EP.4 親友に疑われちゃいました!?
昨日よりかはすこし曇ってしまったけど、それでもいい天気だ。蒼い空にふわふわした雲が、ぼかんと浮かんでいる。
一番後ろの窓辺より、そしてはじっこのせきだから、窓の奥に広がる景色がみやすい、特等席なんだ。
「美野里?放課後だけど、まだ帰らないの?」
すとん、と前の席に座って、チョコレート色のボニーテールを降らした女の子が、こちらを振り返った。
「美香。ううん、もうすぐ帰ろうかなっておもってたとこ。」
「いつもよりぼーっとしてること多いけど、なんかあったの?」
心配そうに顔をのぞきこむ姿は、一人っ子のわたしにとっては、お姉さんとたとえられるだろう。
相原美香。中学時代からの親友で、ずっとクラスも一緒。幼馴染ではないけどそんな感じかもしれない。
「あっ、べつになんでもないよ〜」
まあ、本当は、昨日のあの「妖精界の女王」の本が頭から離れないからなんだけど。そんなこと、いえるはずもなく。
「そう?わたしてっきり羽柴くんとなにかあったのかと。」
「ええっ!?な、なんいきなりりょうの話ぃ!?!?」
ちらっと横目で盗み見るのは、隣の席。りょうの席だ。
かばんがもうかかってないから、帰っちゃったのかな。
「だって最近結構二人でいること多かったからさぁ」
な、なによっ。わたし、ぺつにそんなべったり虫でもないのに!
「それをいうならくっつき虫、でしょうが。」
ぱしっと頭をはたかれ、思わず苦笑いをしてしまう。
えへへ……。でもりょうのことじゃないから、心配しないで。
「ならいいけど。」
そういったものの、美香は、わたしをじーっと、そのまん丸くてまつげの長い目でみつめたあと、頬を膨らませた。
「悩みがあったらちゃんといいなさいよ。一応、わたしだって美野里の親友なんだから。」
さっきまで上がっていた眉毛はハの字になって、わたしの机にうつぶせになって顔をうずくませる。
心配、してくれてたんだ。
なんだか心臓がほわっと温かくなって、やるせなくて、ぎゅうっと抱きついた。
「わっ、み、美野里っ」
「ありがとう〜〜〜!!!わたし、美香のこと大好き。好きで好きで、本当に大好き!」
起き上がった美香のすべっすべな頬に、わたしの頬をすり寄せる。
「あたしも美野里のこと大好きだよ!まあ、告白は羽柴くんにとっておきなさい。」
「ええっ!?!?な、なんでぇ!?」
変に奇声をあげると、見回りに来た先生が、「いちゃこらするなら帰れー」と一声かけて出て行く。そんな言葉に、二人で顔を見合わせて、爆笑する。
いつのまにか、周りにいたクラスメイトも帰ってしまって、教室には美香とわたし、二人っきりになる。声がかれるまで笑ったあと、ふぅ、と息をついて、帰る支度を始めた。
「あ、美野里。今日の現代文のノート、とらせてあげる。」
ぎくぅっ
かばんに教科書やらなんやらを詰め込む動作がびたっと止まって、目をかっぴらいたまんま、叫んでしまう。
「な、なんでとれなかったことしってるの!?!?」
「プリント回したとき、全然ノートになんにもかいてなかったから。」
あ、親友も親友で観察力がえげつない人でした。はい。
ありがとうございます、と、沈んだ声でいいながら、バックに筆箱をつめこんだとき、ふと、口から言葉がでる。
「美香はさ、願いをかなえる女王がいますよ〜っていわれたらどうする?」
ただの世間話程度にいったはずだったのに、美香は固まったまま、表情すらも無だ。すこし反応をまってみると、黙っていた美香は、すっと机の上に腰をかけた。
「美野里、もしかしてそれで悩んでたの?」
んっ!?な、悩んでいたというか、空想に浸っていたというか、面白そうだなぁっておもってたというか〜
「んー……やっぱ願いをかなえてもらうのが一番じゃない?」
「わかるっ!!かなえてもらいたいもん!!」
そう食いつくと、美香は大きなビー球のような目をぱちくりさせて、「あんたは⋯⋯」と明らかに大きいため息をつく。
「で、だれにそんな話吹き込まれたわけ?」
え?吹き込まれたって?
「だからぁ!だれかに噂話みたいなものいわれて真に受けてるんじゃないの?」
あ、ちがうちがう。ただ単にそんな人いたらいいなぁとか思っちゃって。
「本当に?」
本当だよ!この純粋な目を見て?
「⋯⋯やっぱり吹き込まれたんでしょ。」
さあああ……とさめた瞳でわたしをみつめる親友に、ぶんぷんと頭を横に振った。
ま、まあ、一部事実を書き換えてる部分があるけども、吹き込まれてるわけではない。うん。断言できるもん。
「もし吹き込まれたなら、いつでもいいなさいよ?」
はぁ、とさっきよりかはやや小さいため息を一つして、困り眉のまんまはにかむ。
あ、わたし美香のその表情好きかも。
「いたっ」
なんて考えてたら、いきなり頭をはたかれ、おさえながらさっきまでのはにかみが消えた美香をじとっとみつめる。
「なんでいきなりはたくのさ?」
「現実と夢の区別、ついてないのかわかんなかったから、いちよ除霊しようかと。」
区別ついてるかわからないからってなんでわざわざ除霊を!?
全く関係ないでしょ!?
「ファンタジー好きなのはいいけど、よけいな問題には首つっこまないのよ?あんたっていつも面白いものみるとつっこみたくなるんだから⋯⋯」
「は、はあい。」
そんな生ぬるい返事をして、肩を並べて教室を出て行ったのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます