第6話

「ねえ、君はどうしていつも本を読んでいるの?」

この一言から全てが始まった


いつのころからであったであろうか

僕の前の席が空くことが増えていた

初めは月に一度だけ

でもその次の月は二度、そして三度、四度とその回数は増えて行き、週に一度二度、そして今ではほぼ毎日となっている

確か前の席は女学生であった

それもクラスだけではなく、学年、いや、学校で一番輝いている女学生

きっとこの学校に彼女の名前を知らない人はいない

いつもクラスの人気者で、明るくて、周りに誰かしらの人がいて、まるでお日様みたいに

彼女は来ない

けど誰も困っていない

彼女は消えた

でも誰一人たりともその話はしない

例え跡形もなくその姿を消してしまっても、もう誰も覚えていないのだろう

そう僕には思わせた


「ただいま。」

「お帰り。」

僕は居間に向かって呼びかけるとすぐに妹が走り出てきた

妹は今年で中三生、事情があってこの近所ではなく少し離れた小さな小中高一貫型の中学校に通っている女学生

でも僕はその事情をこれっぽっちも知らない

多分家族で僕だけ

「お兄ちゃん、荷物持つよ。」

「ありがとう。」

僕はこの妹にスクール鞄を持たせた

妹はきびすを返してまた奥へと走っていった

「あんまり走ると転ぶぞ。」

「分かってる。」

「あいつ絶対分かってねえな。」

「手、洗ってから中に入んのよ。」

「はあーい。」

奥から母の声がした

僕は靴を脱ぐと言われた通りに手を洗い、それから奥へと扉を押した

ホットケーキのいい香りが玄関まで伝わって来た


「今日、何かあった?」

「あったって?」

母がテーブルに腰を下ろしながら僕にそう尋ねた

「テ・ス・ト。」

母は人差し指を三回横に振った

「ま、まだかなー。」

実はもうすでに答案は帰ってきてた

「それで?何点?」

母は僕の顔をじっと覗き込んだ

妹も母の真似をした

「ま、まだだって言ってるじゃないか。」

「うそ。」

「ほんと。」

妹僕の隣で熱々のホットケーキを口いっぱいに頬張りながら妹は、僕と母とのやり取りを笑顔を見つめていた

「う・そ。」

「僕がほんとって言ったらほんと。」

「嘘。」

「嘘なら嘘だって証明して見ろよ。」

「だって口元が笑ってる。」

「え‼」

僕は慌ててホークをプレートに置くと、口元を覆った

「ほらほら、また笑ってる、でしょ。」

母は妹の顔を覗き込んだ

「ほんとだ。」

妹はキャッキャと笑った

「こうは嘘が下手何よ、すぐに顔にうそですって出てる。」

「で、出てないよ。」

「分かったわ、気が向いた時でいいから必ず見せなさい。」

「分かったよ、でも気が向いたときな。」

僕がつっけんどんにそう言うのを母はかすかに笑っていた

「それで何点だった?」

「だから気が向いたらって言ったじゃん。」

「何点?30?40?」

「そんなに低いわけないだろ、50だよ、あっ。」

僕は慌てて口を押えた

喋ってしまった

「ほら50だって、30も40もそんなに違わないのにねー。」

母は妹の顔を覗き込み、一緒にねーと言った

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あいたい @reina0526

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