第4話 遠山しおんは赤面する





 旅立ってすぐ、ライトは三匹の小鬼ゴブリンと出くわした。問答無用で戦闘へと突入し、サイコロが振られる。僕は二匹を弓で仕留め、三匹目はショートソードで切り倒した。少々苦戦したが、なんとか生き延びた。

 レベルが、一つ上がった。


「おめでとう。レベルアップよ。サイコロを振って」


 しおんに言われ、僕は6面体を振る。出た数値は4。体力が10点になった。

 こうして、僕は上機嫌で旅を続け、間もなく、人間の街へと辿り着いた。


「ライトは人間の街へと辿り着きました。どうしますか?」

「とりあえず、冒険者ギルドへ向かうよ」

「そうね、いよいよ、仲間と出会うのね」


 言いながら、しおんは鞄から、使いこまれたキャラクターシートを取り出した。


「それは?」僕は疑問を口にする。

「わ、私のキャラクターよ。私と冒険するのは……嫌?」


 と、しおんの瞳が微かに潤む。


「ううん。嫌じゃないよ。しおんと冒険してみたい」

「あ、あ……ありがとう!」


 しおんの表情が、パアッと明るくなる。

 だが、次の瞬間。

 何故か、しおんは白い眼帯を取り出して左目に装着した。


「ん? それは何をしているの?」

「き、気にしないで」


 言いながら、しおんは左手に包帯を巻き始める。


「どうして左腕に包帯を巻くのかな?」

「気分よ。こうすると、私の隠された本当の力が出せる、の」

「本当の力? どんな?」

「そ、それは、簡単には言えないわ」

「もしかして、左手に強力な魔王が封印されてる。とか?」

「ど、どうして解ったの!?」


 しおんは簡単に吐いた。


「そう。私の左手には、いにしえの暗黒龍が封印されているの。そして左目には、盟約の戦乙女が潜んで……」

「否、しおん。それは中二びょ──」

「──駄目よ! それは呪われた言葉だわ。決して、口にしてはいけない恐ろしい単語なのよ?」

「……中二びょ──」

「だからダメッ! な、なんで二回言おうとしたの?」


 この時になって、僕は初めてしおんの正体に気が付いた。

 この、中二病だ!


 ⚄


「ちゃーん、ちゃららっちゃっちゃっちゃ、らっちゃっちゃっちゃ、ちゃちゃーん!」


 突然、しおんが謎のメロディーを口ずさむ。まさか、オープニングのメロディのつもりか? 若干、引き気味の僕をよそに、しおんはメタルフィギュアを取り出した。

 メタルフィギュアは、主に戦闘場面で使用する。チェスの駒のようにバトルフィールドを動かして、モンスターと戦うのだ。ちなみに、僕のメタルフィギュアは、弓を構えたエルフの人形である。


「ライト君は冒険者ギルドへと辿り着き、受付へとやって来ました。受付には年老いた係員がいます。どうしますか?」

「じゃあ、とりあえず話しかけてみるよ」

「もう。ちゃんとなりきって。RPGは、なりきってシミュレーションする事をいうのよ」

「そ、そうだったね。じゃあ……『我が名はスター・ライト。近隣の〝青の森〟より来たりし者。このギルドで仲間を募り、魔王軍への雪辱を晴らしたい』こ、こんな感じで良いかな?」

「ええ。バッチリよ」


 そう言って、しおんは「こほん」と、咳払いを一つ。


「『それは良く来なすった。では、冒険者ギルドに登録いたしましょう』」


 しおんは、今度は受付のお爺さんになり切って言う。


「あと、情報が欲しいのだが」

「『ああ。ピンサローの軍団のことですな。連中、魔王城に帰還せず、ここから北のカドカー王国へと攻め込みおった。その戦いは膠着状態となっておりますな。カドカー王国は強固な城塞都市。決着まで、最低でも三か月はかかるじゃろう』」

「三か月、か……じゃあ、まだ時間的に余裕があるな」

「『そうですじゃ。もし戦うならば、ピンサローは強敵。この酒場で仲間を見つけて、実績を積んでみてはいかがですかな?』」

「うん。じゃあ、そうしよう」


 言葉を交わして、僕としおんは頷き合う。僕は思わず、クスリと、笑う。


「ど、どうしたの?」

「あ、いや、しおんがあまりにも上手だから。演技の才能があるんじゃない?」

「も、もう。からかわないで」


 しおんは、顔を真っ赤にして抗議する。すると僕は、また積極的な気持ちになり「ごめん、ごめん」と、しおんの頭を撫でてやる。

 しおんは「あっ」と、顔を赤くして、両手で頭を押さえた。




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