第3話 幼馴染との再会
エミルはフィリエルに挨拶をする為、貴族の坊っちゃまらしい服装に着替え、前髪も上げて別人のようになった。
首元の赤い蝶ネクタイが可愛い。何度も苦しいから嫌だと言って床に叩きつけていたけれど、レンリが執事の格好で現れると態度を一変させたのだ。
「レンリ先生、格好いい!」
それを聞いて同じ服装のハミルトンさんが肩を落とした姿を私だけが見た。
それから、レンリにタイがお揃いだと言われると、エミルは意気揚々と着替えて本館へと向かった。
フィリエルは本館の応接室で待っていた。
まずはメルヒオール様が入室し、それからエミルが呼ばれた。
中からエミルの感嘆の声が漏れ聞こえる。
どうやらエミルは一目でフィリエルを気に入ったみたい。
「あのね。ボクが町でお世話になってる先生も連れてきたんだよ」
「あら。そんな素敵な方がいらっしゃるの?」
「うん。紹介するね! コレット先生とレンリ先生だよ」
「ぇっ……」
サリアが扉を開き、中へ私とレンリを導いてくれた。
久しぶりのヒールだからか、緊張して足が震えた。
でも、フィリエルと目が合った瞬間、それは全部頭の中から消えていった。
「こ、コレッ……ト?」
「フィリエル。ごめんなさい。私――」
「コレットっ」
フィリエルは真っ直ぐ私の胸に飛び込んできた。
何の躊躇いもなく、いつも通り。
「ど、どうして? お兄様が探しだしてくださったの?」
「違う。エミルの希望で雇うことにした二人が、偶然その二人だっただけだ」
「嘘よ。そんな事……。でも、何でも良い。コレットに会えて嬉しいっ」
私に抱きついて泣き続けるフィリエルを私も抱きしめ返した。前より痩せた気がする。申し訳なくて、私も涙が溢れた。
「フィリエル。ごめんなさい。あんな別れ方で」
「いいのです。私はどんな真実でも受け止めるわ。だから、何があったのか教えて。私はコレットから聞きたいの」
「ええ。ありがとう。フィリエル」
◇◇
エミルが驚いていたので、私とフィリエルは悲しい別れをして久し振りに再会できた友人だと説明した。
それから、本館の応接室で二人きりで今までの事を伝え合った。
私は、ガスパルや家族に男遊びの酷い女として家を追い出されたこと。
その時に執事をしていたレンリがついてきてくれて、二人で姉弟としてエミルの住む町で生活していたこと。
駆け落ちってことにされているようだけれど、それは間違いだということを。
フィリエルはガスパルの嘘を見抜いていた。
私を陥れて近衛騎士になったことが、どうしても許せなかったけれど、彼は式典で大失態を犯し、謹慎を経て近衛騎士を免職されるだろうと。
ガスパルの父が倒れたので、回復後、婚約を破棄するつもりだということを。
「でも。ガスパルの剣が折れていたのは私のせいなの。だから私とガスパルはお互い様。互いの夢を壊し合っただけだから。もし、私を理由にガスパルとの婚約を破棄しようとしているなら、一度だけ考え直して欲しいの」
「だとしても、私はガスパルを許せないわ。コレットは家を追い出されて……」
「追い出された方が良かったのよ。私は私らしく生きる道を選べるようになったのだから。ガスパルは近衛騎士を免職されそうで落ち込んでいるのでしょう?」
「ですが……。自業自得ですわ」
フィリエルはガスパルを思い出したのか、寂しそうな目をした後に溜め息をついた。
「フィリエルはずっと昔からガスパル一筋だったから。私のせいでフィリエルの想いを壊したくないわ。幼馴染み二人の夢を同時に壊してしまうのは辛いの。元々ガスパルは、自分の利益の為なら周りの人なんて踏み台にして行くタイプでしょ」
「そうだけれど……。――先日、ボロボロの彼を見て思ったわ。もし、彼が青藍騎士団でやり直す気があるなら、もう少しだけ傍にいてもいいのかなって。私からコレットを奪った最低男なのに、簡単に切り捨てるなんて出来なかった……」
「ガスパルが反省しているなら、私との事は許してあげて。私はガスパルを許さないし、ガスパルも私を許さないだろうけれど。……実は私、フィリエルに隠していたことがあるの。ガスパルの剣、私がこの手で折ったのよ」
「えっ? け、剣を? そんな事……」
フィリエルは目を丸くして驚いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます