第3話

しばらく自転車に乗って、奴と僕は小高い丘の上にいた

「ここだ、降りろ。」

僕は木々の間から下を見下ろした

「学校が見えるだろ。」

「うん。」

小さな中学校があった

「もうすぐ来るだろうからあそこの茂みに隠れろ。」

奴はしきりに時計を確認していた

奴の言われたところの茂みに僕は隠れた

後から奴も続いた

「な、何かあるの?」

「いいから黙って見てろ。」

奴が指さした方に踏み固められてあまり雑草が生えていなく地肌がむき出しになっている細い道があった

「一、二、三、四。」

「五、六、七、八。」

どこからかともなく掛け声がした

「何の声?」

「いいから黙って見てろ、あんまり騒ぐとここにいることばれんぞ。」

十人はいるであろうか

女の子たちがランニングをしていた

先頭と背が低い女の子が音頭を取ってその後に他の女の子たちが続いていた


彼女らが走り去ってしばくし、奴が立ち上がった

「もう立ってもいいぞ。」

「誰だったの?」

僕はよろよろと立ち上がった

奴の隣で茂みに隠れていたからか足がいつもより疲れていた

「先頭が俺の妹、名前は野乃。」

「陸上部?」

「そうだ、お前の妹もな。」

「でもいなかったよ。」

「だからそのことを言っているんだ、お前の妹だって陸上部なのに去年の終わりぐらいから全然部活に来ていないって野乃が言ってたんだ。」

「そうなんだ、全然知らなかった。」

「妹と話しをしていないのか?」

「話しはしているけど部活とか学校の話が全然だな。」

「だからか、野乃が心配していた、一様あいつだって陸上部の部長だからな、それに昨日学校で倒れたんだって?」

「病院に行ったみたいだった。」

「それで元気なのか?」

「別に本人が言うには大したことはないって。」

「ならいいが、いやな、野乃が気にしているから聞いてみたかっただけなんだ。」

「今日、帰ったら聞いてみるね。」

「おお、そうだと頼む、あとこれ、俺は走って帰るからお前は乗って帰れ、貸してくれてありがとな、おかげでランニング時間に間に合ったよ。」

「よ、よかったら家まで乗せていくよ。」

「いやいいよ、だって俺んち汚いし、このすぐ近くだから。」

「そ、そうなんだ。」

「じゃ、また明後日学校でな。」

「う、うん。」

奴は丘を走り下りて行った


僕は家にまっすぐ帰った

玄関の戸を開けるといつも通り妹が走り出てきた

「お兄ちゃんお帰り。」

”バシ”

僕は妹の頬を叩いていた

「な、何するのよ。」

妹は痛そうに頬を抑えた

「俺に嘘をついていたな。」

もう一度振り上げようとした手を誰かにつかまれた

「叩くでない。」

父であった

僕は上げてた手を下ろした

「父さんもだよ、父さんもどうして僕にだけ黙ってたんだよ。」

「何をだ?」

「去年の終わりから部活に行ってなかった、どうせ父さんだって知ってたんだろ。」

「ああ、知ってたとも。」

「だったらどうして僕にいつも運動部に入れ運動部に入れって言うんだよ、どうしてそもそも陸上部に入っていながら全然部活に行ってないやつには何も言わずに僕にだけ言うんだよ、そんなのおかしいだろ。」

「こう。」

「何だよ。」

「明日暇か?」

「はあ?」

「暇かって聞いてんだよ。」

父の声も吊り上がっていた

「暇だよ。」

「じゃ、来い。」

「どこに?」

「病院にだ。」

「病院ってどこの?」

「斉川総合病院、いいか、明日の8時だ、いいな、絶対に送れるんじゃないか。」

「わ、分かったよ。」

「分かったならいい、入れ。」

父は妹を前に押すようにしながらリビングの中へと入っていった

(明日、朝の8時、斉川総合病院、家の近くの西川子供クリニックじゃないんだ。)

僕は無言で二階に上っていった


次の日の朝

”7:45”

僕は自室の時計を見た

(今家を出ればぎりぎり約束の時間には病院に着く、さっき物音がしていたからもう母も父も家は出ているだろう。)

僕はリビングに下りた

妹が一人で食卓で目玉焼きを食べていた

僕は咳払いをした

そうでもしなければ昨日の喧嘩をなかったことにはできなかった

「何?」

妹は大きな目玉焼きをむしゃぶりついていた

「あれ?一人?父さんたちは?あ、もう行ったのか、そう言えばそうだったよな、お前も一緒に来る何てことはどうなんだ?ま、いやならいいんだけどさ、そ、そうだ、か、帰りにお前の好きなお菓子でも買ってきてやろう、何がいい?チョコか?あ、そう言えば前にバナナチョコが好きだって言ってたよな。」

