第116話 女王の帰還
「クローディア! ようやくのご帰還か。もうワタシらのことは忘れちまったのかと思ったぞ。覚えているか? この
ダニアの街。
ようやくこの街の主が帰還した知らせを聞いて、クローディアの
そんな彼女の様子にクローディアは肩をすくめる。
「悪かったわよ。ブライズ。あなたのそのこめかみの青すじと
言葉とは裏腹に悪びれることなくそう言うクローディアに、ブライズはガックリと肩を落とす。
そんな彼女の肩に妹のベリンダの手が置かれた。
「口が過ぎますわよ。姉さん。
口調こそ
「プッ。アハハッ。あなたたちだけよ。私の
ここはあくまでも
「十血会には週に数度、伝書鳩で指示を送っておいたわ。オーレリアならそれでうまく
十血会。
それはダニア分家の始まりとなった古い血筋の子孫たちからなる、分家の評議会だった。
その長を務めるのが十血長オーレリアだ。
クローディアが不在の間、街に大きな混乱がなかったのは、ひとえにオーレリアの手腕のおかげだった。
「来月はコンラッド王子が遊びにいらっしゃいます。今後しばらくお出かけはお控え下さいな」
ベリンダの言葉にクローディアはウンザリした顔を見せる。
「あの人。香水が
「それならクローディアがお好きな香水を差し上げては? 使って下さいなって。それにお話がつまらない男なんて掃いて捨てるほどいますわ。クローディアの方から話を盛り上げて差し上げてはいかが?」
ベリンダの口ぶりにクローディアは
「オーレリアみたいなこと言わないでよ。ベリンダ。あなただったら彼を夫にしたいと思うの?」
「死んでもゴメンですわね」
軽口を叩くベリンダをよそに、ブライズはクローディアに目配せをした。
自分が拾ったブリジットの情夫ボルドをどこに連れて行ったのかと聞いておきたかったのだ。
だがそれにはこの場にいる妹が
ベリンダにはボルドの一件を伝えていないのだから。
だがその
ベリンダが事も無げに言ったのだ。
「で、クローディア。情夫の坊やとは存分にお楽しみだったのですか?」
「なにっ?」
唐突なベリンダの問いに
そんな姉を見上げてベリンダはニヤリと笑った。
「姉さん。ワタシに隠し通せるとお思いかしら?」
そう言うとベリンダはクローディアに目を向けた。
「あの小屋は引き払われたようですが、もう彼に飽きたのですか? クローディア。初めての男の味はいかがでしたか?」
「……何か勘違いをしているようだけど、ワタシは彼に手出しはしていないわ」
ベリンダを軽く
「3ヶ月も2人だけで暮らしていて何もないってことですか? いやぁ。ワタシなら我慢できないですわねぇ。レジーナは実に我慢強い」
幼名を呼ばれてクローディアは軽く口を
「信じてないわね。ワタシは
18歳になるまでは男と交わらない。
クローディアはそれを
彼女にも女王として代々受け継がれてきた伝統を守る心がある。
だがクローディアがそれを守るのはそのことだけが理由ではなかった。
彼女は男を好きになったことがない。
恋い
もちろんクローディアとして18歳を迎えた時に
具体的には選ばれた部下の女たちが男を抱く様子を間近で見学するというものだ。
それゆえ男女の交わりを見て
彼女はまだ恋を知らないのだ。
「彼はある場所でワタシの仕事を手伝っているわ」
そう言うクローディアにブライズとベリンダは顔を見合わせる。
「それは彼にしか出来ない仕事ですか?」
ベリンダの言葉にクローディアは首を横に振る。
それを見たベリンダはわずかに
「彼はブリジットの情夫ボルドですよ。彼が生きていることを知ればブリジットは彼を取り戻しに動くのでは? ならばしっかりとこの街に囲い、彼を人質にしてブリジットから有利な条件を引き出したほうがよろしいかと」
妹の言葉はもっともだとブライズは思った。
そもそもブライズもボルドを拾った時には、そうした
本家と分家の統合。
それもブリジットを
それは亡き姉バーサの悲願だった。
だがクローディアはきっぱりと首を横に降る。
「ボールドウィンの件はワタシに一任してもらうわ。これはあなたたちが何と言おうともクローディアとして譲れないの。ただ……2人は事情を知っているから、近いうちにワタシの考えを話すわ。ともあれ今は彼の件は他言無用で」
その女王然とした言葉にさすがにベリンダも口を閉じる。
何か彼女に考えがあることは分かったので、今日のところはこれ以上の追求は避けることにした。
ブライズも同様だった。
幼き頃から知るクローディア……いや、レジーナは有言実行の女だった。
近いうちに話すと彼女が言った以上、必ずそれは実行されるだろう。
ならば自分たちに出来るのは待つことだけだ。
ブライズとベリンダはボルドのことを他言しないことを
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