第105話 まさかの出奔
妹との用事を済ませてブライズは自分の館に向かっていた。
分家の女王クローディアの
昔から
そのせいでその体には生傷が絶えなかったが。
「チッ。ベリンダの奴。満足そうにしやがって」
妹のベリンダが毒薬の実験で殺した
そのタビサの死体を食らったのは調教に
猛獣の性質には個体差があり、どんなに力で押さえつけても服従しない個体もいる。
そうした
そのためベリンダによって毒味の役割に白羽の矢が立てられたのだった。
いかに妹の頼みとはいえ、ブライズとて
「とはいえ、
先日は姉のバーサのたっての願いで多くの
その際にかなりの数の
だがブライズはそのことは後悔していない。
バーサが自分の命を失うことをも
ブライズにとって姉のバーサ、妹のベリンダともに姉妹ではあるものの、ダニアの女戦士同士でありクローディアに次ぐ2番手を争う競争相手でもある。
姉のバーサが戦死したことを知った時も少なからず感傷的な気分になったものの、だからと言って
姉は戦士として自らの戦場で死んだのだ。
ならば文句を言う筋合いはない。
ダニアの女としては
「そういえばあの鳥使い。なかなか面白い奴だったな」
ブライズは道すがら空を見上げて頭上を舞う鳥を見ながら、ふとそのことを思い出した。
あの夜、鳥を使ってブライズの位置を把握し、巨大なヒクイドリに
同じく
あの女は出来れば捕らえて自分の部下にしてみたい。
そんなことを考えながら歩き続けると彼女の館が見えてきた。
今、その館にはある人物を捕らえて閉じ込めている。
「ありゃまさに天からの落し物だったな」
バーサはその時のことを思い返した。
********************
本家の本拠地である奥の里のさらに奥、天命の
鳥使いの女を振り切って谷の向こう側へと飛び渡ったブライズは、
姉の戦いぶりを最後まで見届けたかったが、そんなことをして自分が捕まってしまえば元も子もない。
生き残った数頭の
谷底には
何かと思ってブライズが上を見上げると、
目を
落下してきたその人物は
後方の
すると薄い星明かりが
「……男か?」
その男は
死んでいるようだ。
そう思ったブライズだが、その男がわずかに表情を
「おい。あの男を回収しろ」
予期せぬ命令に部下たちは戸惑ったが、ブライズに
そして男を船の上に引き上げた。
ずぶ濡れの男はまだ若かった。
そしてその男の頭髪を見て部下たちはブライズの命令の意味をようやく理解した。
黒髪の男女は死体でない限り有無を言わずに連れ帰る。
それが昨今の分家の方針だった。
ブライズは男を見て、それから頭上の
この
「こいつまさか山頂から落ちて来たのか? よく生きていたな」
両腕の
おそらく両手両足の骨が折れているのだろう。
オオシダレヤナギに幾度もぶつかったせいだ。
だかこの男はそのおかげで生きている。
幾度もバウンドするうちに落下の衝撃が相当に弱まったのだ。
「運のいい男だ」
この時期でなければオオシダレヤナギの枝にはあれほどの葉が茂らない。
季節が冬だったとしたらこの男はそのまま水面に落下して、おそらく脳や
そしてブライズは男が落ちた山頂をもう一度見上げた。
「黒髪……こいつもしかして」
その人物に思い至ったブライズはニヤリと笑みを浮かべるのだった。
******************
その時のことを思い返しながら自分の館に戻ったブライズはすぐに異変に気付いた。
彼女を出迎えた
「騒がしいな。どうした?」
「ブ、ブライズ様が捕らえた例の人物ですが……」
「あいつがどうした?」
「急にここにクローディアがいらっしゃって、あの男を連れて
「な……なんだってぇぇぇ?」
ブライズの館の中に主の仰天する声が響き渡ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます