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進学先を神佑高校を選んだのは校名に〝神〟って入っているから! 校名は四字熟語の『
中三のときの担任は俺の成績を見て「やめたほうがいい。万が一にでも入れても授業についていけないだろう」なんて言っていたけど、実際のテストは超簡単だったしまさひともおんなじ高校に入れたしでよかったよかった。授業は、案の定ついていけなかったとはいえなんとか卒業できたんだからいいだろ! 神佑大学の政治学部にも入学できたことだしさ!
小学校から中学校、続いて高校に上がってもまさひとはいつでも成績優秀で学年のトップ。足は速いし球技も得意だし水泳も一番。早め早めに上の学年の勉強をしていたようだけど、頭がいいから求められた答えを求められたように返す。例えば、ほら、算数がわかりやすいと思うんだけどさ! 公式があるじゃん? 上の学年で習う公式を使ったほうが解きやすくても、習ってないものを使わない。そういう感じ。先生方の評価は低くなりようがない。
小学校高学年の頃からぐんぐん背は伸びたし、あのパパさんとあのママさんの間の子なのでどう間違っても不細工にはならない。遺伝子がそうできているんだから、そりゃあモテまくる。先輩からも同級生からも後輩からも告白されて、いつも断っていた。断っても悪評が立たないのは日頃の行いだろうな!
喋れないのも、むしろ「寡黙な男の子ってステキ!」となるらしいぞ! 受験勉強を始めた頃からメガネをかけるようになったのも、知的な印象が強まってファンは増えた。俺のまさひとは常に最強なんだ。
作倉と出会ったのは高校の入学式だぞ! 喋れないまさひとが早速クラスメイトに囲まれて、中学時代から使い始めた持ち運びできるサイズのホワイトボードで筆談しているところを遠巻きに見ていたら「初めまして、宗治くん」とあっちから話しかけてきてくれた。初対面なのにフレンドリーに『宗治くん』と呼ばれて、さらには握手を求められた経験っていうのが当時はなくて「お、おう!」って言いながら握手したのを覚えている。
「なんでサングラスをかけているんだ?」
作倉は色の濃いサングラスをかけていて、俺よりも小柄なのに威圧感があった。よく聞かれるんだろうな、慣れた手つきで「ああ、これですか」と言ってサングラスを外す。左目は赤くて、右目が青い。瞳の色を隠すためにサングラスをかけているのはわかったぞ!
「日本人?」
「ええ。わたしは
「ぱあとなあ?」
「あなたは特別な存在ですからねぇ」
サングラスをかけ直して、俺が身に染みて理解している事実を告げてほほえむ作倉。あとから考えてみると、作倉はここで出会うことをずいぶんと前に知っていて、それっぽいことを俺に言うだけの簡単なお仕事だったんだろうな。すっかりその気にさせられた俺は「そうだぞ!」と鼻高々だったわけだ。
だから、高校時代が一番楽しかった。俺についてきてくれる作倉と、なんだかんだで俺を気にかけてくれるまさひとがいたからな。そうなんだよ。まさひとは高校でもどこに行っても大人気なのに、俺があれやりたいこれやりたいと言えば的確にじゃあそれはどうすると達成できるかを教えてくれる。憧れであり続けた。この頃から“知恵の実”の開発を始めていて、筆談以外のコミュニケーション手段を模索し始めていたぞ! 俺もマネしてちょっとやり始めたんだけど、まあうまくいかないよ。思った通りにはならない。やっぱりまさひとはすごい。
学校から家に帰っても何もない。何もないから、作倉やまさひとのいる場所にずっといたかった。なんで大人になってしまったんだろう。ずっと高校生活をしていたかった。意味のわからない宿題を頑張ってなんとか終わらせて、入ったほうがいいから風呂に入って、おなかが空いたなって思ったら夕飯がやってきて、食べたら歯を磨いて寝る。隣の氷見野家には上がり込めなかった。俺には“普通”を踏み荒らせるほどの図々しさはなくて、作倉の家はどこにあるのか知らない。
高校を卒業してしまって、大学に入学してからのまさひとは別のキャンパスに通うようになった。同じ神佑大学で、理系の学問と文系の学問とだと離されるって先に教えてくれてもよかったのにな! オープンキャンパスで言ってたって作倉があとから教えてくれたぞ!
なんで政治学部かって、そりゃあ俺は特別だから。特別な存在が目指すべき場所は、この国の頂点しかないと思った。俺がこの国から、いや、この地球上から不幸をなくしたい。人間は幸福で満たされた生活を送るべきだ。だって、そのほうがいいじゃん。みんなが楽しいほうが嬉しい。
大学の入学式が終わってから、まさひとは珍しく慌てて帰っちゃって、その、まさひとのママさんが交通事故に遭ったって話が出てくる。その落ち込みようったら半端じゃなくて、俺は理解できなくて一週間に一度はまさひとの様子を見に行っていた。俺のパパもママも家にいるわけじゃあないぶん、実は死んでいたとしても悲しくはない。家の家賃は払われていたわけだからどっかでは生きていると思うぞ!
――仮に、俺の知らない家族と仲良く暮らしてるんだとしたら、それはそれでいいや。
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