第5話 雨宮凛

 雨宮凛は悲しみに暮れていた。


 おかしいと思い始めたのは2週間前くらいからだった。湊くんはその辺りからずっとそわそわとしたりボーッとすることが多くなって、私と話している時も少し上の空のときもあった。だけど帰りにスイーツを買ってきてくれたり、休日はご飯作ってくれたりしてくれていたから、きっと勘違いだって、私がきにしすぎだって、そう思ってた。


「ブブーッ」


 その考えを打ち砕くように、一週間前の日曜日、湊くんの携帯の通知が鳴った。湊くんは今お風呂に入っている。運が悪いことに、携帯の画面は上向きだった。


 本当に大した意図はなかった。見るつもりもなかった。隠し事とかできないタイプだったし、浮気なんて一度も疑ったこともなかった。でも、ほんのちょっと気になって、見てしまったのだ。そこには信じられないものが表示されていた。


「やっと会えるね!すごく楽しみ!!」

一件のメッセージ。

「雷坂……芽衣?」

知らない名前だった。すごく焦った。そんなはずはないと信じたかった。そんなこと、湊くんがするはずはない。だけど、偶々心当たりを見つけてしまった。見つけてしまったのだ。


 数日前、湊くんが持って帰ってきたルルーシュの紙袋。普段ならプレゼントを隠そうともしないのに、私が紙袋を指して

「これどうしたの?」

と聞いたとき、慌てて自分の後ろに隠して

「これはなんでもない!気にしないで」

と妙に隠された気がする。そのときはそんなに気にしていなかったが、今では怪しく見えてきた。


 仕方ない。あかりんに聞いてみようと思い立って、自分の携帯であかりんに電話をかける。

「あ、もしもし?」

久しぶりに話すと、なんだかとても懐かしかった。湊くんの紙袋の件を聞くと、どんどん疑いは深まっていく。


 湊くんはルルーシュの人気の新作である、「ピンクの桜の小ぶりなピアス」を買っていったらしい。あかりんは私に「きっと凛ちゃんへのプレゼントだよ」と言っていたが……


 私にピアスの穴は空いてない。


 なんで……?

 裏切られた気分だった。よく考えたら、確かに最近「好き」とか「愛してる」とか言われていなかった。


 更に私に追い討ちをかけたのは、数日前の出来事だ。私は平日、駅の近くのネイルサロンで働いている。その日は、新規の予約のお客さんのネイルを店長に任された。


「予約していた雷坂芽衣です」


 え……。雷坂、芽衣?

 そこに立っていたのは、黒髪ロングのすごく美人な女の子だった。湊くんの、メッセージの人と同じ名前だ。

 戸惑いが隠せず、変な対応を取ってしまった。気を取り繕いながら、芽衣さんを席に案内する。


 ネイルを施しながら、ふと顔を上げると、彼女の耳元に目が留まった。

 なんだか見覚えがある気がしてならなかった。

「そのピアス……可愛いですね」

「あ、これですか?恋人からもらったんです!ルルーシュっていう最近人気なお店の」


 ルルーシュの桜のピアス、恋人。


 その瞬間、私の疑いは確実になってしまった。そうだ、湊くんが買ったやつと同じピアスだ。湊くんの好きな人は、この人なのだ。


 もう、湊くんの心は、私には無いのだ。


 彼女が嬉しそうに話した内容は、私にとっては地獄に落ちるよりも、もっとひどく私を落ち込ませた。


 雨宮凛は、晴山湊を信じていたかった。

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