第11話

 音儚と話さない日々はとても辛かった。

あの時ちゃんと話しておけば良かった。玲乃のことも全部言っていれば良かった。


うちはその辛さを紛らわすように走り続けた。


 走っている時だけは辛いことを忘れられた。メニューの量を増やして、がむしゃらに走り続けた。


「最近走り過ぎじゃない?足痛めるよ」

「大丈夫だよ美玖。走るだけで気持ちが楽になる」

「音儚のこと?何があったの?」

「話すと長いよ」

「それでも聞きたい」

「わかった。じゃあ明日の練習の後交流スペースで」


 明日の練習の後とか言ったけど、まだ話す勇気がない。


夜中、私はずっとどうやって美玖に話すのか考えていた。


 翌日、練習終わりにうちは交流スペースに行った。美玖は既に来て座っていた。


「まず単刀直入に言うと、うちは音儚のことが好きなの。恋愛感情として」


美玖は少しびっくりした顔をしたけれど、すぐに戻った。


「まずうちが女の子が好きって気づいたのが中学の頃で、最初に恋愛感情抱いたのが玲乃だった」


うちと玲乃と美玖は仲良しグループの中でも特に仲のいいメンバーだったから美玖は薄々気づいていたかもしれない。


「ただ高校離れちゃったし、玲乃に同性愛について聞いた時も女子とは付き合えないって言ってたからそこでうちは諦めて。でも文化祭の日に玲乃が来て、帰り際に告白されて」

「返事は?」

「断った。だけどそれを音儚に見られてたみたいで」

「でも玲乃のこと好きだったんじゃないの?」

「うんん、今は音儚が好き。だけど音儚が勘違いして、それでずっと口聞いてくれなくて」

「どれぐらい?」

「もう1ヶ月近く」

「そんなに!ちゃんと説明すればいいのに」

「本当はすぐ言おうと思ってたんだけどタイミングなくて」


本当にいつ言ったらいいか分からないよ。


「音儚って誕生日いつだっけ?」

「1週間後の10月20日」

「よし、その日だ。その日に告白しちゃえ」

「え、ちょ、何言ってるの?無理だよ、絶対断られる」

「そう?音儚っていつも唯のこと見てるし脈アリじゃない?それに日曜でしょ?どっか行きなよ」


 誕生日前日、うちは音儚に連絡をした。返信してこないと思ったけれど、思っていたよりも直ぐに帰ってきた。

それから美玖と音儚の誕生日について計画していた。

プレゼントも外出届を出して2人で買いに行った。



一方、私はこのことを碧衣先輩とゆずき先輩に相談していた。


「音儚どうしたの?そんな暗い顔して」

「そうだよ、音儚ちゃん。何かあったの?」

「そうなんです。そうなんですよ」


 私は唯が告白されているのを見てしまったこと、唯が告白をOKしたこと、あの日見た事全てを話した。


「うわぁそれは辛かったね」

「もう音儚の恋終わったかもです」

「そんな諦めないで。もしかしたら断ってたかもしれないよ?大好きだった。って言った後にでもごめんって言ったかもしれないんだし」

「そうだといいんですけど」

「そういえば音儚の誕生日って来週だよね」

「えっ碧衣先輩なんで知ってるんですか?」

「だってSNSのプロフィールに書いてあったから」

「なるほどです」

「じゃあもし唯ちゃんが誕生日デート誘ってきたら唯ちゃんはあの告白を断ったって思えばいいんじゃない?」

「誘ってくると思いますか?」

「僕は思うよ、だってこの音儚だもん。みんな好きになるよ」

「碧衣も音儚のこと好き?」

「好きだけど、僕が愛してるのはゆずきだけだよ」

「もぉ碧衣ったら!」


 所々碧衣先輩とゆずき先輩がイチャイチャしていたけれど、唯とこんな関係になれたらなって思いながら眺めていた。


誕生日前日、唯から連絡が来た。


"明日空いてる?一緒に遊びに行きたい。"

"大丈夫。空いてるよ"


 私は昼間にゆずき先輩が言っていた言葉を思い出した。

本当に唯が私を好きでいてくれたらいいのに。


 私は急いで明日着る洋服を選んだ。今までオシャレすぎて着れなかったワンピースを着ることにした。


唯に会うの楽しみだなと思いながら私は眠りについた。

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