第4話 雷坂芽衣

 雷坂芽衣かみなりざかめいはすこぶるご機嫌だった。


 新しくできた駅前のケーキ屋さんのすっごく美味しいケーキを三つも買ってしまった。街中でスキップして帰りたい気分だった。そう、私雷坂芽衣は、お兄ちゃんのベタ惚れ彼女さんともうちょっとで会えるのだ。会ってみたいと言い続けていたら、お兄ちゃんが1週間後に会わせてくれると言ってくれたのだ。結婚するつもりだって話すお兄ちゃんはとても幸せそうだったし、なにより高校生の時から付き合ってたなんてめちゃくちゃロマンチックではないか。やるなぁお兄ちゃんと思った。高校が同じだったらもっと前から会えてたのにな。お兄ちゃんと同じ高校に行きたかったけれど、中学の頃お母さんと家を出たため、その願いは叶わなかったのだ。


 両親は、私が物心ついた頃には既にとても仲が悪かった。それでも私たちは二人で本当にすごく頑張ったと思う。当時はそんなこと思ってなかったけれど、今考えると親に気を遣いまくってた。お父さんとお母さんは仲が悪かったけれど、私たちはお父さんともお母さんとも仲が良かったから、苦痛に感じたことはない。離婚して引っ越したとはいえ、たまに四人で会ったりとかもしていたし、自分たちが不幸だなんて思ったことは一度もない。


 ケーキまで買っちゃったけれど、よく考えたら今からネイルサロンだ。やばい、ケーキダメになったらどうしよう。まあきっと春だし保冷剤入れてもらったしきっと大丈夫。そう思い直してまたるんるんで歩き始める。ケータイのマップを辿って、道の脇に出ていたネイルサロンの看板を見つけた。階段を上がってお店の中に入る。


 ネイルしてもらうのは、すごく久しぶりな気がする。大学の就活とかもあってする機会があまりなかったのだ。

「予約していた雷坂芽衣です」

カウンターの前で名乗ると、

「雷坂……様ですね」

すごく驚いた顔で、私の顔を見られた。

「あの……?」

「あ、すみません!案内致します」

店員さんが慌てたように動き出す。るんるんすぎて、変な顔でニヤけてたのだろうか。恥ずかしい。


 用意された椅子に座って、リクエストを伝えると、店員さんは慣れた手つきで作業を始めた。

「そのピアス可愛いですね」

「あ、これですか?恋人からもらったんです!ルルーシュっていう最近人気なお店の」

「あーわかりますわかります!あそこのやつ可愛いですよね」

 他愛のない話をしながら、爪が出来上がっていくのを見ていると、また気分が上がってきて、すごく楽しみな気持ちが再熱した。


 早くお兄ちゃんの彼女に会ってみたいなあ。


 雷坂芽衣は雨宮凛に会いたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る