EP.8 またまた幼馴染とシンキングターイム!
「これが届いたから、好奇心で、確かめにいってみたの。」
凝視する目線の先は、やっぱり、その筆記体で細い流れる水のような字だ。
『願う貴方を私は此処で待っている。願う貴方を私は今も待っている。願う貴方を私はこの先も待ち望んでいる。』
「これって、完全にその本に書かれていた女王が美野里に宛てたものなんじゃねえの?」
うん。今考えれば、たぶん、女王様のことだと思う。
「美野里が見た『妖精界の女王』っていう本には、なんか意味不明なことがかかれてあったんだよな?」
そうだよ!本当によくわからなくて。でも、なんだかファンタジー好きの心をくすぐられるっていうか。
ええっと⋯…たしか、それをメモしたはず……
「ほら!」
ばっと差し出した小さなメモ帳に、乱雑な字が並んでいる。
女王になるには、–––––ネックレスが必要。
人間が女王を呼び出す場合、人間は、何か–––––
女王–––––個の–––––ると、その代償に–––––
ある者はこういった。「女王は偉大なる存在で、人々の願いの信仰から生まれてきた」と。
ある者はこういった。「人間との–––––なければ、女王–––––の文化は断ち切れてしまう」と。
ある者はこういった。「ただちに–––––切らなければいけ」と。
ある者はこういった。「我らの身は女王にあり、––の身は–––––り、妖精の身は–––
「こんなメモ残すなんて、美野里なのに、なんか美野里じゃないような。」
なっ!?し、失礼じゃない、その言い方!?
「あははっ、ごめんごめん。でもさ、やっぱりこれみてわかったよ。女王は願いを叶える象徴だ。」
微笑するりょうは急に真面目な顔になって、そう話す。
や、やっぱりそうだよね!!だって、人々の願いの信仰から生まれてきたって書いてあるし、実際わたしもかなえてもらったし。
「じゃあ、二番目の文章の空白はうまるんじゃないか?」
えっ?『人間が女王を呼び出す場合、人間は何か⋯⋯』ってやつ?
「ああ。願わないといけない、っていうの、入るんじゃないか?」
た、たしかに!!それだと説明がつく!
けどさ、だったらなんでもかんでも願う人のところに女王様がやってくるの?
「わたしなんて、テスト百点とれますよーに、とか小学校のとき言ってた気がするよ?」
そう問いかけると、りょうはすこし考え込んでから、また口を開けた。
「なにか、条件があるとか?美野里は俺のとき、何を女王に願ったんだ?」
ええっと。たしか、あのときは、りょうが死んじゃうって思って、とっさに「りょうを助けたい」っていってたっけ。
「じゃあもし仮にそれが基準だとしたら、命にかかわる願いだったら現れる、ってなるけど、それだと広範囲すぎて、女王っていう存在が明らかになりすぎるから⋯⋯」
真剣に目を細めて独り言をつぶやくりょうに、拍子抜けだったときのようにぽかんとしてしまう。
あれ⋯…?りょう、もしかして、真剣に受け止めてくれてる⋯…?
「この話、信じてくれるの?」
咄嗟になって切り出すと、りょうは、当たり前のように背筋を伸ばしてわたしの肩に手を置いた。
「ああ。美野里がいくら馬鹿だとはいえど、今回は実際俺も体験したわけだし。なにより、美野里を信じてる。」
な?と初夏のむし暑さを吹き飛ばすほどのきらきらした笑顔で振り向かれて、胸が飛び跳ねた。
『美野里を信じてる』⋯…。
なんか、改めて言われると、すごく照れくさいような。
「で、真っ先に聞きたかったことが、一つあるんだけどいいか?」
携帯をぱっとみると、七時四十五分に時刻がかわっていた。
時間すぎるのはやっ。もうこんな時間なの!?
と思いながら、人差し指を目の前に持ってきてくるくるとわたしの目の前を泳がせる幼馴染に、首をかしげた。
「なあに?」
「美野里は図書館に行こうと思った時、何を願おうとしてたんだ?」
汗ばむ首筋を手で押さえながら、じっと考え込む。
たしかに…⋯。そういえばわたし、面白そうだからいってみよ!っておもったきりで、何を願うなんて、あんまり考えてなかったなぁ。
「はあっ!?考えてなかった!?」
うん。だっていきなり、そんなこといわれてもわからないじゃん!
かなえてほしいことなんて山ほどあるわけだし。
「でも⋯…結果としては、俺を助けるための願いにつかったんだろ?」
そりゃあまあ、人命救助がかかってるし。
「りょうが死んじゃったら嫌だもん!」
思わず大声で、りょうの手をつかんでまで伝えると、りょうは一瞬目を大きく見開いたあと、いつものように微笑んで見せた。
「ありがとう。美野里。」
晴れた表情のりょうが、その大きな手を、わたしの頭にやさしくのせた。
ちょっ、お、幼馴染だからってボディタッチは小学生までで終了なの知らないの!?
りょうの手を戻そうと一歩ひくと、すこし頬を赤くさせてそっぽを向く。
「それいったら、美野里もだろ?」
た、たしかに⋯⋯!さっき手触っちゃったし!!
なんとなくぎこちない空気になるもんだから、ばっとベンチから降りて、そそくさとその場を離れる。
「さきいくよ!!学校遅れちゃう!」
振り返りざま、あっかんべーをかましてそそくさと公園を出て行く。
「ま、まてよ馬鹿!!」
芸ひとつない晴天、蒸し暑さなんて吹き飛ばすくらい、二人で笑いあったのだった。
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