第48話 ハーディスの参加理由


「という訳なのですけど」


 ハーディスは先ほど見聞きしたことを簡単にルマンとブラウンに説明する。

 三人は城の一室に集まり、膝を突き合わせていた。


「面倒なことになりそうだな」

「また昨年のようにラム・ハーゲンの怒りを買えば今度は死人が出るかもしれません」


 ブラウンとルマンは深刻な面持ちで言った。


 ハーディスは自分の元婚約者が面倒事を引き起こそうとしている状況に頭を抱えた。


「とにかく、彼らよりも早くラム・ハーゲンを見つけ出し、杖を回収しなければなりませんね」


 ルマンの言葉にハーディスは頷く。


 本当に頭の痛い話だ。


 ノバンは自身の見栄のために兄の力を借りてでもラム・ハーゲンを仕留めようとしている。


 アスクレーの話によれば、昨年もラム・ハーゲンに遭遇した参加者がラム・ハーゲンを狙い、怒りを買った。


 アスクレーは杖を差し出し、参加者の記憶を消し、口外しなかったことでこの事件が世間に広まることはなかった。


「参加者の記憶は消したはずなのに何故、ラム・ハーゲンのことを覚えている奴がいるんだ?」


「もしかしたら、記憶を消すのではなく捏造したのではないでしょうか? あるいは両方の力があるのかもしれない」


 ブラウンの疑問にルマンが憶測で答える。

 何せラム・ハーゲンについては不明な点が多すぎる。


 こちらも心して挑まなければならないというのに、余計な横槍が入ろうとしているのだ。


 ハーディスはズキズキと痛みだしたこめかみを押さえながら溜息をついた。

 先日から溜息が止まらない。


 全く……余計なことをしてくれる人ですね。


 一瞬、ラム・ハーゲンに痛めつけれて己の愚かさを反省してもらえば良いのでは? とも考えたが、反省する間もなく息絶えてしまえば意味がない。


 死んで欲しいわけではないのでハーディスは自分の残酷な思考を頭を振って掻き消した。


「とにかく、先回りが必要だな。ハーディス、俺達は他の参加者達よりも一足早く森に入ることにしよう」


「そうですね。恐らくですが、ノバン達はラム・ハーゲンの生態や出現場所など細かなことまでは知らない様子でした。私達は思い当たる場所に先回りしましょう」


 何としてあの兄弟よりも先にラム・ハーゲンを見つけなければならない。


「お二人共頼みましたよ」


 少し申し訳なさそうな表情でルマンが言う。


「任せておけ。お前はアスクレー様を頼んだぞ」


 ルマンはアスクレーに付いていなければならないので森には同行できない。


 その代わりに狩猟大会の準備や必要な手配などはほとんどルマンが行ってくれたのでブラウンとハーディスはラム・ハーゲンに集中できる。


 何としてもあの兄弟よりも先にラム・ハーゲンを見つけなければ……。


 でも見つけられなかったら? いいえ、見つけられなかった時のことを考えるよりも見つけ出すことに心血を注ぎましょう。


 それにアマーリアの前で良い格好をしたいノバンの思惑を打ち破りたい!


 アスクレーのためだけではなく、私情も含めた戦いである。

 明日を目前にハーディスの中で不安を差し置いて闘争心のようなものがメラメラと燃え上がっていた。


「そういえば、ハーディス様。前夜祭の衣装が仕上がりましたので袖を通して下さいませんか?」







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