中身のない箱だった。そこにあなたは優しさをくれた。笑顔をくれた。喜びをくれた。私の箱は一瞬であなたでいっぱいになった。

 少しずつ少しずつあなたを知って、初めてのこともたくさんあって、それが私にとってどれだけ大きなことだったのか、これはきっと私にしかわからないでしょうね。

 誰もくれなかった私を、一番にくれたのがあなただった。

 あなたにも『特別』があって、そしてそれはもちろん私ではないこともちゃんとわかってるの。

 夢見ても叶わないことだし、あなたは遠く、高い場所にいるから。私なんかじゃ到底届かないような。

 それでも私から見える場所にいて。これ以上遠くに行かないで。あなたがいなくなったら、私はもうどうしていいかわからない。

 あなたが私の全てなんだ。


 だけど私一人の声であなたが変わるはずもなくて、あっという間にあなたは消えてしまった。

 もし私があなたの特別であったなら、なんていうのは夢のまた夢の話。そうであれば何か変わっていたかもしれない、なんていう想像もするだけ無駄だ。

 あなたはもう、どこにもいない。思い出なんかじゃ生きていけない。記憶は薄れてしまう。あなたのいない世界に意味はない。私は私でいられない。

 だから、ごめんなさい。私という存在をくれてありがとう。あなたがくれた世界が薄れてしまう前に、幸せな記憶のまま、私は逝くの。



『君のになりたかった』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る