第12話

 朝、ちょっと緊張はしていたけれど楽しみだった。興奮を抑えきれず早めに着いてしまった。


 少し時間が経って音儚の姿が見えた。まだ集合の15分前だけどね。


うちは深呼吸をして心を落ち着かせ、音儚の方を見た。


「唯、おはよう」

「おはよう。じゃあ行こっか」

「どこ行くの?」

「着いてからの秘密」


しばらく歩くと水族館の入口が見えた。


「もしかして水族館?」

「そうだよ、だって前行きたいって言っていたでしょ?」


前に明日香と話していたのを偶然聞いてしまった。


「うん!水族館行きたかった」

「よかった。そういえば今日の服すごい似合ってる」

「ほんと?ありがとう」


 音儚が着ていたワンピースは茶色系のチェック柄で、黒いベルトを締めていた。いつも可愛らしい音儚にもすごく似合っていた。


チケットを係員に見せて、うちらは中に入った。


「わぁすごい!色んな魚がいる!」

「本当だ!綺麗だね」


 入るとすぐに大きな水槽があって音儚は目をキラキラさせながら眺めていた。

ふれあいゾーンでは音儚がヒトデを触りながらはしゃいでいた。


「ねぇプニプニするよ!可愛いよ!」

「初めて触ったけどこんなプニプニなんだ!」


 そのあとは遅め昼食を取り、イルカのショーを見に行った。本当はもっと遅く行っても良かったけれど、音儚がどうしてもいい席から見たいと言っていたからうちらは早めに列に並んだ。


30分ほど経ってうちらは中に入った。

うちは個人的におすすめの席に案内した。ここの席は1番良い角度でイルカの姿が見れる。ネットの情報だけど。


「イルカのショー楽しみだね!」

「うんうん!本当遊びに来れて幸せ〜」

「ここの席1番良い角度でイルカの姿が見れるんだよ」

「本当?!嬉しい!」


イルカのショーは大盛り上がりであっという間に終わってしまった。


「あぁ楽しかったな〜」

「音儚連れて来れて良かった」

「音儚も唯と来れて良かった!」


うちらはお土産ショップに寄って、ある所に向かった。


「ここからの景色綺麗でしょ?」

「うん!すごい綺麗!」


さっき買った飲み物を持ってうちらはベンチに腰を下ろした。


「ねぇ文化祭の日の事なんだけどね」


うちがそう言うと音儚の顔が少し曇った。


「本当は付き合ってなんてないよ」

「えっ?だってうちも好きだったって」

「うん。あの子は私の中学生の頃の同級生で初恋の子。あ、急に女子が初恋って言われてもびっくりするか。まぁその子ことはずっと好きだったけど、高校離れちゃったし諦めかけてて。だからあの日その子が告白してくれてすごい嬉しかったんだけど、今は他に好きな子がいるから断ったんだ」

「そうだったんだ。誤解しててごめんね。それで今他に好きな子って?」

「はは、言うってなると緊張するな」


うちは立ち上がって、軽く息を吐いた。


「うちが好きなのは音儚だよ。始業式の日音儚を助けた時からずっと好きでした。付き合ってください」

「ごめん………」


音儚は泣き出してしまった。

ああ、片想いだったか。


「そうだよね。ただのルームメイトだし女子だし急に告白されたらびっくりするよね。ごめん」


ショックすぎて今すぐにでも家に帰りたかった。


「ち、違うの。音儚もずっと唯が好きだったの。文化祭の日に告白されてるの見て辛くなって。でも諦めきれなくて…」

「それはつまり……?」

「音儚も唯が大好きです!付き合ってください!」


音儚は涙声で想いを伝えてくれた。


「本当に?!片想いかと思った…」


身体の力が抜けてうちは床に座り込んでしまった。


「ちょ、唯しっかりして」


うちは座り込んだ状態で音儚を抱きしめた。今までで1番強く、きつく音儚を抱きしめた。


「一生離さないから」

「うん、音儚も」


 こうしてうちと音儚は無事に付き合うことが出来た。10月20日。この日は私の今までの人生の中で1番大事な日だ。

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