EP.7 早朝の告白ターイム!

いつもより三十分も早く起きてしまった。


ペッドからのっそり起き上がって、すぐ横にある窓のカーテンをちゃっと開けてみる。梅雨明けの初夏、日が昇るのは早くて、なじみのある住宅街は、もう日光で照らされて、そばにある植物も、夏らしく、さわやかに朝露でぬらしながら、風に吹かれてなびかれている。


隣の家の窓は、既にカーテンが開かれていて、手元にもったスマホからメッセージが届いた。まだ電気もついていない、薄明かりの部屋で、スマホのメッセージをみつめる。


『美野里、起きたら、学校の準備して、いつもの公園に来てくれないか?』


きっと昨日のことだ、と思いながら、キーボードに指を滑らせた。


『わかった!十分くらいしたらつく』


スマホの画面から目を離すと、壁掛け時計が、せかすように秒針を刻んでいる。


六時十分⋯…


クーラーが蒸し暑さを消すようにがんがんかかったこの部屋を出たくないような気もしたけど、のろのろとベッドから体を引き摺り下ろして、床に足をつけた。


いつもどおり、白いワイシャツに紺のスカート、白い靴下という制定品を着て、藍色のスクールバックに筆箱などを詰め込んで、スマホ片手に部屋をでる。


またもやいつもどおりに、コーンフレークを口に運んで、静まり返った家で、一人ばたばたしながら、洗面所に向かい、はみがきをし、顔を洗い、寝癖のひどい癖っ毛の髪をとかし、カチューシャをつけ、ローファーをはいて家を飛び出した。外に出た途端、むわっと熱気があふれ出して、息苦しくなる。


なんで見た目はさわやかな夏って感じなのに、暑さだけは尋常じゃないのかなぁ⋯⋯。


なんて考えながら歩いて十分。

家と家に挟まれた道の中にある階段を少し上がっていくと、小さな公園にたどり着く。奥の方にある遊具の前で運動しているおじいちゃん以外だれもいない中、一人だけ公園のフェンスにもたれかかって、制服姿の男の子が立っていた。


「りょう!」


おーい!と手を振りながら走っていくと、りょうは眺めていたスマホから視線をはずす。


「美野里。」


眉毛を情けなくすこし下げながら、ゆったりと歩み寄ってくる。


「とりあえず、座ろうぜ」


そう歩み寄って、ちょうど横にあったベンチに誘導してくれた。木々がわさわさと揺れて、葉っぱの影はサラサラと揺れるのが心地いい。二人でそこに座ってから一息ついた後、先手はりょうがきった。


「美野里。昨日のこと、覚えてるよな」


久々のすんだ風が二人の間をすりぬけていく。


「うん。覚えてるよ。あれが夢じゃなかったことも。」

「ごめん。あのとき、なにもできなくて、美野里を怖い目にあわせて。」


真剣に、いつもなら目つきの悪いはずの三角眼が、きょうはなんだか緩やかになっている。


「いいよ、全然。それより、りょうも無事でよかった。」


にへら、と微笑んで見せてから、手からじんわりと浮き上がる汗をはらいのけた。


昨日、りょうが火事にあった。

『はず』だった。


女王様の腕に抱かれて、いつのまにか眠っちゃって、ぱって目を覚ますと、場所はいつもの自分の部屋だったんだ。


死んだはずのわたしがどうして、って思って、りょうの家にいこうとしたら、お母さんがいて、いままでどこにいってたのって叫んでも、「なにおかしいこといってるの?」「ずっとここにいたわよ」とだけいわれてさ。


そのあと、りょうに直接あって、少しだけ話したんだけど、やっぱり火事なんておきてなかったんだって。りょうのお母さんもいつもどおり家にいて、「怖い夢でもみたの?」っていわれて、お父さんだって定時にちゃんと帰ってきたそう。


「美野里はあれがなんだったのか、しってるのか?」


セミがちらほらと、どこからかなり始めている。


昨日少し話をしたとき、わたしはとうとういってしまった。

『関係あるようなことは、知っている』と。

もちろん女王様のことだけど、昨日寄り道したことは、できればりょうにはばれたくなかった。


絶対よけいなこといってくるってわかってたから!

でも、そんなこといってる場合じゃなくなってきたんだもんね。りょうまで危ないことにまきこまれたら、わたしだって嫌だもん!


「うん。本当にこれと、あの出来事がつながってるのかはよくわからないけどね。」


あついなぁ、と白いワイシャツの胸元をつかんで、仰ぎながら、晴天の空を眺めた。


「実は、昨日、電柱がわたしに落下したあと、わたし、女王さまっていう妖精にあったの。」


やけに騒がしく聞こえるせみの音と、重たい空気が流れ出た。


⋯⋯や、やっぱり、おかしいよね〜


「おかしいけど⋯…美野里がそんなこといっても違和感ないっつ一か」


あごの先に手を当てていたりょうが、開ききった三角眼をこっちに直視してくる。


なっ!?ど、どういう意味よ!?


「まず、その女王様、願いをかなえてくれる妖精界の女王様なの!」


説得しようと、できるだけ正確に、昨日や、このまえ図書館にいったことを説明した。


「⋯…それで、俺が分かれてから五分しか立ってないのに交差点で美野里とでくわしたのか。」


一通り話し終わったあと、りょうは、わたしの顔を見ないで、ただ一点、だれもいない遊具に目を向けながら、つぶやいた。


不思議な体験だった。自分で言うのもなんだけど、あんな体験、そうそうないと思ったから。


「うん。わたしもよくわからないけど、その日の朝に、こういう手紙が届いてさ」


スクールバックから、一枚の封筒を取り出して、りょうに差し出す。

眉毛を一層潜めて受け取り、中身の便箋を取り出した瞬間、真っ黒い闇のような瞳の中で星が降った。


「こ、これって⋯⋯!?」

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