「速く行かないと遅れるよ。」

意外にも冷静な返事が返って来た

「そ、そうだよな。」

僕の視界に妹が目玉焼きを食べづらそうにしている姿と台所のミニナイフが入った

「その目玉焼き、僕が切ってやろうか?」

「ほんと‼」

思いのほかいい笑顔だった


「ねえ、お兄ちゃんさ。」

「ん?何?」

妹がナイフを握っている僕の手をそっと触れた

「何かあるの?もっと小さく切った方がいい?」

「ううん、そうじゃない。」

妹はブラウスの裾を握っていた

「どうした?何でも言え。」

「今日さ、お医者さんでも看護師でも誰でもいいんだけど、何か言われたらそのままそっくり私に教えてくれない?」

「そんなの母さんから聞けばいいだろ、だいたい僕は今日怒られに行くようなもんだから、だって見ただろ、昨日の父さんのすごい剣幕、きっとまだ怒っているんだろな。」

「いいから全部教えて。」

僕を見る妹の目が少しうるんでいる

「分かった。」

僕はナイフを置き、妹の手をそっと握った

妹は握り返してくれた


さすがは総合病院と言うだけあって大きい

そしてまだ始まる前だからか中は暗い

僕は守衛が呼んだ看護師に連れられて小児科の奥のカンファレンスルームに入った

すでに父も母も医師らしき男の人も看護師らしき若い女の人もいた

「それでは始めましょうか。」

僕が看護師に勧められるがまま椅子に座ったのを男の人は確認すると正面に向き直った

「僕が小児科医の丹原一典と申します。お嬢様の担当医です。」

医師は僕たちに胸の名札を見せた

アンパンマンのシールがふちにたくさん貼られていた

「よろしくお願いします。」

父と母はおずおずと頭を下げた

「えー、ではます始めにこちらを見て下さい。」

医師はシャウカステンにMRIの写真をはめた

「こちらがお嬢様の13歳と言う年代で考えた場合の正常の心臓の様子です。それでこちらが先日お嬢様が胸の痛みをうったえられて近くの整形外科さんで一度撮られたお写真ですね。」

医師はもう一枚のX線写真をはめた

「こちらのお写真を見た整形外科さんが心臓部に異常があるとのことでこちらにお越しいただいたであっておりますでしょうか?」

母は無言でうなずいた

「確かに心臓の右半分に白い影のようなものが確認されますね、それでこちらが当病院で新たに撮られたMRIのお写真。」

医師はさらにその隣にMRIの写真をはめた

「右半分をよくご覧になってください。」

医師はペンで心臓の右側を指し示した

母は父を押しのけて写真をよく見ていた

医師はシャウカステンを母に近づけた

{それでこちらがさらに点滴でここから造影剤を入れた写真。」

医師は自分の右腕に針で刺すような手真似をした

「右の方に何か大きな塊が見えるでしょ。」

ある程度の距離がある僕からでも見える大きなそして心臓にべったりと張り付いているように見えるもの

「悪性腫瘍です。」

母の目に何か光るものがあった

「娘は、娘は治るんでしょうか?」

「腫瘍を完全に取り除くには大きく分けてこの三つがあります。」

医師は人差し指を上げた

「抗がん剤、しかしこれほどの大きさの腫瘍であれば根治は難しい、だから何かと併用と言う形を取ります、そして二つ目。」

医師は指で二を現した

「放射線治療、しかしこれでは困難、よって不可能、そして。」

医師が指を三つ上げた

「手術か。」

父の口から言葉が漏れた

「はい。」

医師は静かに頷いた

「手術と言うのはどれほどの?す、すぐに終わるんですよね。」

医師は無言で首を横に振った

「いいえ、前もって言っておきますが、かなりの大がかりな手術になります、正直言ってしまいますと、当病院でもかなりの難易度があります。」

「そんな。」

母が机に泣き伏した

「で、でもしゅ、手術はできるんですよね。」

父の頬が引きつっている

「もちろんできますよ、ただ。」

「ただ?」

母が顔を上げた

「ただ何か?」

「これほど大きさの腫瘍は従来の部分切除と言った方法はできようできません、だから?」

「だから?」

「心臓移植となります。」

医師が口ごもった

「心臓移植は危険なのですか?」

「いえ、それ自体は危険ではありません、ちょっと大規模な手術になりますが問題はそこではなく。」

「では一体全体何だって言うんですか?」

ずっと緊張状態が続いていたからか母の声があからさまにつりあがっている

「まだ何かあるのですか?」

「従来の移植であれば、たいていはドナーが合う親族の方がよろしいのですが。」

「心臓がなければ生きていけないと言うことか。」

「はい。」

しばらく沈黙の時間が続いた

心臓移植が意味をすること、それはドナーは必ず生きていなければならないこと

そしてこの場合ドナーが合う人、つまり親族関係か国民にいるかいないかのドナー適合者を探さなければならないと言うこと、ここまで来るのに一体全体どのくらいの長い年数と時間とお金がかかるのか

