偏食吸血鬼の叶内さん
沼澤里玖
第一話
予鈴が鳴った。
「じゃあ、今日の授業はここまで。47Pの問2は次回までの課題とするので、各自で解いてくるよーに。じゃあ、号令~」
「起立。気を付け。ありがとうございました」
「「「ありがとうございました」」」
長かった。どの教科も一コマ50分と決まっているのだが、体育と数学や英語の体感時間は絶対に違う。
数学はさほど苦手意識も無いが、それでも他の授業よりも幾分疲れる。
「んぁ~、疲れたな結」
「だね。でも、これが終われば昼休みだと思えばいつもよりは頑張れたよ」
「あぁ~それは何となく分かるわ。でも4時間目の数学の攻撃力は半端ないな。途中で何回も殺されそうだったわ」
何とか厳しい戦いを終えた僕と
「あっ、なんか飲みもん買いいかね? 持ってくるの忘れたわ」
「そうなんだ。購買は混んでるだろうし、自販機で買おっか。僕もお茶でも買おうかと思ってたし」
「サンキュー。じゃあ行くか」
そう言って教室を出ていった侑の後をついて僕も教室を後にする。
自販機まで行く途中に購買の前を通ったが、お昼時の購買は多くの生徒でごった返していて、たかが飲み物一本を買うだけでの理由で行くには少し不便だ。
「……おい結。見ろよあれ」
「ん?」
お金を入れ、何を買おうか自販機とにらめっこしていると、先に自分の分を買い終えた侑に声をかけられた。
振り返って目線の先を追ってみると、一人の女生徒が歩いていた。向かう先にあるのは旧校舎しかないうえに、校内で真っ黒な日傘を指している事にも不自然さを覚えるが、多分そんなものが無くても、どこにいても彼女に視線をやってしまうだろう。
「叶内さん、一人で何してんだろーな」
「さぁ、分かんないね」
叶内さんは学年中、それどころか学園中の誰もが知る有名人だ。
セミロングの黒髪にスラっと伸びる長い脚、シミ一つ無いような白く透き通った肌は廊下を歩くだけでたちまち人だかりができ、多くの生徒の視線を集めている。
その、なにか一般人とは違うような優れた容姿もさることながら、成績にも秀でていて定期考査の度に張り出される順位表でも学年のトップ10に名前が載っている。
そんな彼女は周りに誰もいない事の方が珍しいので、尚更一人で中庭を歩く姿が目立っていた。
「あんだけいつも人に囲まれてると、昼ぐらいは一人になりたかったりすんのかな」
「詳しい事情は分からないけど、なんかありえそう」
そんな事を話しながら教室に戻る道中、ついさっきの叶内さんの姿が妙に脳裏に焼き付いていた。
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