第10話

 文化祭の2日目、私は特にやることが無く中庭のベンチでボーッと座っていた。


 唯と一緒に回りたかったなぁ。唯は誰と一緒に回ってるんだろう。相手が唯のこと好きだったらどうしよう。唯が相手のこと好きだったらどうしよう。ずっと唯のことが頭から離れなかった。


 前を通る人は皆友達と一緒にはしゃいだり、彼氏や彼女と楽しそうに歩いていたり。


 私も唯と一緒に回りたかった。2日間とも唯と一緒に過ごしたかった。2人きりになりたかった。


 唯が居ないとこんなにも寂しいなんて思わなかった。


 カメラロールを遡ると唯が楽しそうに笑ってる写真が沢山あった。私が勝手に盗撮した写真も、逆に唯が撮った私を撮った写真もたくさんあった。


「唯に会いたい…」


私はボソッと呟いた。


「ねぇ、もしかしてその子のこと好き?」


突然後ろから声をかけられた。その人は唯みたいにボーイッシュな女子だった。


「えっいや、あの…」

「あ、ごめんごめん。僕は卒業生の早瀬碧衣。碧衣ってそのまま呼んでくれたらいいから。今彼女がシフト中で暇だったんだ。君、名前は?」

「加瀬音儚です」

「OK!音儚。急に話しかけちゃってごめん。先に僕の話をするね。僕って言ってるけど一応女子。今付き合ってる彼女が居てね、それがこの子」


 碧衣は、碧衣先輩はカメラロールの写真を見せてくれた。


「この人3年生の…」

「そう!3年生の水崎ゆずき。可愛いでしょ」


 水崎先輩は写真部部長。ものすごく可愛くて性格も良くて高嶺の花。


「僕も同じ写真部で、ゆずきが1年の夏だから2年前ぐらいから付き合ってるんだ」

「あの、どうやって付き合ったんですか?」

「僕か新入部員の挨拶の時に一目惚れして、特になにもしてなかったんだけど、ある時ゆずきが僕に同性愛者だって相談してきて、これは行けるかも!って思ってアタックしまくって、結果的にゆずきが僕に告って付き合ったって感じ。音儚の話も聞きたいな」

「私の好きな人はさっき見てた写真の子で、唯って言います。その子は見た目も中身もかっこいいです。今年から同じクラスになって、気づいたら唯のこと意識してて。前に急に壁ドンされて好きって言われたんですけど…」

「それってもう音儚のこと好きってことじゃん」

「でも後々どういう意味の好き?って聞いたらただの友達としてらしくて」

「なるほどね」

「それに唯は好きな人が居るって言ってました」

「そっか。女子同士の恋はやっぱ難しいよな」

「私女子を好きになったのが唯が始めてて、唯にも直接好きって言えなくて」


 碧衣先輩には他にも色々な話を聞いてもらった。


「色々聞いていただきありがとうございました」

「またいつでも聞くよ!これ、連絡先。付き合えるといいね」

「ありがとうございます!」

「じゃ、僕は可愛い彼女の所へ行ってきます!」


 碧衣先輩は走って向こうへ行ってしまった。


 なんか碧衣先輩に話を聞いてもらえて楽になれた気がする。その後は唯に会えたらいいななんて思いながら他のブースを歩き回った。


 気づけばもうすぐ花火が始まる時間になった。私は集合場所の校舎に向かった。向かう途中、私は唯と私の知らない女の子が話していた。


 何を話しているのか気になって、私は近くの壁に身を隠した。


「だから私は唯のことが好き」


え、告白してる?唯に?嫌だ、取られたくない。


「私も好きだった。大好きだった。」


そう言ってその子を抱きしめる唯の姿が見えた。

私は続きを聞きたくなくて走って屋上に向かった。


あぁずっと片想いだったんだ。

あの時の"好き"も本当に友達としてだったんだ。

唯がしてくれたキスも全部思わせぶりだったんだ。


花火が始まってしばらくして唯が来た。


「音儚!遅れてごめん!」

「ねぇ今までのって全部思わせぶりだったの?私にキスしてくれたのも、好きって言ったのも全部思わせぶりだったんだね」

「どういうこと?」


とぼけないでよ、全部知ってるんだから。


「私はずっと好きでアピールしてたのに!」

「ちょっと待ってよ」

「他に好きな人いるんでしょ?言い訳なんて聞きたくないよ!」


 涙が溢れてきて私は屋上から逃げ出した。


それ以来、唯とは気まづくて口を聞けなくなってしまった。

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