第一章 女子高生も歩けば棒に当たる
EP.1 バレなきゃ犯罪じゃありません!きっと!
どなたか……。
どなたかこの中に、わたしを救ってくださる方はいらっしゃいませんでしょうか?!
ばれなきゃ犯罪じゃないっていう言葉があるけど、あれって、結局「ばれたら犯罪」確定っていえるよね!?
だれか、だれかこの状況の打開策みつけてええええええええ!!!!
「美野里?うちの高校、寄り道禁止なはずだけど?」
さっぱりと短く、飾り気のないその黒い髪が、住宅街を吹きぬける乾いた風に揺らされる。いつもどおりの黒いTシャツを着て、いつもどおりのデニムのジーパンを履いた、いつもどおりの幼馴染の姿が、そこにあった。
「りょ、涼さん!?なっ、なんでここに!」
「なんでって、買い物だけど。」
手にしたスーパーの袋をちらつかせながら、大きくてきりっとした三角眼がもっと細くなった。
いやいやいや、タイミングよすぎない!?しかもここ、あんまり通らない道だよね!?
「そういう美野里だって、帰り道で通らないような道になんでいるんだ?」
……なんとなく。
「絶対なんか隠してるな。」
か、隠してない隠してない!!
頭脳明晰で学年トップツー、クールビューティーで、幼馴染の羽柴涼さんに隠し事だなんて、そんな馬鹿なことしませんって〜
「元気はつらつで、素直かつ馬鹿正直な、幼馴染の秋川美野里さんが、そんなわかりやすい嘘言うわけあるじゃないですか〜」
だから嘘じゃないって!!
しかも今のほめてるのかほめてないのかよくわかんないし!
「褒めてない」
「即答やめてよっ」
早口にまくし立てたからか、ぜえぜえと、息が荒くなる。
いや、けどね、けどですね!?
この寄り道もどき、りょうにいったら絶対馬鹿にされるっていうか、なんていうか⋯⋯⋯。
とにかく避けたいんです!この過保護な幼馴染を!
「ともかく、わたし寄り道してるつもりはなくて」
梅雨明けの季節のせいか、からっとしすぎて、喉も乾くし、汗が首筋からじんわりと浮き出て止まらない。
「じゃあさっきまで地図みたいなの見てなにしてたっていうんだよ?」
「うっ!」
ば、ばれてらっしゃる……今、背中に隠してるつもりだったんだけどなぁ。
「よ、寄り道、ではなくて、わたしもお母さんにおつかいたのまれてるんだよ!!」
「そんなふうには見えないが?」
「ぎゃあああああっ!」
ち、近っ!あの、顔!顔が近すぎる!!
そんな、眉間にしわを寄せて目をかっぴらかないで!!怖い!!カラスみたい!!
「美野里さん?あなたはどうしてここにいるのですか?」
あわわわ⋯……!近すぎるっていってるじゃん!今この状況で正しい判断ができるとでも!?
「ま、まずわたしは本当にお母さんのおつかいにいってるの!!」
やけくそになって、手に持っていたマップをばっと見せて、すぐにかばんにしまいこむ。
「だから、りょうは心配しなくても大丈夫だから!」
早口にそうまくしたてて、そそくさとりょうから逃げるように横切る。
ある意味、この件はおつかいっぽい要素もあるわけだし、間違ったことはいってないはず!
「おい、美野里!」
ずんずんと住宅街を進んでいく途中、呼ばれたような気がしたけど、さっきの顔の近さといい、なんといい、頭の中がぐちゃぐちゃになって走り出す。
くっ。こんなところで乙女乙女してる場合じゃないのに!
走って走って、住宅街を抜けて、ちょっとした小さ公園の前まできて、やっと足を止めた。
「はぁ⋯⋯はぁ」
息が切れる、とまではいかなかったけど、この一週間で記録更新なくらい走ったかもしれないや。
まあそんなことどうでもよくて、問題はこの地図……。
かばんをあさりにあさって、四つ折りにされた紙きれを手にとって、慎重に広げていく。
そこに書かれたものは、簡単な地図だ。わたしの家が紙の下の右端に書かれていて、地図の上の左端には、「森林図書館」というところに赤い丸がつけられている、そんな地図。
宝の地図みたいでしょ?わたし、こういう冒険みたいなのファンタジーっぽくて、なんか好きなんだぁ。
うん、そんなほのぼのする時間があるんだったら、早く行けって話だよね!
