EP.9 本当に伝えたいこと。

ふわあ、とあくびがでる。


ただいま昼休み中で、みんなそれぞれ仲良しさんと集まってごはんをたべていたりしてるところ。わたしもわたしで、美香と一緒におしゃべりをしながらお弁当を食べている最中なのです。


「美野里眠そうだね〜。昨日寝れなかったの?」

「あ、いやぁ、今日、なんだか早く起きちゃってさ〜」


暑かったのかな?とかいいながら笑って、冷凍のハンバーグを口に運ぶ。


うわっ、これもしかして中にチーズはいってるみたいな感じ!?


「お、おいひい〜〜」

「美野里って、なんでもおいしそうな顔して食べるよねぇ」


まじまじと顔を見つめられるから、ちょっと恥ずかしくなって顔をそらした。全開に開かれた窓から差し込む日差しが、金属のお弁当箱をきらっと反射させた。


「そんなことないよ?ゴーヤとかは残しちゃうし。」

「あ、美野里って苦いもの嫌いだったんだっけ。」


そういう美香に、首が折れるんじゃないかってくらいうなずいた。


甘いもの大好きなわたしにとって、苦いものはわたしの天敵!!敵だよっ!!


「ばーか。風邪ひいたとき、俺に作ってくれたものは敵か?」


こつん、というか、がん、というか、頭に響くくらいのものを頭に当てられて、後ろを思わず振り返る。


「りょ、りょう!?痛いよ!」


それにりょうが風邪のときに作ったのは青汁!特製青汁で、体にいいやつだからいいんですぅ!


「相原、ごめんだけど、ちょっと借りてくぜ。」


半ば強引に腕を引かれて、まだのどを通っていないハンバーグを惜しんで、美香に視線で訴える。


い、いやっていってくださいっ、美香さん!

そうじゃなきゃ、わたしハンバーグ食べれなくなっちゃう⋯⋯!


「全然。お二人の時間、たのしんでね〜〜」


ひらひらと手を振って、ぱっちりとしたお目目をきゅっと瞑る姿に、思わずこぶしを作ってしまう。


「み、美香ぁぁぁぁぁ!!!!」


わなわなと震えるこぶしも、半強引にりょうによってしまわれてしまい、机の上に食べかけのハンバーグを残したまま、屋上へと連れて行かれる。


なぜ!?なぜ今なんですか!羽柴さん!!


「早いほうがいいだろ?絶対に必要なことだしさ、この話し合いは。」


だから、話し合いは放課後ねっていったじゃん!!


「放課後に、昨日みたいなことが起こったらどうする?」


そんなことは、ない、とはいえないけど⋯…。


「昨日感じたんだよ。やっぱり、やりたいこと、やらなきゃいけないことは、平穏な今、やらなきゃいけないって。」


わりと真面目な顔をしながら、昇降口の階段を上って、屋上の扉をあける。ふいに生ぬるい風が一吹さしたかと思えば、騒がしいせみの声と、乾いたような夏の日差しが、入り込んできた。


「まあ⋯⋯たしかに、昨日のことあったしね。」


無理にわがままをいうのもやめて、石畳みたいな屋上の床に、唯一置いてある、ライトベージュの木製ベンチに腰掛けて、近くなった雲をぼおっと眺めた。


そう。今日、朝公園に行って話して、そのあと、学校まで登校してたとき、もうちょっと詳しく整理する必要があるっていわれて、放課後に二人で集まろうというお話をしていたのだ。

けど、昨日の火事があったからか、りょうは、すぐにでも取り掛かりたかったみたい。


「人生一度きりっていうけどさ、やっぱり、昨日のことがあったから、その言葉の重みがわかる気がして」


黒炭のような短髪を揺らしながら、ぽかんと雲が浮かぶのんきな空を眺めている。


「でもさ、昨日、燃え盛る炎より、まっさきに、庭木にぶつかった美野里のことしか頭になくて。窓から飛び降りてやろうと思ってた。そんなことしたら自分だって死んじゃうから、意味がないって思ってとどまったけど、本気で、そう思っててき。」

「……わたしのこと、助けたいって思ってたの?」


するりとでてきた言葉に、りょうは、黒い瞳を丸くさせて、それから、いつになくやさしい顔で微笑んだ。


「ああ。庭木にぶつかって、見えなくなった美野里に、何度も叫んで、俺が煙をすいすぎて気を失った直前に、助けたいって無意味な言葉もつぶやくくらい。」


⋯⋯なんだか、胸の辺りからじんわりなにかが流れ込んでくる。


きっとりょうのせいだなぁ。このなんともいえない気持ちは。

って、そう思えば、やっぱりわたしとりょうの気持ちをくみとってくれてかなえてくれたのは、やっぱり女王様なのか。


「女王と会ったのは、美野里が庭木にぶつかって気を失ったときだよな?」


うん。気を失って、目が覚めたら真っ白い空間の中にいたの。

最初はなんだかよくわからなかったけど、目の前に金髪の長い髪の人が立ってて。


「そんでもって、その金髪の女性が図書館の本の中で見た女王の写真と一致してたってことか。」


おおまかにいうと、そうなのかな。


ざっとこれまでのことを振り返り、りょうはこめかみに自分の手をあてる。


「図害館にいくよう仕向けたのが女王だとすると⋯…火事を起こした犯人はだれなんだ?」


普通の方法じゃ、あんなことできないよねぇ。


「あんなことって?」


いつもどおり普通だった住宅街に住民一人もいなくなって、しかも、わたしがスマホでかけた消防署だってつながらなかった。

最後には、夢みたいに自分の部屋で眠ってただけで、お母さんたちに聞いてもそんなことないっていわれたんだよっ


「ある意味、幻っぽいな。」


わたしもおもった!!