「これからドナーの適合者を探すために日本移植学会に連絡をしてみます、心臓には大きさがありますから。」

(そうか。)

その時僕は思った

(この医師が心配しているのはそこではない、ただ全く同じ大きさの心臓を見つけると言うことはそれだけ同年代の子供が亡くなっていると言うこと、そのことをもしも仮に妹が知ってしまったら傷つくかもしれない。)

「あの。」

母が手を上げた

「どうぞ。」

「もしも仮に手術だと言った場合どんな感じになるのでしょうか?」

医師の顔が曇った

察したかのように母が慌てる

「別にそう言うんじゃなくて、ただただ興味本と言うかそんな感じなんで、別にそんな。」

「もしも仮に手術をした場合、まず最初に心臓を止めるか止めないかと問題が起こります。」

医師が手を顔の前に組んだ

「ただし止めたとしても代わりに人工心肺を付けるので何の問題もありません、ただ、手術が終わった後にきちんと元のように動くかどうかの保障は残念ながら現時点でできません、そしてもし仮に心臓を止めなかったとしてももし仮に術中にミスをした場合、大量出血を引き起こしてしまいます、つまりそれだけのリスクを背負った上で手術に臨むわけです。」

「ちなみに術式は?」

「ガンである悪性腫瘍を心臓部分と引き離し、分離させ、一気に引き抜きます、そしてその間に今度は別の執刀医が引き抜くと同時に心臓の縫合を行います。全てのことを一瞬のうちに済ませると言うことになります。」

父と母が二人とも頷くと医師は僕の方を見た

僕も黙って頷いた

正直言ってしまうと一体全体何の説明をしているのか、全く分からなかったが、とにかく頷くしかなかった

「では。」

医師が立ち上がるとそばでひたすらメモをしていた看護師がすかさず立ち上がって移植手術の同意書を父と母も前に置いた

「では期日中に記入してナースステーションに持ってきてください。」

父と母の返事を待たず、医師はいなくなっていった

「い、一旦保留にさせていただいてもよろしいでしょうか?」

「どうぞ。」

母のおずおずとした声に看護師はあっさりと返事をした

「では。」

看護師も出て行った、ドアから入って来た風で妹のMRIの写真がひらひらと舞って下に落ちた

「二人とも、先に帰っていなさい。」

「え?」

僕は父を見た

父の表情が全く以って読めなかった

「な、何でですか?」

昨日思い切り喧嘩をしたからかついつい敬語になってしまう、いけないくせだ

父は僕に対して返事をする代わりに落ちた妹のMRIの写真を拾った

母に促されるがまま、僕は席を立って、カンファレンスルームを後にした

後には妹の数々の症例と父だけが残された


「ねえ。」

帰り道僕は母と自転車を押しながら母に話しかけた

「何?」

「お父さんは一体全体何をしたいんだろう。」

「あなたのお父さんは先を見据えているのよ。」

「先?」

「あなたのお父さんがどこで働いているのか知ってる?」

「確か、保険会社だとか。」

「そう、だから今までどんな患者さんが訪れてきたのか知っているのよ、この間、お父さんの帰りが早い時、あったじゃったじゃない。」

「あった。」

それは確か僕が夜で便せんの類を買いに行った時だった

「それはね、先方との取引が終わったと言うことよ。」

「先方って誰?」

「患者、この場合はご遺族。」

「ご遺族ってことはその人はもうすでに亡くなっているの?」

「そうよ、亡くなっているからなぜその人が亡くなったかを知るための死亡届をもらって、そこから人事とか経理会計に連絡をして、ちゃんと医療手当や見舞金、それに死亡保険もね。」

「そうか。」

「何で父さんが今日、あなたをここに連れてきたのか分かる?」

「妹の病気の深刻さを僕に知らせるため。」

「それもあるけどだったら家でも言い訳じゃない、じゃ、どうして?」

「どうしてって言われても。」

「大人になれって言うことよ。」

「大人?大人はだって18から。」

「そうじゃなくて、速く精神的に大人になりなさい、常に生と死はそばにあるもの、だからそのことを今改めて理解をする必要があるわ。」

「生と死は常にそばにあるって、それってまるで妹がもう死んじゃうみないじゃないか。」

「だから方法を探しなさい、あなたのお父さんはこれまでの関係でなるべくいい執刀医を見つけ出して、違うもっといい方法を提案してもらう、私はなるべく妹に負担をかけないようにできる限りなるったけの配慮をしていく、じゃあ、あなたは?あなたはただただ黙って見ているだけの傍観者?それでもいいの?どっちなの?」

