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オレに用意された目玉焼きに横からソースを満遍なくかけて台無しにしてくれたのんちゃんは、自分の食べた食器を洗ってから隣の家に帰り、夏休みの宿題の束をスクールバッグに詰め込んで戻ってきた。自分の分の目玉焼きはオレがベランダに出てサンダルを片付けている間に食べてしまったらしい。メインだけ先に食べてしまうなんて考えられない。
三角食べといって、主菜と副菜と汁物とは順番に食べるものだと教えられたものだが、
目玉焼きにはしょうゆ派のオレはソースに溺れたお好み焼きのようになってしまった目玉焼きをのんちゃんの皿にプレゼントしてしたので、ふりかけごはんとソーセージとわかめの味噌汁が朝食となった。美味しかったけど、朝から叩かれるわメニューは少なくなるわで散々な目にしか遭っていない。ベランダの
「俺の名前は
名前すら書いていなかった数学のプリントに名前を書いて、プリントの上部を掴んで文字列を見せてくる。風車希望。その表情からは、自らの名前への誇りすら感じられた。名付けたのはのんちゃんの親だろうに。
「
この子のペースに合わせていたら、ローテーブルに積み重なった各教科の宿題は一向に進まない。なるほど八月三十一日までこの量が残っているわけだ。
「手を動かせ、手を」
オレは手首を掴んでテーブルに押さえつける。のんちゃんの左手に握られたシャープペンシルを一問目の位置に移動させた。横並びに座って朝食を食べている間、たびたび手がぶつかっていたから気になっていたが、左利きらしい。
「なあ、まさひと!」
「何?」
「こうしてまさひとと面と向かってお話しできて、俺は嬉しいよ! これまで俺は喋ってたけどまさひとはチャットだったもんな!」
「勉強に集中してくれ」
「してるしてる!」
していない。プリントを見ずに、テーブルの向かいに座って頬杖をついている俺の顔を見つめている。だから、一問も解けていない。
「お前は宿題をしに来たんじゃないのか」
「そうだよ! 夏休み明けまでに終わらせないといけないってのにこーんなにたくさん! だからさ! まさひとに手伝ってほしいんだ!」
「なんでだよ!」
オレは迷惑そうに顔を顰めて言い放ったつもりだが、のんちゃんはパァッとその目を輝かせて「まさひとがキレた!」と喜んでいる。逆効果だ。ならば、こうしよう。怒っていないふうを装って、誠心誠意「なぜこのオレが風車希望さんの宿題を手伝わなければならないのか」を問いただすこととする。
「宿題が終わっていないと先生に怒られるから!」
「怒られるのはオレではなく風車希望さんでは」
「まさひとは俺が怒られてもいいのか!」
「別に」
「俺の好感度が下がるぞ! いいのか!」
好感度ってなんだ?
中学生にもなって子どもみたいに頬を膨らませる同級生を、オレは冷ややかな目で見ている。
「好感度が下がるとな! 期間が短くなるんだ!」
「何の?」
「この世界を維持している期間かな? ……次を始めたほうが、効率いいしさ」
オレが聞き返すと、のぞみは宿題のタワーの中から表紙に“算数”と書かれたノートを引っ張り出して、何も書かれていないページを開いた。
「この世界は俺が神なんだ」
「はあ」
今度は神ときた。俺のこの「はあ」は困惑と呆れの混じった「はあ」だ。のぞみはいたって真剣な目をしているので、話は聞いてやろう。オレは崩れかかっていた正座から、あぐらを組んだ。
「俺は二〇〇一年の世界に、神佑大学付属中学校の二年生として生まれ変わった。一年生は学校生活に慣れるまでが大変だったし、三年生は高校受験に向けて忙しかったからだ」
来年の今頃は宿題がどうのなんて言っていられない。高校受験に向けて、夏期講習やら勉強合宿やらで大忙しだろう。こうして向かい合って与太話をしている暇はない。向かい合うのは生徒同士というよりは、面接官役の教師とになる。
わけのわからぬ『生まれ変わった』云々の部分は聞かなかったことにしよう。
「俺はまさひとを愛してる」
オレがなんらかを喋る前に差し込まれた急な告白に、目が点になる。へ、へえ。オレを?
しかも「好き」を通り越して「愛してる」と。どストレートに言ってくれちゃうと、どう返せばいいものか。のぞみは、今のところの印象として、常識知らずで無鉄砲で傍若無人ではあるけれど、顔は可愛いし、このサイドテールも似合っている。
「まだ時間はあるから、次に聞いた時に答えてくれればいいよ! ヒロインは俺ひとりだから!」
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