「まず、消防署に電話かけてもつながらなかったっていう時点でおかしいし。」

「だよね〜」


だとすれば、普通の一般ピーポーが犯人だとは思えない。

わたしだって実際、非現実みたいなことが起こったばっかだ。


「ただ、美野里。一つ引っかかる部分があるんだ。」


石畳の床に三列ほどならべられた花壇には、いっぱいの青、紫、白、ピンクが咲いている。夏の涼しげな風に朝顔たちは気持ちよさそうにゆらされていた。

そんな幻想的な屋上で、対照的なほど真っ黒な瞳が、わずかに光った。


「美野里が図書館に行って、本をもう一ページめくろうとしたとき、いつのまにか図書館じゃなくて交差点にいた。火事の時だって、気を失って気がついたら、いつもどおりの家に寝ていた。両者どっちとも、幻っぽいんだ。ぽいんじゃなくて本当に幻なのかもしれない。そうすると、妙におかしくないか?幻のタイミングがよすぎる。」


りょうの瞳の中に、ぽかんと間抜けに口を開くわたしの顔がうつりこんだ。


「たっ、たしかにっ!!女王様の本を見つけて、そのあとに女王様が本当に現れるなんて、偶然かもしれないけど、なんだか都合がよすぎるよっ」

「そうだろ?だったら、手紙を美野里に送ったのも女王で、火事をおこしたのも女王と考えられる。」


…⋯え?

全部、自作自演だったってこと?


「そこが問題なんだ。自作自演でやって、なんのメリットがあるのかわからない。」


たしかに⋯⋯何の意味があるんだろう。


「それに、女王は人間の願いの象徴ってあの本に書いてあったよな?なんでそんな象徴が意図的に作り上げたのか⋯⋯」


うなるりょうに、わたしも一緒になって考え込む。


でも、女王様が自分で火事を作り出したとは思えないかも。

だって、あんな心が優しくて、りょうの願いまでかなえてくれる女王様だよ!?人をわざと傷つけるなんて、そんなことするはずない。


じゃあ、他の人が火事をおこしていたら?

なんで女王様はタイミングよく現れたのだろう。

女王様は、わたしに手紙を渡してくれた。あの村にいけるように、地図までわたして。


それはわたしに女王様のことを知ってもらって、女王様を呼び出すため?

たしか、わたしには読めなかったけど、「女王を呼び出すためにはなんとかの願いを」っていう言葉があった気がする。


他には?なにか証拠が、手紙の中に⋯⋯。


「ああっ!!!」


真っ暗間の頭の中に、豆電球がチカチカと光り出す。

天才科学者みたいに、頭の中に雷は落ちてこなかったけど!!でもすごく重要なことがわかった気がする!!


「なんだ?なにがわかったんだ?」


「りょう、手紙、もう一回読んでみて!」


ポケットの中に忍ばせておいた手紙をあわててりょうに手渡す。

いつもより数倍目を丸くさせたまま、封筒を開き、便箋を取り出した。

便箋には、やっぱり細くて水のような字が、流れている。


『願う貴方を私は此処で待っている。願う貴方を私は今も待っている。願う貴方を私はこの先も待ち望んでいる。』


数秒後、その文章をたどっていた目が、どんどんと大きく、光をともしていく。


「もしかして⋯⋯」


すこし誇らしげに胸をはって、得意げになって説明する。


「りょう、やっぱり火事のことは無関係なんだよ!この手紙の内容をそのまんま読めばわかる!」


願う貴方⋯⋯つまりはわたしを、女王様はあの図書館でまっている。たぶん、これは本の中の女王様のことだ。


「願う美野里を、私は今も待っている⋯⋯今って図書館のこともいえるけど、今もってことは、火事のときでもいえる。もしくはその先の未来でもいえるな。」


それで、最後。

願うわたしを、女王様はこの先も、待ち望んでいる。


この先もってことは、きっと図書館のことでも、火事のことでもない。

りょうのいうとおり、「この先の未来」、つまりは、火事の後も、わたしのことを待ち望んでいる。


「望んでいるってことは、必要としているってことだな。」


そして、りょうのあの言葉。

女王は願いの象徴って。

あの本にも書いてあった。『女王は人々の願いの信仰から生まれてきた』と。


「その人々の願いの信仰から生まれてきた女王が、自ら、願いを必要としてるってことは…⋯?」


願いの象徴の女王様は、きっと、普通ならばんばん願い事が降りかかってきて、自ら願いを必要としなくても、勝手に降り注いでくるものだろう。

でも、そんな女王様が、自ら、願いを求めてる。それはきっと普通じゃない。きっとトップがここまでいってくるってことは、妖精界の中では結構重要な異常事態なのかもしれない。


だとすると⋯…


「女王は、女王存続の危機を、美野里に知らせようとしたんだ。」


あああああああーーーー!!!

なんで大事なとことってっちゃうのおおおお!!!


「推理は俺の分野だから、最終的な結末はいいたい。」


それだけ!?それだけですかりょうさん!?


「まあまあ。女王からのメッセージをくみとれたからいいじゃん。」


よ、よくなーーーいっ!!!


「でも、これを知らせるには、手紙と、あと女王の手紙だけで、美野里にSOSは伝わるはずだ。それなのに無理やり火事を起こすメリットがない。」


⋯…てことは?


「誰かが火事を起こしたんだ。しかも、女王存続の危機を脅かすだれかが。」


真夏の空、びたりと止むせみの声に、冷や汗がつーっと流れ滴った。

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