第5話 遠山しおんはグイグイ来る!
「続けようか」
僕はからかうように言う。すると、しおんはルールブックを手に、シナリオを再確認する。微かに、しおんの口角が上がった気がした。
「『ねえ。貴方は、青の森のエルフさん?』突然、ライト君は声をかけられました。見ると、そこには可愛らしい
しおんが、RPGを再会する。
「そうだ。僕はスターライト。
「『やっぱり。聞いたわよ。青の森は襲撃を受けたらしいわね。私も、ピンサローには恨みがあるの。先週、村と教会を焼き討ちにされて仲間を大勢失った。どう? 冒険にでかけるなら、私と組まない?』」
「……勿論。回復系は必須だ。仲間になってくれると助かるよ」
言い合って、僕としおんは微笑み合う。
「この女の子が、さっきしおんが言ってたキャラクター?」
「そうよ。でも、女の子じゃないわよ?」
そう言って、しおんはキャラクターシートを見せつける。
キャラクターの名前は「ヌルヌル」
レベルは7。職業は聖職者。回復魔法と毒消しの魔法等、必須魔法を習得している。
能力値は、魅力と
「この子、男の
と、しおんは軽くウインクする。
「『それより……貴方ってとても素敵ね。髪が水色でサラサラしてる。とっても美形だわ。私、エルフって前から興味あったの。私と旅をするなら……勿論、仲良くしてくれるわよね?』 そう言って、ヌルヌルはライトの手をぎゅっと掴み、背伸びして口づけを──」
「──しないしない! なにこれ。どういう状況? それにネーミングセンスどうなってるのかな!」
「ど、どうして断るの? せっかくのBLチャンスなのに!」
「は? BLチャンスって何? 僕にそういう属性はないからね?」
「そ、そう? ウケが嫌ならそう言って。ヌルヌルがウケを担当しても良い、から」
「ウケかセメかを問題にしてるんじゃないよ!?」
「もう。ちゃんとなりきって。
しおんは再び、瞳を潤ませる。
僕は困惑を隠せずにいた。
どういう事だ!? この
「あ、いや、嫌いじゃないけど、そういう問題じゃないだろ! 僕はノーマルなんだよね。男とベタベタする趣味はないんだ」
「男の娘なのは空想上の話でしょ。今、
「それを言ったらおしまいだろ?」
「じゃあ、なりきって対応して。ちゃんと、男の娘の私を受け入れてあげて」
「滅茶苦茶だ! と、いうか……しおんは本当に女の子、だよね? 実は男でした! とかないよね?」
「し、失礼ね。私は女、だよ」
「本当に?」
「本当に!」
しおんは咄嗟に僕の手を取って、自分の胸に押し当てた。
「ほら。ちゃんと女でしょ?」
「え、あ……うん」
大きくはない。決して大きくはないが……確かに、ぽよぽよした弾力が、掌に感じられる。顔が熱い。心臓が、バクバク音を立てている。
ピクリと、指先が動く。
「あ、きゃっ」
しおんは我に返り、咄嗟に手を離して顔を背けた。そして、
「こ、この事は……秘密だからね?」
恥じらいながら言うしおんに、僕は完全に心を撃ち抜かれてしまった。
どうであれ、僕としおんのパーティは結成された。否、スター・ライトとヌルヌルのパーティである。
「『戦うなら、まずは装備を整えなきゃね。ライト君、お金は持っている?』ヌルヌルは言いました。ライト君はどう答えますか?」
しおんは再びヌルヌルになりきって、ゲームの進行を再会する。
「お金はあまりないかな。でも120ゴールドあるから、初期装備ぐらいは整うと思う」
「『ふうん。少ないわね。とりあえず、私のアイテムを使って』」
そう言って、しおんはキャラクターシートのアイテムを消し、僕のキャラクターシートへと書き写した。
アイテムは、魔法の武器だった。
「これ、いいのか? 魔法の武器なんだろ」
「いいの。ヌルヌルは聖職者だからどうせ使えないし、店で売っても、魔法の武器を買える訳じゃないもん」
「ありがとう。じゃあ、ありがたく使わせてもらうよ」
「『お礼なんていいのよ。感謝は、行いでしめしてくれればそれで……』そう言って、ヌルヌルは可愛らしく背伸びして、ライトにくちづけを──」
「──いや、しないからね!」
こうして、僕としおんは冒険に出かけた。
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