「い、いいはずがない。」

「だったら、だったら速く動きなさい。」

「母さん。」

ゴン

不意に鈍い音がした

そして僕の額に痛みと激痛が走って来た

「痛った。」

見ると目の前には大きな電柱があった

「ほら言わんこちゃない。」

「あ‼」

僕は空を指さした

「何?」

「ほら、虹。」

「あ、ほんとだ。」

虹の先は家の方を指していた

「そうだわ、虹の先まで走りましょ。」

「走るって虹はだって水蒸気の水の塊。」

「そんなこと関係ないわよ。」

母は走り出した

僕もそれに続いた

虹の先は妹が今いる場所を、そしてもう反対側は、また違う場所を指していた


帰るとすぐに妹に腕を掴まれた

「約束。」

「分かった分かった。」

僕は妹を引き外した

母は僕と目が合うな否やすぐに二階に階段を登って行った

(母さん、ずるいぞ、自分が言いたくないからって。)

妹は僕をリビングのテーブルに向い合せになるように座らせた

「それで?」

「ええっと。」

さすがに事実を全て話すことは尻込みをした

僕は深呼吸した

「はっきり言います、あなたはガンです。」

「ガンってどこの?」

「心臓の。」

「心臓のどこの?」

「右側半分。」

「術式は?」

「心臓移植。」

「ドナーは?」

「これから探している。」

意外にも妹の反応はたんたんとしていた

「もっと驚いたり泣いたりしないの?」

「しない。」

「どうして?」

「だって先に調べておいたから。」

「そうか。」

「それって手術をすれば治るんだよね。」

「多分そうだな。」

「時間は?どのくらいかかるの?」

「さ、さあ。」

「危険度は?」

「か、かなりあるんじゃないのかな。」

「寿命は?」

「じゅ、寿命?」

「そう寿命、もし仮に手術を受けなかったとしたら?もし仮に受けたとしてもその後は?」

「さ、さあ。」

僕は改めて実感した

この僕の目の前にいる妹はすでに自分の病気を受け入れている

そしてそこには何も感情も持っておらずただいつ治るのかを気にしている

それは僕の予想をはるかに超えていた

「お兄ちゃんさ。」

僕は妹に向き直った

「どうした?」

「どうして病気は私を選んだの?」

その質問に僕は妹をきつく抱きしめることでしか答えることができなかった


次の日の放課後

僕は市民図書館にいた

少しでも妹からの質問に何も見ずにすらすらと答えてやるためにはそれくらいのことが必要だった

医療コーナーを回って小児がんの分厚い参考書に引き抜いた時、僕の足に何かが落ちた

僕は拾った

「USBだ。」

裏にはしっかりと太いマーカーで私とだけ書かれている

「一体全体誰だろう?」

僕はUSBを上着のポケットにそっとしまった

隣で本が落ちた

僕はそれを拾い上げ、顔を上げると、そこには美咲さんが突っ立っていた

「や、やあ。」

正直言ってしまうとどう返事を返せばいいのか全く分からなかった

「やあ。」

美咲も返事をしてくれた、どうやら大丈夫なみたいだ

「ど、どうしてここにいるの?」

「学校が終わったから。」

「そ、そうじゃなくてどうして?」

「ああ、用事ってこと?」

「そ、そうだけど、あ、暇だからだよね、ご、ごめんね、今場所どかす。」

僕は手に持っていた本を棚に戻し始めた

「いいよ、あなたこそどうしてここにいるの?」

「と、特にないよ。」

美咲さんは本棚のラベルを黙って指さした

「あ。」

(そうか、ここで僕が調べていたことが医学に関する事だとすぐにばれてしまうのか。)

「え、えっと。」

そして美咲さんの指は僕の手に持っていた本に動いた

(小児が入院した時の対応法。)

「え、えっと。」

それから美咲さんは僕を指さした

「え、僕?」

美咲さんは黙って頷いた

「あ、僕の興味外だろうって。」

美咲さんは黙って頷いた

「ま、興味がうまれたんだよ。」

美咲さんが黙って首を傾げた

(どうしてって言いたいのか。)

「興味ができたから、あ、医大を目指しているから。」

美咲さんは黙って一冊のノートを差し出した

まるでこれをあげるとでも言いたいかのように

「あ、ありがとう。」

「じゃあ。」

美咲さんは踵を返すと僕の目の前からいなくなっていった

僕はただただ無意識に手を振りながらただただ茫然と立ち尽くしているだけだった

「何だろ。」

僕は美咲さんからもらったノートの表紙を見た

”小児がんによる入院で必要となってくるもの”

「小児がん?」

僕はノートを開いた

「基本的に食べ物はダメな場合が多い、だからお菓子系は持っていかない以前に見せない、話をしない、思い出させない、テレビはあるからテレビ番組系の話はOK。」

僕はページをさらにめくった

「DVDを見る機械はだいたいテレビの備え付けであるから持っていくと言い、ただしその場合はこまめに新しい作品を持っていくこと、もし仮に何かお気に入りのものがあれば、退屈させないように必ず持っていくこと、へー、そうなんだ、知らなかったし、そこまで詳しい話はどの本や参考書にも乗ってなかったな、でもどうして美咲さんはそこまで分かっているんだろう、不思議だな。」

