第3話
「唯のことずっと好きだった。こんなこと言ったら困ることは分かってる。でも……」
ここはどこ?
放課後の教室
相手は誰?
音儚
なんで告白?でも……
「いいよ」
「本当に?」
「うん、好きだった」
音儚を抱きしめ、そのまま唇を重ねた。
「ねぇ、唯、唯!」
誰かに呼ばれて目が覚める。
「音儚?!」
「そんな驚いてどうしたの?早く起きないと朝ごはん食べる時間ないよ」
あ、さっきのは夢か…
妙に唇の感覚が残っているけど気にしなくていいや。
「あ、うん。すぐ準備する!そういえば体調大丈夫?」
「もう大丈夫!ほら、早く」
うち慌てて制服に着替えた。
「唯、行こう」
「うん!」
音儚が差し伸べた手を握り、手を繋いで食堂に向かった。
今日見た夢はいつもよりも鮮明に覚えていた。
音儚に告白されて、抱きしめてキスをする。
現実世界ではあまり起こらないことだから鮮明に覚えているのだろう。
食堂に着くと他の生徒はもうほとんど居らず、うちらは急いで朝ごはんを食べ、急いで食堂を出た。
「今日すごい幸せそうな顔してたけど、いい夢でも見てた?」
見てた夢のことなんて言える訳ないじゃん!
「うーんまぁまぁいい夢だったかも?」
「どんな夢?」
「それは秘密!」
「えー教えてよぉ」
「いつか教えてあげる」
「わかった!じゃあ楽しみにしてる」
部屋に着き、授業の準備をして教室に向かった。
数日後、うちはずっと昔のことを思い出していた。
中学の頃、うちには好きな人が居た。
その子は優しくて、頭も良くて、思いやりのある完璧な人だった。
でもその子を好きだということは誰にも言えなかった。
だってその子は女の子だったから。
いつもオシャレな洋服で、サラサラのロングヘアでものすごく可愛い子。
進級して偶然同じクラスになって仲良くなった。そして、気づいたら片想いしていた。
その子との思い出は沢山ある。
その子にメイクをしてもらったこと、その子とお泊まりをしたこと、初めて2人で遊びに行った日のことも鮮明に覚えている。
メイクをしてもらった時、顔の距離がキスできるぐらいの距離でずっとドキドキしていた。
お泊まりをした時、2人で遊園地の観覧車に乗った。2人っきりの観覧車の中も息が止まりそうだった。
初めて2人で遊びに行った時もドキドキしていつも通り振りまうことができなかった気がする。
うちと好きな子を含めて仲良かったグループはスキンシップが多くて常に誰かハグしてたり、手を繋いでたり、腕を組んでいたりした。好きな子とハグも手を繋ぐのも、腕を組むのもしたことがある。電車に乗っている時に肩に頭を載せてきたのも覚えている。その時は胸が締め付けられた。
その代わり、好きな子も他の人に同じようなことをしていた。好きな子は1番仲の良かった子の肩に頭を載せるのは日常茶飯事で、他の友達とも手を繋いだり腕を組んだりハグをしていたり。
その度にうちは勝手に嫉妬していた。
自分と付き合っている訳じゃないし、告白をした訳でもないのに、その子のことを独り占めしたいと何百回、何千回と思った。
そして、うちはその子に嘘をつき、同性で付き合うことについてどう思ってるのかを探った。
2人きりになれるタイミングを見計らって聞いてみた。
「すごい急なんだけど、もし女子に告白されたら付き合う?」
緊張して心臓がバクバクだった。
「え、付き合わない。告られたの?」
「うん。昔仲良かった友達に…」
最初から分かってた。付き合わないって答えるって。それでも聞いてみたかった。少しは期待してたから。でもこれで分かった。同性愛は受け付けない子なんだって。
「どうやった断ればいいかな?」
「丁寧にごめんなさいでいいんじゃない?」
「そうだよね。ありがとう」
その後メッセージで好きな子に"一瞬OKしようと思ったけどやっぱ断った"と伝えた。そしたら"まじ?私だったら断る"と返ってきた。もう少し希望はあるかなと思って送ってみたけど、傷をえぐることになっただけ。
このこと以来うちは好きな子とは仲良くしていたし、一緒に遊びにも行ったけど、その度に"好きな子とは付き合えない"と自分に言い聞かせた。
結局卒業してから違う高校に進学し、たまに遊びに行くぐらいの仲になった。その子と離れてからもしばらくは好きだったけれど、その子に彼氏が出来たという噂を聞いて、私はこの気持ちに蓋をして抑え込んだ。男子みたいになろうと思ったのもこの子がきっかけだった。
あぁなんで今更このことを思い出すんだろう。
同性に恋をすること。こんなこと普通じゃない。
"LGBTに対する差別のない世界を作る"みんな言うけれど、そんなの口だけだ。結局自分の恋心は普通じゃないと周りから言われ、気持ちに蓋をする。
自分がいつも好きになるのは同性だと分かった時は結構あっさり受け入れた。自分でも薄々異性とと付き合うのは抵抗があると感じていたから。
でも実際同性に恋をするとものすごく苦しかった。
でももう過去の話だ。こんなに苦しいなら誰も好きにならなければいい。誰も意識しなければいい。
なのに、あの夢を見てからずっと音儚を意識する自分が居た。
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