第138話 アメーリア
「トバイアス様。アメーリアをお
ダニア本家のブリジットの元を訪れたその帰りの
たがトバイアスは先程から何やら考え事をしているようで、そう声をかけられてふと彼女を見やる。
そして何のことかとわずかに目を
「ああ。先ほどのことか。まったく仕方のない奴だ」
先ほどのこととは、侍女の身でありながら主の縁談の最中に
もちろん彼女がわざとしたことだとトバイアスも分かっている。
だが彼は口ぶりとは裏腹にまったく怒った素振りを見せない。
そんな彼にアメーリアは悲しげな表情を見せる。
「申し訳ございません。アメーリアは悪い娘です」
「本当だ。だが、なかなか面白かったぞ。おまえの黒髪を見た時のブリジットの反応はな。半年以上前に死んだあの女の情夫は黒髪だったそうだ。おそらく相当入れ込んでいたのだろうな。今も忘れられない様子だった。そう思わないか?」
「……はい。ブリジットのことを考えていたのですか?」
そう言うアメーリアの黒い瞳に暗い陰が
だがトバイアスはまるで動じることなく、
「いいや。考えているのはお前のことだ。アメーリア」
そう言うとトバイアスはアメーリアを抱き寄せる。
そしてすぐ前方で
「んむっ……」
「……はあっ」
長い口づけを終えて
そんな彼女にトバイアスは静かな声で
「俺の女はおまえだけだ。アメーリア。ブリジットなどよりおまえのほうが
「トバイアス様……ずるい。でも……嬉しい」
「アメーリア。どうだ? おまえならあの女は殺せそうか?」
「殺せますとも」
アメーリアは即答する。
その小気味良い回答にトバイアスは目を細めた。
「だがブリジットはダニア最強の女王だぞ。彼女と1対1で戦って勝てる男はこの大陸には1人もいないともっぱらの評判だ」
「そうでしょうね。ですが彼女は強いだけです。腕力、脚力、
断言するその言葉の意味を理解したトバイアスは満足げに
「そうか」
「いつ殺しますか? 今からでも引き返して殺しましょうか?」
勢い込んでそう
「今のはおまえの見立てを聞いたまでだ。殺さぬよ。前にも言っただろう? 俺はダニアの戦力が欲しいと。だからブリジットはこの手に収めねばならん」
その言葉を聞いたアメーリアは
「……トバイアス様があの女を抱くと思うと、アメーリアは気が狂いそうになります」
「アメーリア。忘れたのか? おまえは俺にとって特別な女だと言ったことを。いいか? たとえ他の女を抱こうとも俺の心はおまえだけのものだ。俺はおまえしか見ていないぞ。もし俺が他の女を抱くとしたら、それは全て俺の野心のために利用しているに過ぎん。だがおまえだけは違う。おまえは俺の
「トバイアス様……」
それでもなお不服そうなアメーリアにトバイアスは甘い
「そんな顔をするな。俺のかわいいアメーリア。ダニアの戦力をある程度
「妻……」
その言葉にアメーリアは
そしてようやく納得した顔で彼の胸に
「分かりました。辛いですけどアメーリアは耐えます。だってアメーリアはトバイアス様にとってこの世でただ一人の特別な妻になるのですから」
そう言ったその時、アメーリアはふと頭上を見上げた。
その表情は冷徹な戦士のそれに変わっている。
そして
「火矢が来ます。トバイアス様。脱出を」
そう言うと彼女はトバイアスの手を取って
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