僕はノートをコートの中に挟むと上着のポケットにまだUSBが残っていることを上から触って確認をして、図書館を後にした

12月の肌寒い冷たい空気が流れていた


僕は家に着くとすぐに自分のパソコンを立ち上げ、USBをさした

(軽くだけ中身を見させてもらったら一体全体誰なのか分かるかなだいたいもってあそこの市民図書館はほとんど市民しか使用しないような小規模のところだから。)

すぐにWordの文章が立ち上がった

「題名はなしか、何々。」

私はガンです

もう治ることはない治らないとでさえ言われています

去年の冬に学校の健康診断に引っかかって精密検査でガンが見つかりました

甲状腺がんです

ステージ4

手術は適応外です

お母さんにもお父さんにも周りの人からでさえどうしてこんなになるまでほおっておいたのかよく言われました

でも自分でもよく分かりません

ただそれでも分かることが確かなことがあります

それは後余命が半年であると言うことです

半年です

どんなところのセカンドオピニオンを受けても全く以って同じことを言われます

それでも私は生きたいです

生きていたいです

ただ私は将来小説家になりたいからです

小説家になってもっと私と言う人の存在を多くの人に知ってもらいたいです

病気になってから初めてこの夢ができました

でも病気は病気です

少なくとも高三になって無事に高校の卒業することはないでしょう

「この人ガン何だ、しかも僕と同じ年、それに何でだか分からないけど決して文章能力が高いとか語彙力があるとかと言うわけでもないのに、何かすごく身近に感じる、でもできるだけ速く持ち主にしっかりと手渡したい、そして話したい。」

その日から僕の日常は変わった

毎日放課後が地域のデイサービスや医療センター、病院にでさえ出向いた、もちろんいろんな学校にも出向いた

でも思うようにはなかなか見つからなかった

甲状腺がんで、今高二で、そして小説家になりたいと言う夢を抱いている人

そんな条件を全て満たしている持ち主はなかなか現れなかった


「はあ。」

「何?」

僕は思わず妹の前で溜息をついてしまった

妹はここ二三日でまた体調を崩して入院してしまっていた

「ある人を探しているんだよね。」

「どんな?」

「多分だけど市民図書館は知っているだろ。」

「うん。」

「そこ近く、もしくはその存在を知っている地域住民。」

「それで?」

「今、高校二年生。」

「それで他には?」

「その人もガン何だ。」

「ガン?」

「甲状腺がんステージ4。」

「そうとう思いのね。」

「余命半年。」

「短い。」

「そして、最後画大事なんだが。」

「何?」

「小説家になりたいと言う夢を持っている。」

「それだとだいぶ限られてくるのよね。」

「分かるか?」

「探すのなら手伝ってあげてもいいわよ、だってここ、黙っていてもただ暇なだけだし。」

「ほんとか。」

「ええ、いいわよ。」

(妹の手も加わった、これで何とか探せ出せるかも。)

