EP.2 幻想的な本でして。
自然と、吸い込まれるようにーページ目をめくってみる。
もくじとか、そういうものが一切ないそのページに目を疑った。
写真が大きく乗せられていた。金色の長く、つたのように細い、髪の毛を持った女性。
こんなにも奇麗で美しい人は、たぶん、この世に存在しないと思う。きっと、こういう人のことを「女神」っていうんじゃないのかな。
すっかりその美貌に目を奪われてしまうけど、写真の下に目線をずらせば、かすれた文字が並んでいた。
女王になるには、――ネックレスが必要。
人間が女王を呼び出す場合、人間は、何か――
女王――個の――ると、その代償に――。
ところどころ、ぬれたり、汚れたり、敗れたりして、読めるところは、少ししかない。
「ネックレス?女王?」
女王になるには……?しかも妖精界で?
隣の文章には、こう書いてある。
ある者はこういった。「女王は偉大なる存在で、人々の願いの信仰から生まれてきた」と。
ある者はこういった。「人間との――なければ、女王――の文化は断ち切れてしまう」と。
ある者はこういった。「ただちに――切らなければいけ――」と。
ある者はこういった。「我らの身は女王にあり、――の身は――り、妖情の身は――」と。
わざわざ、その文章を指でなぞった。
人々の願いの信仰……っていうことは、やっぱり、なにかあの手紙とかかわっているということなのかな。
だとしたら……本当に願いをかなえてくれるの!?
「女王様。女王様!わたしの願い、きいてくれますか?」
しーん。
重苦しい空気がどんよりと流れ始め、血がどんどんと顔に上ってくる。
ああぁぁぁぁぁぁっ。わたしー人しかいないけど、余計な恥をかいちゃったあああああ!!!
と、とにかく、まだわからないし調べなきゃ。
そう思って次のページをめくると、指先がぴくっと、痙攣のように反応した。半分ねかかっているときに、なんにもされてないのにびくっとしちゃうような、あの感覚。
「え……?」
気がつくと、もう本も、本棚も、あの図書館もなく、わたしは、町の交差点前に突っ立っていた。
ん?え?どういうこと?
パニック状態になっているわたしをよそに、車は目の前でびゅんぴゅんとつっぱしっていく。
ついさっきのことが、なぜだか、夢みたいで。
妖精界。願いをかなえてくれる女王。人々の願いの信仰から生まれてきた、偉大な存在。
本で知った言葉だけは、ぽんぽんと、息を吐くようにでてくるもんだから、余計に混乱する。
「……夢?幻?」
つぶやいても、現実味は程遠くかけはなれていく。
なんで、なんで、どこのだれかもしらない人が、わたしをあんなところに連れて行って、幻みたいに帰ってきたの?
手紙の内容、たしか
『願う貴方を私は此処で待っている。願う貴方を私は今も待っている。願う貴方を私はこの先も待ち望んでいる。』
だったよね。
今のを考えると完全に手紙の中の「私」が本になるんだけど⋯⋯!?
わたし、てっきりそこに行けば願いをかなえる神様でもいるんだと思ったんだけど!え、本当にどうなってるの!?!?
「は、美野里!?」
仰天したような上ずった声が背後で聞こえて、思わず振り返る。
「りょ、りょう!」
「おまっ、なんでここに!?」
わたしこそなんでここに!だよ!
「意味わかんねぇ。だから、なんで五分前まで反対方向に走っていった美野里が、この交差点にいるんだって話!!」
がつんと怒鳴られ、身をたじろいでしまう。
「いやいや、わたしだって、わけわかんないよ!」
だって、こんなに素直でいい子なわたしが図書館までいってあげたのに、追い返されるっておかしくない!?
「は?なに、図書館にいったのか?」
すっかりぽかんとするりょうに「しまった」と口元を手で覆い隠す。
まずい。そういえばわたし、りょうには嘘ついてたんだった!!
「え、ええっと、なんかお使いの間に図書館いってみよー!って思ったら道迷っちゃって〜。私って馬鹿だよね〜」
あははぁ、とから笑いをした直後、交差点で点滅を繰り返す信号にぎょっとする。
あー!!りょうから逃げるいいタイミングだったのに信号逃したーー!!
「美野里、いいから一旦落ち着け。深呼吸だ、深呼吸」
お、落ち着けるわけないでしょ!こんな状況で!
ってだめだめ。りょうにはいっちゃいけないんだった。
いわれたとおり大きく息をすってはいて、すぐにむせてしまう。
思いっきり走りぬけたトラックから出たガソリンが、ちょうど器官につまった。
「ごほっ、あのっ、わ、わたし、ちゃんと行く場所にはいったし、ごほっ、五分以上はかかったと⋯⋯⋯思うんだけど」
「とりあえず落ち着いて⋯⋯はぁ」
短い髪を乱暴にかきむしって、ため息をつく。
「な、なによ?」
「うち、来るか?そっちのほうが落ち着けるだろ」
にやりと不適に笑ってみせる姿が、普通の男子高校生から悪魔へと一変する。
ぜ、絶対尋問する気だ!!うわあ、やり方が汚い!!
「素直に質問に答えない美野里が悪いんだ!」
がつんと一言怒鳴られて、ぐうの字もでない。
ま、まあたしかに、隠してるわたしがわるうございますけども。けどもね?絶対いったら、数十倍の怒りになって返ってきそうだからいいたくないのおおお!!!
「た、タンマ!!ちょ、ちょっと落ち着きましょ?りょ、りょうさ――」
「落ち着くのは美野里のほうだ!!」
ほらいくぞ、と半強制的に腕をつかまれ、交差点をわたっていく。
お、おのれえええええ!!!羽柴涼ううううううううううううっ!!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます