第3話 雪村朱莉


 雪村朱莉ゆきむらあかりは今日も忙しい。


 人で賑わう店内。ここは最近話題の「ルルーシュ」というアクセサリー店。キラキラとした宝石がずらっと並んだショーケースの前で今日もにこやかに接客をする。

 今年は春の新作の売れ行きが今までにないほど絶好調。SNSでも話題になって、やっとルルーシュは軌道に乗り始めたところだ。忙しいけれど、同時にとても嬉しい。


 あ、そうだ。嬉しい事といえば、2週間くらい前、高校の時の同級生の晴山くんががこの前婚約指輪を買いにここにやってきた。久しぶりすぎてお会計の時サインを貰うまで全く気付かなくて、

「え、晴山くん!?」

と私が驚いた声で言ったら、晴山くんもすっごく驚いた顔で

「ええ!待って、雪村さんじゃん」

と周りの人たちが一斉にこっちを向くほど大きな声で叫ばれた。

 仕事中だったからあまり長くは話せなかったけれど、すごく幸せそうな顔で笑いながら、こっちが恥ずかしくなるほど凛ちゃんの可愛さを力説された。私も十分知ってるって何度も思った。


 凛ちゃんと晴山くんとは高校三年生の時同じクラスで、二人が付き合い始めた頃から知っていた。だからプロポーズする話を聞いてとても嬉しかったし、なんならこっちが幸せだった。特に凛ちゃんとは高校一年生の時から毎日一緒に帰るほどの仲だった。高校三年生になって、晴山くんと付き合ってからはあまり一緒には帰れなかったけれど、たまに図書館で勉強したり、夜中に電話したりもしていたし、今でもたまに電話してる。


「そっか、やっとだねぇ」としみじみと話す。

「プロポーズするって決めたら、最近は緊張でなんにも手につかないんだ」

そう言って照れ臭そうに話す晴山くんは心の底から凛ちゃんを大切に想ってくれてるんだと思った。

「大丈夫、絶対成功するよ!凛ちゃん晴山くん大好きだし」


 その後、晴山くんに結婚式に呼んでもらう約束をして、満面の笑みで婚約指輪の入った紙袋を持った晴山くんを見送った。こっちの方が幸せになるくらい幸せそうでちょっと羨ましかった。



 その一週間後くらいだった。凛ちゃんから電話があったのは。


「湊くんがあかりんのお店の袋をね、この前持って帰ってきたの」

久しぶりに話す凛ちゃんは少し元気がなかった。

「あー!この前来たよ、すごく久しぶりでめっちゃ懐かしかった」

何食わぬ顔で平然と答える。どうしたのだろうか。

 少し間があってから、

「あの紙袋の中身って、なに?」

と聞かれた。どういうことだろう。晴山くん隠し事とか下手そうだから、まさか凛ちゃんにバレてしまったのだろうか。付き合って五年目のサプライズだってニコニコしながら話してた佐々木くんの顔を思い出して、これは絶対バレてはいけない、と思った。仕方ない、ここは私が誤魔化してあげたほうが良さそうだ。

「んー、新作のピアス買っていったよ」

「そうなんだ、どんなの?」

適当に新作のピンクのピアスの説明をそのまました。桜型のピンク色の小ぶりなピアスは細かいカットが入っていて、日に当たると光の反射でキラキラと輝く。これなら私の周りも大絶賛でこぞって買いに来ていたし、当たり障りは無いだろう。本当にあれは私もすごくお気に入りだ。

「最近売れ行きいいんだよね!来た人3人に一人はそれ目当てだったりするの」

元気が無さそうな凛ちゃんに無理やり明るく話す。

「そっか」

そう呟いた凛ちゃんは、もっと落ち込んでいるような気がして、

「凛ちゃんへのプレゼントだよ!きっと」

と明るい声で励ますと、

「そうだよね!教えてくれてありがとう」

そう言って他の最近の話を喋り出した。


 あの電話に少し違和感があったけれど、その後は普通だったし、もうすぐサプライズも実行される。きっと大丈夫。


 雪村朱莉は、雨宮凛に嘘をついた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る