EP.10 恩返し
「女王存続の危機を脅かす、誰か⋯⋯?」
思わず口に出してしまう。
暑さによって汗ばんでいた手が、緊張によってかいた汗に変わってしまう。
「ああ。そうだ。」
こくりと縦にうなずくりょうに、さあっと血の気が引く。初夏だというのに、全身鳥肌がたった。
わたしたちを火事で死なせようとしておいて、女王様までに手を出す人⋯⋯?
そう考えただけでも、モンスターだの極悪犯罪人だの、いろんな妄想がポンポンでてきて頭からはなれない。
ど、どうしよう⋯⋯。だから、女王様はわたしに助けを求めたのか。でも、なんでわたしなんだろう。世界各地、すごい人なんか山ほどいるわけなのに。
「それは俺も思う。ただ美野里。」
すっとわたしのほうに向き直るりょうに、首をかしげた。
呼びかけられたのはいいものの、そこからいくらたっても言い出さないりょうに、さらに首を曲げる。
「どうかした?」
たまらず、つぶやく程度でたずねると、りょうは眉毛をりりしく吊り上げた。
「この問題に、美野里はかかわるのか?」
びゅうっと止んでいた風が二人の間を通り抜けて、朝顔を揺らしていく。
「これだけでも、十分非現実的なことだ。これ以上首を突っ込んだら、どうなるのか俺にもわからない。」
異世界とつながってしまうのかもしれない。そうしたら、命を落としてしまう可能性も、ゼロではない。安全だといえる保証がない。
「美野里は、どうしたい?」
蝉の音が、遠くで耳鳴りのように聞こえてくる。
たしかに、りょうのいうことは正しい。
こんなこと普通じゃありえないし、この先、どんなことがまっているのかもよくわからないままだ。
だけど、だけど、わたしは……。
「わたしは、女王様に、思返しがしたいの。」
あのとき、願いをかなえてくれて、りょうを助けてくれて、おまけにわたしまで生きていた。
たとえ幻だったとしても、大切な人を助けてくれて、わたしの命まで助けてくれるなんて、本当に、女王様は命の恩人だと思う。
だからこそ、女王様が困っているその問題を解決してあげたい。
そもそもその問題がこの解釈であっているのかすらもわからないけど、それでも困っているのは事実なわけだし、女王様を助けてあげたい。
それが恩返しになるのなら、わたしは全力で、やり遂げたい。
「……そういうと思った。」
ははっと、無邪気に笑うりょうに、わたしもつられて笑ってしまう。
まあ、思返しもそうだけど、ただ単に面白そうだし、わたしにとっちゃ夢のまた夢だと思ってた妖精さんと出会うことができたんだもの!やるしかないでしょ!!
「じゃあ、決まりだな。」
「へ?」
だんっと、思いっきり地面を踏みしめて立ち上がるりょうに、間抜けな声がでてしまう。
「決まりって⋯⋯なにが?」
背中しか見えなかった幼馴染が、くるりと振り返って、白い歯を見せて笑った。
「調査チーム、成立だ。」
……調査、チーム?なんですかそれ?
「名前の通り、女王について調べるチームのことだっつーの。チームつっても、二人しかいないけどな。」
まあ、これから増やすつもりでいる、と腰に手を当てて仁王立ちする姿に、一瞬完全に真顔になってしまった。
え⋯…?え、ええっ?!
「まって、まってりょう!!!調査チームって、二人って、りょう、もしかして手伝ってくれるの!?!?」
「ああ。そうだけど?何か不満でも?」
むすっと頬を膨らませる姿に唖然。
だ、だって!!りょうって、絶対根拠があることしか信じない、いわゆる理系男子で、ファンタジーなことにはまるで興味なしだったのに、いきなりなぜ!?!?
「ひっ、ひどい言い様だなっ!俺だって物語とか好きだし、いっただろ!その……美野里の事信じてるからって⋯…」
みるみる頬を赤らめる姿にまたもや唖然。
そういえば、そういってた!わたしのこと、信じてくれるって。
「⋯⋯いやか?」
すねたようにたずねるりょうに、すこし間ができて、蝉の声がせわしくなり続ける。
いつまでもやさしくて、わたしのことずっと味方してくれて、いつでも助けてくれる。そんな幼馴染。きっと、これから先も、ずっと、一番大切な幼馴染だ。
「なわけないでしょーー!!ありがと、りょう!」
ぱんっとりょうの肩をたたいて、立ち上がる。
ばくばくと音を立てる心臓は、まるで歓声を上げているようで。
「よしっ!やるときめたからには最後まで全力でやるぞーーー!」
「「おーーーー!!!」」
威勢良く、二つのこぶしが青空に高く突き上げられたとき、まるで拍手をするかのように、色とりどりの朝顔が互いに揺れ動いた。
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