第二話

 それ以来、今まで以上に叶内さんを目で追っていた。

 クラスが違うので日頃から交友がある訳ではない。なんだったら一言も交わしたことがない。

 自分でもよく分かっていないがただ、今まで以上に叶内茜という存在が気になり始めていた。


 校内のどこにいても周りには必ず3人から4人の生徒がいて、その全員に対して敬語で話しかける様子からも人柄の良さ何かが伺えた。


 一度廊下を歩けば学年や性別に関係なく、多くの生徒の好奇の目に晒されている。こんなに不特定多数の人間にジロジロ見られる様な人間では無いので、それが日常になってしまうのはどれほど生きづらいのかと考えてしまう。


 でも、そんな人気者も唯一一人になる時間がある。

 それが昼休みの時間だ。なんでも一緒にお昼を、と誘ってもそれだけは頑なに断られてしまうようで周りの友人も不信がっているようだ。

 しかし、叶内さんの人徳のおかげか、必要以上には踏み込まないようにしているらしい。それでもお昼だけは一人になりたいという叶内さんの行動の目的が気になるのは自分だけじゃないようで、少しだけ安心した。


「侑。この前叶内さんが一人で歩いてる時あったじゃん」

「あぁー、お昼にな。それが?」

「わざわざ他の人からの誘いを断ってまで一人になりたいって、どういう時に思うんだろうね」

「んー……例えば常に周りに人がいて、好奇の目に晒されるのに疲れてお昼ぐらいは一人でゆっくり食べたいとか?」

「それはありそうだね。その感情は多分僕たちには理解できないしね」


 侑の言葉がやけにすんなり来た。

 誰しもが人に見せない顔を持っている訳で、それは至極当然のことだ。

 ただ、叶内さんほど優等生で周りからの人望もあるような人ならば、尚更気になってしまうのだろう。


「あ、雨海。ちょうどいいとこにいたな」


 廊下でそんな事を話していると、佐藤先生に声をかけられた。

 佐藤先生は僕たちのクラスの地理担当で、年齢は50を超えているが気さくで、実際にその国に旅行に行った時の体験談を交えながらの授業は、僕たちだけでなく他のクラスの生徒からも人気らしい。


「佐藤先生。どうしましたか」

「ちょっとした頼まれ事なんだけどな。次の授業で使いたい地図があるんだが、昼は部集会があってな。悪いが地理の教科係の雨海に頼もうかと思ってな」

「そういうことならもちろん。ちょっとした雑用くらいいくらでも頼んでください」

「そうか。折角の昼休みに悪いね。じゃあよろしくな」


 要件を伝えると、足早に去っていった。とっつきやすい気安さだけじゃなくて、生徒思いな面も佐藤先生が慕われる所以なのだろう。


「ごめんだけど先に食べてて」

「おぅ。でもそんな時間のかかる事でも無いだろ?」

「管理棟の準備室までだから10分くらい? で帰ってくるよ」

「オッケー。じゃあ待ってるわ」


 僕たちも廊下での無駄話もそこそこに切り上げて、それぞれの用事に取り掛かる。


 

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偏食吸血鬼の叶内さん 沼澤里玖 @2ryukatanso

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