第15話 直談判
翌朝、目覚めると部屋には誰もおらず、レンリは食堂にいた。ラッヘさんが泥酔していたので部屋まで送り、自分もラッヘさんの部屋で休んだそうだ。
外の広場には町の人達がもう集まっているらしくて、貸家内もバタバタしている。
教会で子供達のお守りを頼まれているミリアさんは、出掛けに昨夜の事を私に謝ってきた。
私はワイン一杯で爆睡してレンリが部屋に運んでくれたと教えてくれた。
正直、何も覚えていない。
昨夜のワインの味すら覚えていない。
「すみません。皆さんにご迷惑をおかけしてしまいました」
「これからお酒は飲まないでくださいね」
レンリが笑顔ながらも強い口調で釘を差したので、ミリアさんが慌てて口添えをしてくれた。
「レンリ君。私が悪かったのよ。ね? あら。エミル君。どうしたの?」
部屋から出てきたエミルに皆の注目が集まった。
エミルが大きな剣を抱えていたからだ。
「これね。母様の剣なんだ。コレット先生に貸してあげる。僕には父様の剣があるから」
「でも……」
とても美しい剣だ。ラシュレ家の家紋が鞘に小さく彫られ、柄の部分は擦りきれていて、長いこと愛用されていたのが分かる。私が剣に見惚れているのが分かったのか、レンリはエミルに手を差し出した。
「では僕が預からせていただきますね」
「レンリ先生は使えないでしょ。コレット先生に!」
「分かったわ。私が預かる。エミルは教会でミリアさんと待っていてね」
「うん!」
エミルはミリアさんと手を繋いで教会へと向かった。
「コレット。僕らも行きますよ。ですが……」
レンリは私の腰の剣を見て苦笑いである。
「大丈夫よ。何もしないわ。これはこの町の人達が解決すべき問題だもの」
「そうです。でも、事前準備はちゃんとしておきましょう」
「ええ。勿論」
私とレンリは町の人が集まる広場を目指した。
◇◇◇◇
町長の家を四十人ほどの町民が取り囲む。
ジョルジュは二階のバルコニーで何やら叫んでいるのだけれど、この町の人達はやっぱり血の気が多いみたい。
数回言葉を交わしただけで乱闘になりました。
ジョルジュ側の護衛は十名ほどの傭兵。
こちらは元騎士のお爺さん四人を筆頭にご老人ばかりだけれど……優勢である。
元騎士のお爺さん達は、相手の武器を鎧で受けて破壊していっている。お爺さん達の気迫に負け、一人、また一人と相手の護衛は逃げ出し、ジョルジュの顔は戦々恐々としていく。
あの鎧には私が魔法を施しておいた。
レンリにやり方を教えてもらったので兄の鎧に無意識の内に施していた魔法モドキよりも、もっと強力にかけることができた。
私とレンリは怪我人が出た時の為に、後方で様子を窺っている。レンリは町の人々の気迫に若干引きつつ呟いた。
「少し強すぎましたかね。相手の武器を破壊するとは思いませんでした」
「どうかしら。あっ。一人踞ってるわ」
「僕が行きますっ」
背中を押さえて踞る老人にレンリが救護に向かう。
レンリは回復魔法が使えるので手当ては得意だそう。
「ぎっくり腰みたいです。運ぶの手伝ってください」
「分かったわ」
相手の攻撃以外での多少の要救護者は出たものの、ジョルジュはあっという間に捕らえられた。
家の中で寝込んでいた町長さんは、肺の病を患っているとのことだったが、暫く休めば良くなるとレンリが教えてくれた。
町の人達に取り囲まれ縛り上げられるも、ジョルジュは眼光を光らせたまま諦めた様子もなく周囲を威嚇し続けている。
スー爺さんが皆の前に一歩乗り出し皆に問うた。
「さてさて皆さん。この悪党はどうしましょうかね」
「サウザン侯爵様につきだしてやろう」
「そうだっ!」
「こんなことをして只で済むと思うなよっ。俺はサウザン侯爵からこの町を任されているんだぞ。それに、小麦畑にした方が将来的にこの町の為になるんだぞっ。この分からず屋共めっ」
怒鳴り散らすジョルジュに怯むことなく、町の人々は更に怒気を強め声を荒らげた。
「町の人々を追い出そうとしたくせに、町の為だと!?」
「どうせ私腹を肥やす為だろっ」
「ああっ。そうだ! 町の長の懐が温かくなれば町も豊かに、延いてはサウザン領が豊かになるんだっ。お前らを生かすも殺すも俺次第なんだよっ」
私利私欲の為だと明言したジョルジュ。
この場にいる町の全員、コイツは駄目だとそう思った時、よく通る女性の声が響いた。
「ジョルジュ=パラキート。その言葉は真であるか?」
広場の中心には、白馬に乗った白銀の鎧を纏う妖艶な女騎士の姿と、その隣には黒馬に乗ったメルヒオール様がいた。
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