現在地は⋯⋯赤で記されたところから結構近いところだ。もうすぐ着くはず。
「よし!がんばろう!!」
そうこうして、歩き始めたのが数十分前。
今はというと、ただただ呆然と立ち尽くしています。
「こんなところ、本当にあったっけ⋯⋯?」
ぽつりとつぶやくその言葉さえも、吸い込まれそうなくらい、不思議な感じだった。
テーマパークの入り口なようなゲートが目の前に聳え立つ、そんな村の玄関にたどり着いた。村全体は、真っ赤な大きいお花が植えられた花壇で囲まれているみたい。
今自分がたっている場所と、一歩前の村とでは、なにか境界線が引かれたみたいな、おかしな感覚。
すぐさま、そのゲートに足を踏み入れると、一瞬にして、時代ががらりと変わる。
木造建築の家がたくさん並んでいる住宅街。うっそうとした枯れ木の並木道。だれもいない寂れたお店。
そんな中、足を止めた場所は、ひときわ目立った、高くて、ぼろくて、古い、色褪せた木造の建築物。
[森林図書館]って、彫られてるし、地図の記された場所で間違ってないみたい。
「誰かいませんかー?」
うーん、ノックしても返事がないね。どうしよう。
入っていいのかな?え、不法侵入とかで捕まったりしない!?
一旦周囲の家をのぞきに行ったものの、どこもがらんとしていて、人気がない。いや、まず、この村全体が、なんだか静かで、どこかしもにも人がいなかった。
ということは⋯⋯廃村?
なら、勝手に入っても大丈夫……なのかな。
ひとまずもう一度ノックをして、古い扉を開けた。
「失礼しまーす……」
つーんと鼻に挨特有のにおいが反応する。部屋の中は、ただただ本だけの部屋で、その本ですら、全部埃を被っていそうな、とにかく長年使われていそうになかった。
「誰か、いますか?」
かつかつと、ローファーの音も鮮明に聞こえるほど、静まり返ってるせいか、ちょっと怖くなる。
「いいのかな⋯⋯?」
といいつつも、完全に入ってしまっているこの部屋は、なんというか、アンティーク調な、そんな円形の図書館だった。
高い高い天井まで壁一面に本がぎっしりつまっていて、その本をとる用なのか、スローブが二、三段壁に沿って入り組まれている。
部屋の中心には、大きな丸い机が一個、置かれていて、それこそアンティークな背もたれつきの長いすが丁寧に並べられていた。
「ええっと……」
がさごそと、また、鞄に手を突っ込んでかき回し、真っ白い封筒を手に取る。封筒から丁寧に取り出した紙を広げると、流水のような筆記字体で、文字が並んでいた。
願う貴方を私は此処で待っている。
願う貴方を私は今も待っている。
願う貴方を私はこの先も待ち望んでいる。
この手紙が届いたのは、今朝。わたしが朝ごはんを食べていたときに、お母さんが私宛に手紙があるといって渡されたもの。
でも、わたしは見覚えがなかったし、この文を見たときも、だれが書いたなんてわからなかった。
一般ピーポーの方々は、こんなのいたずらだろっていって捨てちゃうと思うんだけど。いや、まあわたしも一般ピーポーだけどさ!
「なんか面白そうじゃんっ!」
おお!すごい!高さも十分あるからかすごい反響する〜!
ってそういうことじゃなくて!
わたし、自分で言っちゃなんだけど、すごく、すごおく、ファンタジー大好きなんだよ!
知らない人から手紙、なんて不審者とか危険なんじゃない?っていわれるかもだけど、そんな不安より先に好奇心が勝っちゃう。
だから、わたしと真反対、ファンタジーに全く興味のないりょうには、全力で止められるし、変にこじれそうだから、いいたくなかったの。
まあ、わたしにも危機感がなかったわけじゃないんだよ?
放課後、危ないから行かないでおこうと、きめたはずなのに、知らない間に体が勝手に動いていたわけ。だからこうしてきたわけよ。
とはいったものの、ここにはだれもいないみたい。人気すらもないし。
なんとなく近寄っていった丸机に手をかけて、その上に散らばった本のほこりを払ってみる。
「……ん?」
本が机いっぱいに積み上げられていたから、気づこうにも気づかなかった、この異様な物体。
一瞬目を疑ってしまった。
だって、本が、冷凍保存されてるみたいに氷に包まれているなんて!
手にとってみるけど、やっぱり氷そのもので、触れた指先に、ひんやりと冷気が伝う。
「これが…⋯本なの?」
よくわからず、ぼーっと、その凍った本をみつめていた。
壁の壮大なステンドガラスから、初夏の優しげな日差しが差し込んできた。
日光……氷……。
「あっ、そうだ!」
駆け足でステンドガラスの壁へと近寄って、ちょうど日光が当たる場所に本を置く。
うん、すごい異様だね。異様だけど、順調に溶けてってるみたいだし、このまんま待っておこう!
にしても、本が冷凍保存なんて聞いたことないよ。誰かのイタズラかな?それか商品開発しようとしてたのかな?
「お!!溶けた!」
水滴を近くにあった紙で拭き取り、表紙を覗き込む。
「ええっと……」
『妖精界の女王』
そう書かれていた。
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