第5話 召集と防衛


日付が変わり、アドメラルク本部では餅田に代わり1班班長の但野が仕切っていた。


「只今をもって現任務を全て破棄とし、現時刻から12時間後、十二の切り札討伐作戦を開始とする。」


その言葉が響くロビーには黒いスーツでかためられた集団、迷彩服を着用し背中のバックパックに最新式の自動小銃を携行している集団等、様々な集団が集まっており、この人員全てはこの為に呼ばれ数時間前に召集を受けた者ばかりだった。


しかし、但野以外の全員は意思が統一されており、異様な雰囲気を醸し出し、一種の圧迫感を与えていた。


実際、集まった面子からは殺意が滲み出ており、なにも知らぬまま来た社員が腰を抜かしていたほどだった。


この人員全てはこの為に呼ばれ数時間前に召集を受けた者ばかりだったが、但野以外の全員は意思が統一されており、異様な雰囲気を醸し出していた。


ロビーの端のほうで直立不動になっている葛城の方へ人影が素早く走りよる。そして問う。


「葛城ーどうしてこうなってんだ?後なんであの小隊長の直下だったお前があそこじゃねぇんだよ。」


「なんでっていっても…俺の他に部隊の面子は覚えてないのか?」


「なし!」


と、潔く返答する米倉を見て葛城は深いため息をつき、話し始める。


「今の小隊長直下は俺、壇上の横にいる佐野さん、向こうの端にいる狩野さん、そして─」


「小隊長か?」


葛城が声を止めた時、米倉は横から声を挟む。米倉はふと、気になりこの場でしては行けなかった質問をする。


「あいつ死─」


「ばかやろう!?」


と取り合えずの怒声で米倉の言葉を止め首根っこを掴み外へ引きずっていく。

殺意並みに突き刺さる敵意を背中にうけながら。


「どうして葛城が敵意受けてるんだ?」


外に出ると同時に米倉は聞く。


「餅田さんが離脱した理由が俺とお前絡みで尚且つ俺は動ける状態だったからな。しかも─」


「ん?」


小さく呟いた言葉が聞こえず米倉は聞き返す。


「ずっと一線にいた三島さんが指揮官じゃなくずっと本部籠りで上に胡麻すりして今の位置に着いた但野さんだからだな。俺への敵意は但野さんに向けることができなくて行き場を失ったものが大半だろ。」


呟いた内容を聞き終えて米倉はふと尋ねる。


「三島はじゃあなにしてるんだ?」


─東京都郊外─

「三島さんお疲れ様です。」


「あぁ、そんな時間か。」


誰もいない廃ビルとなりかけた建物の最上階で三島はライフルを置き、双眼鏡でもう一度視界に異様なものを視界にいれる。


公民館を中心に作られたそれは、円形に広がっており外はセメントのようなもので固められ、外部からの光を完全に遮断されるようになっている。


唯一の出入口と言えるようなものは鋼鉄製のゲートであり、多少の衝撃ではびくともしなさそうだった。


三島は交代の監視員に双眼鏡を預け、先に休憩をとっていた同じシフトの監視員からコーヒーを受けとる。


「あれは要塞だなぁ…入る隙がない。対空設備がないように見えるのはフェイクで帝国製の対空砲やら要塞砲が隠れてるだろうよ。但野に伝えろ。最大限の注意を払って作戦を実行せよ。とな」


「了解。」


連絡員に内容を伝えた後コーヒーを啜った三島の顔はしわくちゃになっていた。


「糞不味い。だれだ?昨日の焼きそばのソースぶちこんだ馬鹿は?」


「あ、すいません俺です。ビンに入っているものだから同じものかと思って。」


「ったく…次からは気を付けろ。あとビンには内容物をかけ。わかったな。」


「了解です。」


三島率いる第一特殊部隊は三島の私設部隊で、餅田公認の部隊である。この部隊に声をかけられた者は将来が安定しているとされ、この部隊に所属することがアドメラルク構成員の憧れであった。


三島は数々の死線をくぐり抜けて来ており、餅田と最も長い付き合いと言われている者である。何故彼が餅田と共に本部に常駐せず一線を点々とするのかと言えば能力の特異性にあった。


端的に言えば簒奪者、簡単に言えば泥棒である。彼は出会った能力者を素手で悉く屠り去り奪ってきたバリバリの武闘派である。


奪った能力は優に両手を超え、さまざまなテリトリーの能力を持っている為、餅田に幾度となく後進の育成や本部業務に当たってみては?と打診されているが全て蹴っている。


「俺が奪えばいくつもの部下が命拾いするんだろ?なら、俺は前線で削りきってやるよ。」


これは餅田に打診されたときの常套句となっており、餅田は半分諦めていた。


「餅田が戦線離脱か…やっぱり本部勤務のほうが良かったか?」


と監視員に聞く。


「三島さんのお陰で自分達は生きてけてるんですよ。余程のことがない限りはあなたは誇れる上司ですよ。考えには自信を持ってください。」


「そうかい。」


三島は誉められた照れ隠しか、コーヒーを啜り顔をしかめる。


「不味すぎだろ。」


─同刻─十二の切り札本拠内


玉座のような椅子に座っている緑丘の横にある無線機からノイズ交じりの音声が聞こえる。


「こちら第1班、配置につきました。」


「ご苦労。突入まで待ってくれ。」


「了解。」


膝に肘を付き組んだ手に顎をのせた彼はそっとため息をつき無線機のダイヤルを回す。


単独行動が許されている幹部の1人、オウルは要塞から少し離れたところにあるビルで仮眠をとっていた。少しすると電子音のような音が小さく鳴り始め、五度目に鳴った時には目を覚ましていた。


「さて…始めよう。出来ることから少しずつ。」


そういって彼は廃墟となり二度と使われることがなかったはずのベッドから降り、メイクから支給された能力付きのライフルを組み立てる。


カチッ─最後の部品をつけ、ライフルを壁に立て掛ける。そして、胡座をかくと瞑想のようなことを始める。徐々にオウルの意識が薄れていく。


気付くとそこは見たこともない街並みで、木造の家屋が多くあり、空には満月が浮かんでいた。


遠くにはノイズがはしった景色があり、ここは現実ではないと示している。


「てめぇ!離せ!」


オウルはふと足元を見ると自分の側に男が捕まっているのが見えた。無論捕まえているのは自分である。


離してしまおうかと考えるも、手が動かない。体も動かない。なのに勝手に動いていく。まるで自分が機械になったようであった。


「盗人め、二度目はない!片手を切り落としてやる!」


自分で発していない自分の声、自分で切っていないのに切り落とした感触。

叫ぶ男、その声。自分の意思がはいっていない分余計に気分が悪くなる。


目の前が暗転する。また同じ男が映る。今回も自分に取り押さえられて。


そのようなものを繰り返し見ることになり意識が遠退いていく。


「佐久間生きてるか?おい、佐久間!」


込み上げる吐き気を押さえながら応答する。


「こちらオウル…うぇ…」


「あぁ、戻ってこれたのか。」


どうやら緑丘の声がトリガーになったらしく、起きれたことに謝辞をする。


「お前がやったのは初志研鑽ってやつだ。能力者なら誰でもできる。だが誰でもできる反面、かなり危険だ。何故かって?歴代継承者の記憶を覗き見てキツイシーンばっか見させられるからな。人間不審になったり、壊れたりする。」


「先程はありがとうございました。」


「礼はいらん、ツケとけ。」


「了解。」


「あぁ、後研鑽するときは誰かに戻して貰えるようにしとけ、そんで見た記憶で自分のそれの由来を予想しろ、そうすれば能力が─」


「えぇ、ありがとうございます。では」


そういって会話が終わる。佐久間は何かが変わったことを少し複雑に思っていた。中身がわからない変化、自分はこの先どうなるのかと。

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