第6話 僕はしおんに恋をする。
⚅
最初に受けたギルドミッションは、
僕としおんは近隣の小鬼の巣穴に向かい、夜を徹して巣穴前に落とし穴を掘った。準備が整ったら巣穴の前で焚火をして、小鬼の巣を煙攻めにする。やがて、カンカンになった小鬼が数匹、巣穴から飛び出して来た。僕は、それを遠距離からひたすら狙撃する。
「『来た来た! 飛び出して来たわよ、ライト』」
ヌルヌルが叫ぶ。
「わかってる。ほら、こっちだ
僕は叫び、矢を放つ。
そうして、僕は
やがて、巣穴からは気配がしなくなった。
ライトとヌルヌルは巣穴へと近づき、落とし穴の中を覗き込む。落とし穴には、6匹の
「ふふふ。この瞬間がたまらないのよね」
言いながら、しおん、否、ヌルヌルは、落とし穴に松明を投げ込む。忽ち、油に引火して、
「うわあ……」
僕は思わず絶句する。
「どうしたの?」
「いや。エゲツないなあ、と。しおんはいつも、こんな事やってるの?」
「え? そ、そうだけど」
「どうして普通に戦わないんだ?」
「普通に戦ったら危ないでしょ?
「う、ううむ。そういう事じゃないんだけど」
言い合って、
「ふふ。これで、ミッションクリアーね。どう? 最初の冒険は」
「なんていうか、卑怯な気もするけど凄く面白かったよ。想像以上だった。しおんとも、仲良くなれたし」
「も、もう」
「あれ? 照れてるのかな?」
「て、照れてないもん」
しおんは、顔を真っ赤にして呟いた。彼女は男の娘のキャラクターを作ったりと、ちょっぴり腐女子の素養があるくせに、自分自身がセメられるのには、弱いらしい。
「それよりも……ライトはレベルが上がりました。魔法の習得が可能です」
しおんは、その日最後の
「どの魔法にしようかな。やっぱり、攻撃魔法かな」
と、僕は上機嫌でルールブックに目を通す。
「これなんかどうかしら?」
しおんが指さしたのは、
「エルフは暗視能力があるから、灯の魔法は必要ないよ?」
「でも、
しおんに勧められ、僕は結局、
⚀⚅
帰り道、僕はまだ、興奮していた。
日は、とっくに暮れている。でも、しおんと肩を並べて歩く街は、どこか煌めいて見えた。興奮の余韻が抜けきれない。まだ空想世界にいるような、そんな不思議な感覚だった。
「TRPG、気に入ってくれた?」
しおんが
「ああ。物凄く。また、続きを遊べるかな?」
「も、勿論よ」
「じゃあ、約束だね。しおん」
「う、うん。約束……ね」
言い合って、僕としおんは指切りをした。
⚅⚁
僕の日常は激変した。
あの放課後から、僕は学校でしおんを見かける度に、すぐに声をかけた。しおんも、恥ずかしそうに応じてくれる。僕等は休み時間も、放課後も、いつも二人で過ごすようになった。勿論、僕等の話題はTRPGについての物が主だった。
しおんの話によると、彼女がTRPGを始めたのは、中学生の頃だったらしい。仲の良い後輩と街に出かけた時にTRPGに出会い、その後輩と遊んでいたのだそうだ。
「それって、もしかすると男子?」
聞かずにはいられなかった。
「ううん。女の子よ。とっても可愛い子だから、今度一緒に遊んでみる?」
しおんは、素っ気なく言う。まるで、僕を試すみたいに。
「……ううん。それはいいや。僕は、しおんと二人で遊ぶのが楽しいから」
「ま、また……そんなこと言って」
「本当だよ!」
思わず声を荒げると、しおんは、驚いた顔で僕を見た。だが、
「……嬉しい」
しおんは、顔を赤くしてモジモジと、長い髪を弄る。その様子に、僕は心臓をぐっと、掴まれたみたいな気持ちになる。
そう。僕は、遠山しおんに恋をしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます