第4話 開戦

スクリーン中央に1人の老人が座っている。そして…言葉を紡ぎ出す。

「画面ごしに私を見ている幸運なる諸君。


諸君は幸せか?それとも自分は幸せであると思い込んでいるだけか?それとも自分は幸福であると思い込まされているだけか?


いずれにせよ、諸君は他者によって自分達を確立するものだ。自分で幸せだと思うより他者に思わされているというものが大半であろう。


だが、諸君の中でも、自分は不幸だ。生きる価値などない。と思い人生を捨てた者に告ぐ。


私と一緒に生きよう。私の下に来い。生きる価値を創ってやろう。死ぬ意味を生んでやろう。共に人生を謳歌しよう。


蔑まれ化け物扱いされている異能持ちの諸君、そしてその身内に問う。何もないことが正しいのか?見た目も髪色も何も違わないのに化け物と言われていいのか?それとも呼ばれ続けたいのか?


俺はこの世界の不条理を消す為に立ち上がる。何かを変えたいならついてこい。俺はこの歪んだ正義のもとに世界に鉄槌を下す。正しいかどうかは歴史に委ねよう。」


そこで映像は途切れる。


餅田は時間を過ぎても米倉が身動き一つしない状態を見て嫌な感じを覚える。

そして、イヤホンをした米倉の瞳孔が揺れていることに気付く。そして即座に─

米倉の横面に拳を叩き込む。


「一体何をするんですっ!?」


葛城が止めに入るが二発目を正確に腹に叩き込む。そして──


「…ゴフッ」


葛城は呆然としていた。餅田の胸から鮮血滴る刃先が飛び出ている。

そう─

後ろから刺されるような形で。


「やはりお前が使者か…」


先刻タブレットを持ってきた秘書らしき女性が背中に密着し笑っている。


「ここで何をっ!?」


と叫ぶや否や葛城は秘書と思われていた者を敵対認証する。


「私は佐道茜。以後お見知りおき──」


言い終わる前に葛城の能力が発動し、体を切り裂く。が、空を切るように手応えがなく、餅田が崩れ落ちたその後ろから血に染まってない体の向こうが見えた。そして徐々に透けていった。


「小隊長っ!」


と葛城が声をかけると餅田は弱々しく手招きをし、葛城にある言葉を伝え──


笑みを作った。

一方、分身が消失した佐道はある程度防衛省に近い喫茶店から出、戦果を報告すべくアジトへと足先を向ける。


意気揚々と軽い足取りで帰る彼女であったが、後ろには気配を消しつつ尾行するスーツ姿が複数あった。


数十分後、駅から出た佐道は目を見開いた。駅前に人が一人たりとも視界に入らない。店は無人になっており、自販機に缶とお釣りが置かれたままだった。


「何がどうなって…?」


と、佐道は困惑を隠すことができなかった。そして、自分が遠距離から見られていることを把握するとこができなかった。


風船が弾けたには間の抜けた軽い音が聞こえる。刹那、一人は命を失くし、ただの物となる。

少し離れたビルの屋上からオウル─ 佐久間成人が息を吐き、旧式のライフルを屋上の段差に立て掛ける。


「追われていることに気づけよ…それでも切り札の一人かぁ…?」


佐道を狙撃されたところを見たスーツ姿の男達の1人は携帯、1人は無線に話しかける。残った人員で死体を囲い、軽い円陣を作っている。


「物陰で連絡をしているのは護れない能力だろうな…逆に今でてるのは護れる能力だろうから狙撃は悪手か」


佐久間は無線を付け連絡をいれる。


「キング、ミストがつけられていました。始末しましたが、問題は?」


「問題問題だーいもんだーい、折角1人で二人三脚見つけられる人を見つけたってのに何してくれるんだい。」


真面目に聞いた筈なのに若干ちゃらけて返ってきた返答に佐久間は少しいらっとする


「無しですね、了解。そちらの進捗は?」


「おおん…聞いといてガン無視かいな。まぁそっちのが労力費やさなくていいもん─」


ぶったぎるように佐久間が声を挟む。


「進捗は?」


「あーはい、はい、七割終了後は俺の研鑽次第かな?多分そっちすれば大丈夫だと思う。」


「了解。深度じゃないならいいです。お疲れ様です。帰投します。」


「了解。そっけ─」


またしても佐久間はぶったぎった。今回は通信そのものを。

ホールの様な所で先程通信をぶったぎられた老人…緑丘は頭をかきながら呟く。


「俺って…嫌われてんのかなぁ…」


「そうだな。結構嫌われてると思うぞ。」


と放り出された無線機を挟んだ向こう側に仰向けに寝転んでいるこれまた老人…梅原が否定して欲しかった緑丘の胸に言葉を突き立てる。


「えっ…そうなの?本当?」


「知るか、本人に聞け。」


と、動揺する緑丘に冷淡な言葉を浴びせる。


「少なくとも…お前の事が好きじゃないってやつは多そうだぜ。」


そう呟くと蹲って泣いているふりをしている緑丘を視界に入れる為に起き上がりつつ、壇上から席や床に座り込む人を目にする。


そしてここにある共通点ただ一点で呼ばれた全員に向けて、重要なことを口にする…最前列にも聞こえない声で。


「今宵はいい月だ。」


同時刻某所、ベッドに仰向けで寝ている人物は眠い目を擦りながらふと思う。何故見たこともない服装の人が大量に記憶に残っているのだろうと。そして、その記憶に嫌というほど満月がうつっているのは何故なのかと。

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