第2話 ラシュレ家
長旅を終え、私たちは漸くラシュレ公爵領へ到着した。
ラシュレ公爵領は、ファルケ王国最大の敷地と青藍騎士団を所有し、リンデル王国との国境に位置している。
現当主はメルヒオール=ラシュレ。
馬車では常に爆睡していた彼は、寝ている間もずっと眉間にシワを寄せたままの強面の男性。
でもこの旅の間にその顔にも慣れました。
まだ慣れていないのはレンリくらいかしら。
レンリはすぐ怒る人が苦手みたい。
メルヒオール様は怒ってはいないと思うのだけれど、レンリにはそう見えるらしい。
宿についても食事を共にすることはないし、一週間で見たのは馬車で眠る姿だけで、彼の生態は謎に包まれたままである。
エミルの住まいになるのは、本館とは別棟の東館で、二階建ての青い屋根の綺麗な屋敷だった。
その南側には塀を隔てて青藍騎士団の宿舎と訓練所があるそうだ。
屋敷に着く直前に地図を貰ったのだけれど、敷地内の地図があることに驚いた。騎士団の方向けの地図らしいけれど、多分、見ながら歩いても迷子になりそう。
エミルの部屋は二階のバルコニー付きのお部屋で、エミルの母の部屋だったそうだ。
東館に入ると使用人達を紹介してもらった。
料理人のミシュレおばさんと、昔エミルのお母様に付いていたという老執事のハミルトンさん。二人は常時東館にいて、居室は一階にある。掃除は本館のメイドさんが日替わりで担当してくれるそうだ。
私とレンリも一階に一部屋ずつ部屋が用意されていた。
子供の頃、兄について私もラシュレ家へ訪れていたからだろうか。とても懐かしい気がした。
私の部屋には、まるで採寸したかのようにサイズぴったりな質の良い簡素なドレスが沢山用意されていた。
レンリには黒いスーツが用意されていたそうだ。
それと、町に来ていくような普段着も。
その完璧な支度に感心していたのだけれど、それを誰が用意してくれたのか知ると納得した。
私達の部屋や衣服の準備をしてくれたのは、メイドのサリアだった。
部屋に訪ねに来てくれた彼女は、私を見ると微笑み優しく手を握ってくれた。
「コレット様。やはり貴女はラシュレ家とご縁のある方なのですね。エミル様の家庭教師とお伺いした時は驚きました」
私の役目は家庭教師だったのね。メイド服じゃないから不思議に思っていたけれど、それなら納得。
「あの。サリアさん。フィリエルは……」
「きっとコレット様とお会いしたら喜びますわ。ですから秘密にしてあるんです。正直に言いますと、本当にコレット様ご本人なのか、この目で確認してからと思っておりました」
まだフィリエルは私がここにいることを知らないんだ。でも、サリアさんが喜んでくれるだろうと言うのならば、迷惑ではないのだろう。
「そう。ありがとうございます。フィリエルの側にサリアさんがいると思うと、とても安心だわ」
「身に余るお言葉ですわ。コレット様。お嬢様が本館でエミル様をお待ちです。お支度が終わりましたらレンリ様もご一緒に、お嬢様とお会いしてくださいませ」
「はい」
サリアさんと話していると、二階の廊下をドタドタと走る音と、騒々しい声が降ってきた。
『嫌だっ。こんな窮屈な服ヤダっ』
「あら。エミル様はとても活発なお子様なのですね。エミル様は、対外的には隣国の友人の子供を預かっている。という事になっております。ラミエル様のことは一部の使用人しか存じませぬので、ご内密にお願いいたします」
きっとラシュレ家へエミルを縛り付けない為の配慮なのだろう。エミルを迎える為に、色々と準備は整えられているようで安心した。
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