第11話 抹殺される?
レンリが怒っている。テーブル越しに座るレンリは、腕を組んで口を尖らせ私を睨んでいる。
「剣の稽古についても聞きたいのですが。それより、いつからエミルの姉様になったんですか?」
「ついさっき、放っておけなくて」
「あんな風にエミルに言われたら、断れないじゃないですか。どうするんですか? メルヒオール様、多分僕達が誰なのか分かってると思いますよ」
「やっぱり、そうなのかしら。でも、知っていたら、屋敷になんて入れるかしら? 私は妹の婚約者を襲った最低の女だと思っている筈でしょう? ――まさか、悪い奴は社会から抹殺するって……私の事っ!?」
レンリも顔を青くして固まると、震えながら口を開いた。
「難攻不落の鉄仮面。学園の頃に聞いたラシュレ公爵の二つ名です。如何なる女性にも靡かず、擦り寄る男性は近づく前に討ち取られる。そんな意味を持つとか……」
さっきの彼にピッタリの二つ名だ。
メルヒオール様の眼光を思い出すと背中に悪寒が走った。
「やだ。鳥肌が立ったわ」
「逃げましょう。相手が悪すぎます」
「でも、エミルも町の人もっ――」
「駄目です。僕は何よりコレットを守る為にここにいるんですから」
力強いその言葉に、私は申し訳なく感じた。
レンリには国に家族がいるのに、どうしてここまで本気で守ろうとしてくれるのだろう。
これ以上レンリに迷惑をかけたくない。こんなに優しいレンリが、私のせいで社会から抹殺されるなんて、あってはならない。
「レンリ。ありがとう。ここから先は、一人で行くわ」
「はい?」
「レンリはいずれ国に戻って勉強するでしょ。ラシュレ公爵に目をつけられてしまったら戻り辛いわ。あっ。でも、私に協力していたと分かったら、それだけでも罰せられるかしら。だったら、私がレンリを騙していたことにしていいわ」
レンリが国に戻るには今しかない。私に騙されたことにしてラシュレ公爵の執事になれば給金だってもらえて、近い内に学園も復学できるだろう。
「エミルには申し訳ないけれど、レンリがついていればきっと大丈夫だわ。私なんかを姉だなんて言ったら、エミルまで……。私が騙したことにして――」
「……っさいな」
レンリは俯いたまま吐き捨てるように呟いた。
「レンリ?」
「さっきっからグダグダうるさいんですよっ。何でコレットが悪者にならなきゃいけないんですか? 貴女が何をしたっていうんですか? 兄を負かしたことがそんなに悪いことですか? 妹や兄に尽くしてきて、邪魔になったら追い出されて……。それなのに、これ以上自分で自分を悪者にしないでくださいっ」
レンリは怒りながら涙を流していた。
怒った顔も泣いている顔も初めて見た。
レンリの苦しさが私にも伝わってきたからか、目元が熱くなる。
「レンリ……泣かないで……」
「僕は知ってます。コレットは誠実で優しい女性だってことを。誰が何を言おうと、それは変わりません。だからせめて、僕くらい頼って隣にいさせてくださいよ。――荷物、まとめます」
レンリが立ち上がり袖で涙を拭った時、半開きの窓を誰かがコンコンと指で叩き、声が響いた。
「逃げる必要はない。二人でラシュレ家に来れば良い」
窓の外には、メルヒオール様がさっきと同じく不機嫌そうな顔で立っていた。
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