「私はナースステーションで聞いて見るわ。」

「頼む、そうしてくれ。」

「いいわよ。」

それを言ったきり、妹は横になった

僕は部屋の電気を消した

「お休み。」

返事はなかったが、僕にはまるでお休みと返してくれたかのように感じた


次の日、僕は教室に入ってすぐ、視線を感じた

みんなの視線を集めた先には、美咲さんがちょこんと仰々しそうにきょろきょろしながら座っていた

そしてさらにその周りには女子たちが集まっていた

実に何カ月ぶり何だろうと言う感じでさえした

チャイムがなり、取り巻き集団は席に戻っていった

先生がつかつかと歩いて入って来た

一斉に起立した

先生が教卓に立つと同時に日直の号令で一日が始まった

顔を上げても前に人がいる

礼をしても前に人がいる

いつも前には誰もいなくのがもはや普通となってしまっていた僕には、この状況がどこか新鮮に思えていた

先生は前の席の人たちにプリントを渡し始めた

明日提出必修の課題らしい

美咲さんが僕に振り向いた

僕はプリントを受け取り、一枚自分の分を取ると、また後ろの人に回した

前に向き直ったところで美咲さんと目が合った

「ま、た、あ、と、で、れ、い、の、ば、しょ。」

美咲さんは声を発していない

けど僕にはそう言っている風に聞こえた

僕は無言でうなずいた

美咲さんは向き直った


放課後になり、特に何も用事もなかった僕は、一目散に市民図書館に向かった

「速かったじゃない。」

もうすでに美咲さんは医療コーナーの前に立っていた

「き、君が速すぎるんだよ。」

「よくここだと分かったわね。」

「だってそう言っている風に聞こえたから。」

「そう。」

「な、何かあるの?」

「特に何も。」

と言いながら美咲さんは本を探している素振りと見せた

「何の本?」

美咲さんは手を高く伸ばした

一番高い段の本を取りたいみたいだ

けどその手は高くは伸びない

伸ばしていない逆の手で背中をさすっていた

「僕が取るよ。」

「ありがとう。」

「何の本?」

「あの、小児心臓の外科的治療法。」

一瞬ぎくっと来た

正直言ってもしかして美咲さんは妹が病気であることを知っているんじゃないのかでさえ思った

僕は必死に目で本を探した

手が届きそうもない上層段、その下、そのさらに下と

でもその本はどこにもなかった

「ないよ、どこ?」

「あなたの頭の中。」

美咲さんの指は僕の頭を指さしていた

「え?」

「あなたは今、そういう題名の本を探していたでしょ。」

「う、うん、まあ、そうだけど。」

「その本がある場所を、私、知っているわよ。」

「ど、どこ?」

そんな本、ネットにでさえ出ていなかった

「糸魚川図書店知っている?」

「どこ?」

聞いたこともないような知名の本屋だった

「早川駅のすぐそば、降りてすぐの細い路地を通ったところ。」

「だいたいでいいから駅からどんくらいかかるの?」

「歩いて20分ほど。」

「本当にその本はあるの?」

「あるよ。」

「ど、どうやって損本があることが分かったの?ね、ネットにも出ていなかったんだけど。」

「私を甘く見ないでよ、こう見えて私は将来小説家、つまりは文豪を目指しているんだから。」

「す、すごいね。」

美咲さんは僕を小突いた

「今週の日曜日は空いてる?」

「空いてるよ。」

「じゃあさ、連絡先、交換しよ。」

「う、うん。」

「じゃあこれ、はい。」

「あ、ありがとう。」

美咲さんはポケットから名刺入れらしきものを取り出すとメアドが書かれいていた

「あ、あの。」

「何?」

「電話番号とか、ラインは?」

「そんなのないわよ。」

確かに暮らすのラインですら入っていなかった

「そ、そうか。」

「何かごめんね。」

「ぜ、全然そんなのいいよ。」

「じゃあ、また今週の日曜日にね。」

「う、うん、じゃあ。」

美咲はぱっぱと歩いていなくなっていった

美咲さんを見送ったところで僕の動きは止まった

(ちょっと、待てよ、今、また今週の日曜日にねって言ってたけど、それってもしかして今週はもう学校に来ないって言う意味なのかな。)

僕も何も本を借りずに図書館を出た


僕の予想通り、美咲さんは学校に来なかった

約束の日曜日になり、僕は早川駅の前に立っていた

約束したのは”12:00”

その時間を少し過ぎた頃、美咲さんは現れた

着物のような服を着ていた

「おはよう、ごめんね、電車間違えちゃって、そっから迷っちゃた。」

「ううん、全然いいよ、それより今日はよろしく。」

「こちらこそよろしく。」

「じゃあ、行こうか。」

「そうね。」

美咲さんの着物のような服から喉の前に四方5㎝くらいの傷が見えた

(ケガでもしたのかな、でもそれにしてもあんな場所を一体全体どうやって。)

しばらく路地裏を歩いて、僕らはある古びた書店に着いた

「びっくりしたでしょ、こんなに古びて。」

「何か、趣があるんだね。」

「あら―、何かうまく言い換えましたって言う感じじゃん、やる―。」

美咲さんは僕にニヤッと笑った

僕も軽く笑い返した

つたに覆われている看板に、永生文庫図書館、そしてさらにその下に本にすれば永久に生きることができると書かれていた

(永生文庫?何か聞いたことがないような名前なんだか。)

どんどん歩く美咲さんを僕はただひたすらに追いかけていた


「これよ。」

美咲さんが声を発するまで、僕たちはかなりレトロな図書館の中を歩き回っていた

”小児心臓の外科的治療法”

確かにその題名の本はあった

「でもどうしてこの本があることとここに図書館があることを知ってたの?」

「それはやっぱり本好きはつうだからね。」

「そ、そうなんだ。」

「せっかくだからさ、下の方に小さな喫茶店見たいなところあったじゃない。」

「そうかもね。」

歩くのに必死で全然周りのことを見ていなかった

「だってせっかくここまで来たんだよ。」

「うん、いいよ。」

「よっしゃ。」

そう言うと美咲さんがガッツポーズをした

僕はか細く笑い返した

(でもここに図書館何てあったかな?)


