realization 短編集 記憶と宝石

ささ

第1話 人差し指


香織は左手を目の前にかざした。

「綺麗…」

左の人差し指にそれは輝いていた。

キラキラと白い光を放っている。指の中心にはトパーズのような煌めくものがゆらゆらと輝いている。


「ありがとうございます」

彼女は軽く頭を下げた。

「いえ、綺麗にできましたね」

向き合ってるのは黒ぶちメガネの少年だ。

高校生?

細い肩を見ていると、もしかしたら中学生かもしれないと思った。

まだ幼い顔つきでゆったりと笑微笑んでいる。


「これは段々光が薄くなっていくこともあります、昇華とボクは呼んでます」

「昇華?」

「はい」サラサラの黒髪を傾けて彼は説明を続ける。

「時間が経ったり気持ちが落ち着いたりして記憶が薄れていく事です」


「そうなのね…」

だんだん忘れていくのかもしれない…じっと光を見つめる。

でもしばらくは一緒にいられるのね…

「もしまだ(光)が必要でしたらまた連絡を下さい」

「え、それは…?」

「あなたがまだ(光)が必要なのに輝きがなくなったら辛いでしょう。光は足すこともできます。必ずできるという保証はありませんが…」

彼は顔を上げてじっとこちらを見る。


あなたはその時どうしますか、と聞かれている気がした。


その時私はどうするんだろう…



「では僕はこれで…」

少年は席を立ちレシートを掴む。


「ここは私が…」

思っていたよりも若い子が現れたからか香織はつい声を掛けていた。

「大丈夫です。いただいた分がありますから」

そう言われて上げた手を下ろした。

確かに報酬として先に支払っている。

普通だったら考えられないけれどその時は納得して指定の口座に振り込みをした。


きっかけはSNSだった。

あなたの記憶をヒカリにします、と書いてあった。


あなたの記憶をヒカリにします。

ご希望の方はどんな思い出をヒカリにしたいのか教えて下さい。


その下には名前と郵便局留めの住所とが書いてあった。

どうやらこの文章の主は手紙を書いて送れと言っているらしい。


この時代にね…香織は便箋を引っ張り出してしばらく考えた後、書き始めた…。


香織は看護学校を出て総合病院に勤めた。


新米ナースは大抵先輩について仕事を教えてもらう。

忙しい総合病院は目の回るような忙しさでとにかく忙しくて皆余裕がないから自然と人当たりはキツくなる。


中でも香織の担当になってくれた小田先輩は性格がキツイと同僚にも遠巻きにされるほどの…筋金入りのキツイ、ヒステリックな人だった。


毎日イビられて涙目になりながら仕事をしていた。


ある日あまりに辛くて涙が止まらなくなり慌てて部屋の隅で手で涙を拭っていると赴任して来たばかりの先生がちょうどドアから入って来たタイミングでこちらを見た。


一瞬目が合ったけれど慌てて会釈をし下を向いて通り過ぎた。


それから時々視線を感じるようになった。

先輩は容赦がなくて誰がいても気に入らないと私は怒鳴りつけられた。

その度にすみません、すみませんと繰り返しながら間違えを直そうとするんだけどまた違う事で叱られる。

毎日ビクビクしながら仕事をしていた。


時々視線を感じていたけど先輩が怖くて周りを見る余裕もなくて。


ある朝婦長からミーティングの時に

「看護婦同士お互いに穏やかに仕事をして欲しいという話がでています。人前で怒鳴る人がいるのはどうかと思います」という話があった。

婦長はさらっと言われたけど誰の事を指しているかは一目瞭然だった。


その日から先輩にあからさまに怒鳴られる事はなくなった。

その代わりに「エコ贔屓されてるヤツ」というレッテルを貼られてヒソヒソ後ろ指を指される羽目になった。


どっちに転んでも酷い目に遭うのなら、助けてくれる人がいる方がどれだけ助けられるか。


同情してくれる、味方になってくれる…それだけで少し元気が出た。


しかししばらくすると

「先生に色目を使う看護婦がいる」と噂されるようになっていた。

私の動きをいつも誰かが見ていて

「先生の背中を見ていた」だの

「2人でこっそり話をしていた」だの根も歯もない噂が噂を呼んで怪しいなどとデマまで飛び出す始末でキリがないくらい色々言われ始めた。


私は大声で叫びたかった。

ただの同情なのに。

可哀想に思われてるだけなのに、なんで放っておいてくれないんだろう。


ある日のこと。

婦長から呼び出され、応接室に連れて行かれた。

「あのね…」言いにくそうに口を開く。

























































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