僕たちは喫茶店にいた

カフェの雰囲気をかもし出していた

僕は小さなフルーツパフェを、美咲さんはコーヒーとあんみつを注文した

「コーヒー飲めるんだ。」

正直言ってしまうと美咲さんがコーヒーを飲めるとは夢にも思わなかった

「飲めるよ。」

「でもいつもあんまり飲んでなくない?」

「うん、学校ではそうかもね。」

「どうして?」

「周りがいるから。」

「周り?でも学校でも飲んでいいんだよ。」

「だって美智佳ちゃんとか先生とかもいるし、家に帰ったら帰ったでもお母さんがいるし。」

「ああ、だからあんまりそんなに飲めないんだ。」

「そうなのよ。」

確かその美智佳ちゃんと言うのは先日彼女が久しぶりに学校に行った時に周りにいた取り巻きの一人だ

いつもグループの中心にいて、美咲さんにぞっこんだ

「ふうーん。」

「あんまり興味なさそうね。」

「うん。」

「結構あっさりなのね。」

「だって全然関係ないから。」

「それもそうね、そうだわ、夏祭り知ってる?」

「もちろん。」

「大文字焼があるんだって。」

「京都の嵐山のこと?」

「ううん。」

「じゃあ、一体全体どこ?」

「群馬県の菱川村。」

「へえー。」

「ねえ、行ってみない?」

「群馬県まで?」

「そうよ、これを見て。」

美咲さんはずっと大事そうに持っていた鞄から一枚のチラシを取り出した

「これがそのポスターのチラシよ。」

「八月十八日、午後三時からお祭りを開始、その後午後七時を回り辺りが暗くなり始めた頃くらいに大文字焼に点火。」

「ね、行って見よ。」

「でもここだって群馬だよ、しかも菱川村ってここにある地図を見る限りだけどかなりの山の中だよ、それに夜だから暗いし、帰りのルートがあるのかも分からないの。」

「それなら大丈夫よ。」

「どうして?」

「だってあそこには叔母さんが住んでいるんだもん。」

「叔母さん?」

「そう、叔母さん、私のお母さんの妹さん。」

「ふうーん、そうなんだ。」

「だからそこに止めてもらえばそれでいいのよ、それにさ、その周辺には何だか高級そうな旅館だってあったんだし、夜に帰ることなら大丈夫よ。」

「な、ならいいんだけど。」

「だからさ、ね、一緒の行って見ようよ。」

「でもその友達は?」

「美智佳ちゃんのこと?」

「そう。」

「だってあの子はいつも心配症だからせっかく遠出したのに心配されたくないでしょ。」

「そ、それでもそうだよね。」

「それは賛成ってこと?」

「じゃあ、賛成。」

確かにその菱川村の大文字焼って言うのも見て見たかったし、第一美咲さんの叔母さんにも会ってみたかった

「詳しくはまた後で連絡するね。」

「うん。」

美咲さんはコーヒーを飲み干すと席を立とうとした

「ちょっと待って。」

「何?」

美咲さんは僕の顔をまじまじと見た

「どうしてメールなの?」

「ふん?」

美咲さんは首を傾げた

「だからどうしてメールなの?だって電話だったら直接だし、ラインだったら既読だってつくんだから、その方が速いでしょ。」

「そんなに言うならラインならいいわよ、でも絶対に電話はしないで。」

「どうして?」

「これがQR。」

僕は無言で美咲さんが差し出すスマホのQRを読み取った

「どうしてメール嫌になったの?」

「嫌って言うかいちいち見るの、めんどくさいじゃん。」

「確かにそれもそうよね、第一このメアド、お母さんからだったのよ、だからお母さんからもメールの内容見られちゃっていて、でもお母さんには私はこのメアドでしか連絡を取り合っていないことになっているから黙っててくれる?」

「うん、全然いいよ。」

「それなら良かった、このメアドは消しちゃうね、だって他に連絡を取っていた人もいないし。」

「うん、分かった。」

「じゃ。」

「ばいばい。」

僕は軽々しく走っていく美咲さんを目で追っていた


それから毎日美咲さんからラインが届くようになった

どこどこに行きたいとかあれを食べたいとか

特に意味があったわけではないが僕はそれに付き合い続けていた

それでも僕には一つだけ気になることがあった

時々美咲さんは痛そうに首の横を抑える

たまにだるそうにしている時もある

けどそんな時でも僕が大丈夫かと声をかけると必ず彼女はううん、何でもないと言っていた


もうすぐ今年が終わると言う時、僕はパソコンである調べものをしていた

「このUSBにあったのは、甲状腺がん、その症状は何だろう。」

年が変わる前に速く、持ち主にこのUSBを返してあげたいと言う気持ちがあった

「あったあった症状、初期症状としては急激に大きくなる甲状腺のしこりと痛みと皮膚の発赤、声がれ、呼吸困難、嚥下困難、頸部リンパ節の急激な腫脹、発熱、倦怠感、体重減少、そして、痛み。」

僕ははっと顔を上げた

「喉の痛み…」

その下にはまるで美咲さんがたまに首の横を痛そうに抑える時と全く同じなようなイラストがあった

ツーツーツー

スマホが鳴った

小倉美咲

美咲さんの名前が出ていた

僕は深呼吸をしてから、電話に出た

「おっはー。」

「おはよう。」

電話からは元気そうな声がした

「今さ、何していると思う?」

「べ、勉強とか?」

「今日が何日だと思ってるの?」

僕はカレンダーを見た

”12月31日”

「大晦日。」

「そうよ。」

「だから何?何か用?」

「用があるから今こうして電話をしているのよ、私が今、どこで、何をしていると思う?」

「大晦日だから家でテレビを見ているとか、紅白とか…」

僕は時計を見た

”18:00”

「は、まだか。」

「全然まだよ、それよりさ、ちょっと今から来れる?」

「来るってまさか美咲さんのお家?」

「ううん。」

「じゃあ、どこ?」

「新ちゃんと一緒。」

その新ちゃんとか僕の妹のニックネームだ

新塚乃野

「でも確か妹は今、入院しているんじゃ。」

「そうだよ。」

「どうして君が一緒にいるの?」

「どこか出かけたいところがあるんだってさ。」

「出かけるってでも家族の許可がないとダメじゃないか。」

「だから来て。」

「それだったらパパとママを呼ぶよ。」

「それだと絶対にダメだって言われるって。」

「どこに行きたんだい?」

「それはあなたが来てから言う。」

「でも許可はどうするんだ?」

「あなたは家族でしょ、兄でしょ、実の。」

「でも僕はまた高二。」

「今何歳?」

「17、誕生日が先月来た。」

「それはおめでとう。」

「ありがとう、でも。」

「ここには15歳以上の親族って書いてあるのよ、ね、いいでしょ。」

「わ、分かったよ。」

「暖かい格好をしてくるのよ。」

「もちろんだ。」

僕は電話を乱雑に切った

そうでもしないと僕はさらに追及しそうだった

「今から病院に来いってどこに行きたいんだよ。」

僕は冬着を着こむと部屋のストーブを消して母に友達にちょっと来いって言われたと言い、外に出た

「寒っ。」

真冬の気温がどんなに着込んでも寒いものは寒い

僕は自転車を飛ばして妹に病院へと向かった


案外中にはすんなりを入れた

「どうした?」

妹らは病室ではなく、暖かい談話室にいた

妹は点滴を外して、腕に巻き付けられていた

その隣に美咲さんが妹と目線を合わせて座っていた

「どうした?どこに行きたいんだ?」

「縁日。」

妹はか細くそう言った

「縁日?どうして?」

「どうしても行って見たいんだってさ、ね、いいでしょ。」

妹の代わりに美咲さんが返事をした

「ま、近いところでいいならいいけど。」

「いいって良かったね。」

「やったー。」

妹は幼子のように無邪気に喜んだ

「いいけどさ、医者はいいって言ったの?」

「言ったよ。」

「ならいいけど、そこまでどうやって行く?ここから一番近い神社でも結構な距離があるし、自転車で40分はかかるぞ、それに三人はとても出ないけど乗らないし。」

「それなら大丈夫よ、医者が相乗りタクシーを呼んでくれたから。」

「そ、そうか。」

「じゃ、そろそろ来るし、下に降りようか。」

「ねー。」

妹は元気よく、車いすに飛び乗った

「医者が念のため、車いすに乗ってっけって言うのよ。」

「そ、そうなんだ、確かに安全だし、体力をあまり使わないからいいかもね。」

「後さ、電気と暖房止めといて、節電だって。」

美咲さんは壁のポスターを指さした

「うん、分かった、先に降りといて。」

「了解、じゃ、行こうか。」

「うん。」

妹は笑顔で頷いた

美咲さんは軽く僕に会釈をするとエレベーターへと向かっていった

僕も美咲さんに会釈をした

僕はエアコンを止め、電気を消した

「お兄さんだよね、ちょっといいかな。」

「何ですか?」

振り返るとそこには依然カンファレンスルームで話した医者がポケットに手を突っ込んで立っていた

「君、ちょっとだけいいかな。」

「少しでならいいですけど、何ですか?」

「もしも仮に少しでも苦しそうとか辛そうにしたらすぐにでも返して欲しい、もう救急車を呼んでもいいし、あとこれ。」

医者は僕にPHSを強く握らせた

「救急車を呼んだ後にはこれに必ず電話をして欲しい、救急車を呼ばなくてもも何かあったりしたらか鳴らす呼んで欲しい。」

「でもこれだったらさっきの女の子、美咲さんでも。」

「実は彼女にもし何かあったとしても必ずこれに連絡をして欲しい。」

「で、でも何かってそうそう。」

「いいや、分からない、特に不整脈、胸の苦しさ、そして呼吸困難に血痰だ、特に気を付けて欲しい症状だ。」

「でもだったらわざわざ外に出す許可を出さなくてもいいじゃないですか?」

「これしか僕らにはできんのだよ。」

「できないってでもだって前の時に、替わりの心臓のドナーを探しているって。」

「彼女はまだいい、ちょうど話がついたところ、もうすぐご家族にも連絡をするところだ。」

「それなら良かったです。」

「気を付けて行ってくるんだぞ。」

「はい。」僕は医者に手を振り、PHSをチャック付きのズボンのポケットに入れた

見なくても後ろで医者が手を振り返しているのが手に取るようによく分かった

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